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6話 縁は続く

 これで、天城さんに俺の料理を食べてもらうのは二度目。

 妙な縁が続いている。


 でも、それもここまで。

 これ以上、こんな偶然は続かないだろう。


 そんなことを思いつつ、俺も自分の弁当を食べる。


 うまくできたはずなのだけど……

 どこか物足りない感じがした。


「高槻君は、本当に料理が上手なんですね」

「ありがとう」

「魚のフライやちくわの磯辺揚げ、どうして既製品を使わないんですか? もしかして、自分で作る方が美味しくできるから、とか?」

「あ、いや。そういうわけじゃないんだけど……」


 最近の冷凍食品は、ものすごくクオリティが高い。

 下手に素人が作るよりも、万倍も美味しいものができる。


 それに調理も簡単で、使いやすい。

 弁当に使うのなら、これ以上ないほど最適な品なんだけど……


「単純に、料理が好きなんだ」

「え?」

「冷凍食品を使うと、その分、自分で作れなくなるだろう? それが嫌で……せっかくだから、全部、自分で作りたいな、って」

「……」


 天城さんは目を大きくして、


「ふふ」


 次いで、くすりと笑う。


「料理が上手なだけではなくて、とても好きなんですね」

「ものすごく」

「わ、即答されました。しかも、力強い断言」

「それくらい好きなんだ」

「いいですね。そこまで好きと言えるものがあるなんて、羨ましいです」

「趣味みたいなものだけどね。天城さんは、そういうものはないの?」

「私は、その……食べることでしょうか」


 恥ずかしそうに頬を染めていた。


 『聖女様』としては、想像もできないような答えだけど……

 でも、『天城瑠衣』としては、わりと納得できる答えだ。


「うぅ……変な趣味ですよね。食べることを楽しみにしているなんて」

「いいんじゃない?」

「え」

「グルメツアーなんてものもあるくらいだし、食べることが趣味でも、ぜんぜん良いと思う。というか、天城さんみたいな人がいてくれるから、俺のような料理が趣味の人は、喜んで調理できるわけだし」

「……高槻君……」


 意外そうな顔。

 ほどなくして、その表情は柔らかいものに変わる。


「ありがとうございます。私……こんなことを言うと、すごく驚かれて、絶対に否定されると思っていました」

「銃マニアとか言われたら、さすがに驚いていたけど……グルメなんて、ぜんぜん普通の趣味じゃないかな?」

「……普通……」

「いいと思うよ、俺は」

「……ありがとうございます」


 なぜか感慨深そうに、天城さんはゆっくりと頷いた。


 俺の言葉が、どこか心に刺さったみたいだけど……

 そんな大したことは言っていないよな?


「……あの」


 弁当を食べ終えたところで、天城さんが恐る恐る言う。


「高槻君にお願いがあるんですけど……」

「お願い?」

「私に料理を教えてもらえませんか?」

「え」

「また、こんなに美味しい料理を食べてみたくて。自分で作れるのなら、すごくいいと思いました」

「それは……うん、いいと思うけど」


 けど。


 昨日見た、天城さんの部屋のキッチンの惨状を思い返した。

 ついでに、嵐に襲われたかのように部屋が荒れていたことも思い返した。


 不安だ。

 ものすごく不安だ。

 いつか、隣から火災報知器が鳴るような気がする。


 かなり失礼なことを考えているけど、でも、否定するだけの材料がない。


「あー……よかったら、また弁当を作ってこようか?」


 妥協案として、そんなことを口にした。


「えっ、いいんですか?」

「いいよ。それほど手間じゃないし、そもそも、料理は好きだから」

「えっと……」


 素直に甘えていいものか?

 冷静に考えて断るべきでは?


 ……なんていう感じで、天城さんが迷っているのがわかる。


 ただ、最終的に弁当の誘惑に負けたらしく、


「……お願いしてもいいですか?」


 期待に満ちた瞳をしつつ、わくわくとした様子で問いかけてきた。


「了解。じゃあ、いつから……」

「できれば明日からがいいです! それと、可能なら毎日!」

「あ、うん……オッケー」


 ものすごい熱意だった。

 俺の作る弁当は、なにか変なものでも入っているのだろうか?

 自分で作っておいて、妙な疑いを持ってしまう。


「ありがとうございます」

「いいよ」

「えへへ、楽しみです♪」


 にっこりと笑う天城さん。

 その笑顔は、太陽のように輝いていて……


 妙なことになったけど、これはこれでいいか、と思わせてくれるのだった。

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