18話 もしかして?
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
昼休み。
いつものように中庭に移動して、天城さんと一緒に弁当を食べる。
最初は戸惑いしかなかったけど……うん。
最近は、わりと慣れてきたような気がした。
『聖女様』と呼ばれて、男女問わず慕われている圧倒的な人気者。
高嶺の花すぎる存在で、声をかけることさえためらわれてしまう。
……なんてことを思っていたのだけど、それは俺の勘違い。
実は、わりと気さくで。
それと、想像もつかないほどの食いしん坊さん。
そんなところに親しみを覚えて、今では普通に接していた。
「ふふ、今日のお弁当はなんでしょう」
「今日は新作に挑戦してみたんだ」
「え? 新作ですか!?」
天城さんの目がキラキラと輝いた。
そして、にこにこ笑顔で弁当を開ける。
「……お米だけ?」
「ふっふっふ。これをかけてみて」
隠し持っていた水筒を渡した。
天城さんは不思議そうにしつつ、水筒の中身をかける。
「これは……カレー!?」
「そう。こういうのも、たまにはいいかな、って」
「はい、はい! いいですね、とてもいいですね! 素敵です♪」
すごい食いつきようだ。
「弁当にするようなものじゃないから、普通に作るよりは、どうしても味は落ちるけどね」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。んーーー……この味、素晴らしいですね♪ ごはんは冷めているけれど、それを見越した上でルーを調整しているんですよね? 冷めても美味しいカレーになっていて……はぁ、とても美味しいです」
「よかった、喜んでもらえて」
「こんなの絶対に喜ぶに決まっているじゃないですか」
天城さんは、とても幸せそうにカレーを食べる。
これだけ喜んでもらえると、本当、作った甲斐があるというものだ。
「あ、いたいた」
「ね? 最近、ここにいるでしょう?」
クラスメイトの女子達がやってきた。
「やっほー、天城さん」
「あれ? どうかしたんですか?」
「ちょっと聞きたいことがあって……」
「そうそう、聞きたいこと♪」
にひひ、と妙な笑いをしつつ、女子達がこちらを見る。
「やっぱり、今日も高槻君と一緒だったんだね」
「やっぱり、って……もしかして噂になっているんですか?」
「もちろん。あの天城さんが、特定の男子と一緒に昼を過ごしている……噂にならないわけないっしょ」
「で? で? 高槻君と付き合っているの?」
「つ……!?」
天城さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「そ、そういう関係ではありません!」
「えっ、そうなの?」
「最近、いつも昼を一緒にしているから、てっきり……」
女子達は拍子抜けした様子だ。
どうやら、噂の真偽を確認しにきたらしい。
「ねえねえ、高槻君。天城さんはああ言っているけど、本当のところはどうなの?」
今度は、俺にターゲットを定めてくる。
「本当もなにも、天城さんが言った通りだよ」
「えー、マジで?」
「いつも昼を一緒しているのに?」
「それはそうだけど、でも、違うよ。俺と天城さんは、ただの友達だから」
「……むぅ」
なぜか天城さんが不服そうだ。
どうしたのだろう?
俺は、誤解を解こうとしただけなのに……
「天城さんが男子の友達を作るなんて、珍しいね」
「っていうか、初めてじゃない?」
「えっと……はい。そうかもしれないですね」
「ってことは、天城さんの方が高槻君を……?」
「マジ?」
「そ、そそそっ、そんなことは……!」
天城さん、落ち着いて。
からかわれて焦っているのかもしれないけど、そんな反応を見せたら、ますますからかわれてしまう。
「ところで二人は、それを確かめるために?」
「そそ。天城さんに彼氏ができたとなれば、一大事だからね」
「あ、でもでも、隠したいなら黙っておくよ。秘密を言いふらすような趣味はないし」
「だから、そういう関係じゃないよ」
「……むぅ」
天城さんの反応が気になる。
「とかいって、天城さん、なんか不服そうだけど?」
「えっ」
「天城さんはもしかして、っていう感じ?」
「えっと……私、そういう感じになっていたんですか?」
「え、自覚していないの?」
「それは……はい」
「ほうほう」
「ふーん」
女子二人は、なにか察した様子で、ニヤニヤとした表情に。
どういうことだろう?
「これは、私達があれこれ、ちょっかいかけない方がいいね」
「だねー。ゆっくりかもしれないけど、ここは、本人達に任せた方がよさげ」
「「???」」
天城さんと一緒になって首を傾げた。
「じゃ、またねー」
「今度、どこか寄り道してお話しようねー」
女子二人は、にっこり笑顔で立ち去る。
俺と天城さんは、ぽかーんとしつつ、それを見送ることしかできないのだった。