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4話 不思議な人

 私の名前は、天城瑠衣。


 どこにでもいるような、なんてことのない女子高生……

 だと思っているのだけど、周囲からは、なぜか『聖女様』と呼ばれています。


 綺麗で。

 優しくて。

 なんでもできて。


 そんな風に思われているらしく、それ故に『聖女様』らしい。


 正直なところ、そう言われてもピンときません。


 私は私。

 天城瑠衣。

 決して、『聖女様』ではない。


 ただ、周囲はそう思ってくれないらしく……

 私の意識と周囲のギャップに、多少、疲れてしまう時があります。


 皆に思われているほど、私は聖人君子というわけではない。

 なんでもできるわけではない。


 そのいい例が料理だ。


 なにがおかしいのか。

 なにを間違えているのか。


 きちんとレシピを見て、手順通りに作業をしているはずなのに、いつも料理は大失敗。

 キッチンを見るも無惨な姿に変えてしまう。


 本当、なぜなのでしょう……?


 正直、これは辛いです。


 私は食べることが好き。

 美味しい料理をたくさん食べたい。

 甘いスイーツをたくさん食べたい。

 できることなら、ずっとずっと色々なものを食べていたい。


 そんなことを思うくらいの食いしん坊、という自覚はありました。


 まあ。

 食いしん坊であると同時に女でもあるので。

 ダメなラインは超えないように自制したり、食べた後はきちんと運動をしたり、色々とがんばってはいますが。


 そんな性格なので、自然と料理に興味を持ちました。


 料理ができるようになれば、美味しいものを作りたい放題!

 甘いスイーツも作りたい放題!

 なんて素晴らしいのでしょう。


 ただ……


 残念ながら、私は料理の才能がなかったみたいです。

 作るもの全て黒焦げ。

 あるいは、原型を留めていない謎の物体。


 情けない……

 というか、悲しいです。


 自分で好きなものを作って好きなだけ食べるという、夢の計画が……


 でも、そうそう簡単に諦めることはできず。

 時々、練習をしていました。


 そんなある日のこと。


 盛大に失敗をしてしまい。

 動けないほど空腹になってしまい。


 あぁ……私の人生、ここで終わりなんですね。

 最後にいっぱい、お肉をたくさん食べたかった……


 なんて思った時、クラスメイトの高槻君に助けられました。


 高槻君とは親しいわけではなくて、朝や放課後、挨拶を交わす程度。

 それだけ。


 そんな彼に助けてもらうというのは、どこか不思議な感じがして……

 人の縁とはこういう風に紡がれていくものか、と妙な感心をしました。


 もう一つ。

 彼の作る料理に感心……というか、感動しました。


 美味しい。

 すごく美味しい。

 ものすごく美味しい。


 一見すると、ただの野菜炒め。

 でも、どこにでもあるような味ではなくて、唯一無二のもの。


 やや濃い目ではあるものの、だからこそご飯が進む。

 野菜はシャキシャキとした食感を残しつつ、旨味、甘味がしっかりと引き出されている。

 たぶん、調味料をかけなくても、これだけでも美味しいと思う。


 こんなに美味しい野菜炒め……

 というか、料理は食べたことがありません。


 美味しくて、家庭的で、優しい味がして……

 すっかり魅了されてしまった私は、男子の前ということを忘れて、一気に食べてしまいました。

 恥ずかしい……


 その後、事情を説明して。

 高槻君がお隣さんということが判明して。


 それから、今回のことは黙っていてほしいとお願いしました。


 『聖女様』と呼ばれているものの……

 でも、それ以前に私も女。

 見栄の一つや二つ、あります。


 ただ、そういうマイナス面を表に出すのは初めてのこと。

 なんだかんだ、外見を気にしていました。


 高槻君はどう思うだろうか?


 がっかりする?

 それとも、他の人に言いふらす?


 結果は……


 心配していたことはなくて、黙っていることを約束してくれました。

 それだけじゃなくて、見栄を張るくらい普通のことと、さらりと流してくれました。


 その言葉を聞いた時。

 なんとなく……

 本当になんとなくですが、高槻君は、私を『聖女様』ではなくて『天城瑠衣』として見てくれているような気がしました。


 聖人君子で高潔な人物ではなくて。

 見栄を張りたくなるような、どこにでもいるような女の子なんだよ……って。


「いったい……どんな人なんでしょう?」

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