原爆と竹槍10話
「そうだ、橋の下だ」
「橋の下?」
「そうだよ、橋の下なら火を炊いても火事にならないし、敵機に見つからないから安全だ。でも、大きな橋の下は爆破される恐れがあるが、小さな橋の下ならその心配はない。その上、煮炊きに必要な水があるから、一夜の宿とするには最適だと思う。また、町は空爆の恐れがあるから、町の中の橋はだめだよ」
その時、鈴子が食べていたのもを、これと差し出した。
「さつま芋が欲しいの?」
雪が尋ねたとき、明が言った。
「鈴子は、お利口さんだね」
と言って、鈴子の頭を撫でた。
「何がお利口さんなの?」
「ご飯が炊けない場合は、さつま芋を食べればいいんだ。そして、生のさつま芋は一ヶ月たっても腐らないから、往復に何十日かかっても、安心して食べられるよ」
「そうね、母さんと鈴子はさつま芋が大好きだから、さつま芋を持ってゆきます。そして、私が帰ってくるまでの間、あなたが食べるさつま芋も掘りましょう」
「そうしょう」
雪と明は、まだ、大きくなっていないさつま芋を堀り、荷車に乗せた。
「あなた、鈴子を抱いて、荷車に乗ってください」
雪が明に言った。
「乗れないよ」
明が尻込みをする。
「何時も乗っているのに、なぜ、断るの?」
雪が不思議そうに尋ねた。
「明日から雪は、大変な旅をしなくてはならないのだ。出来るだけ、体力の消耗を避けないといけないから、僕は歩くよ」
雪は夫の愛のある思いやりの言葉に涙したが、それが明に分からないように、背を向けて言った。
「大丈夫だから、さあ、乗ってください」
雪に急かされ、明と鈴子が荷車に乗った。
家に帰り着くと、明は、雪が乗って行く自転車のタイヤ、チューブを新しい品と取り替え、鈴子を乗せる小さな椅子をハンドルの後ろに取り付けた。
その間、雪は郵便局へ行き、母親に迎えに行くと、電報をうった。
そして、家に帰ってくると、自分が旅に出ている間、身体の不自由しないよう、防空壕に水や食料を運び入れた。