17話 自然と思い浮かべるのは
家に帰り。
制服を着替えて。
くつろげる姿になったところで、ベッドの上に。
「……」
仰向けに寝て。
なんとなく、近くに置いてある枕を抱きしめて。
「ふぅ」
自然と吐息がこぼれました。
憂鬱なものではなくて。
悩ましげなものでもなくて。
どこか熱っぽい。
ぽーっとした感じの吐息。
「今日は……楽しかったですね。ふふ」
思い返すのは、放課後、高槻君と寄り道をした時のこと。
子供のようにはしゃいでパンケーキを食べて。
でも、高槻君はそんな私を否定しないで、むしろ肯定してくれて。
それから、色々なことを話して……
「また……高槻君とどこかに行きたいな」
自然とそんなことを思う。
それくらい、彼と一緒に過ごした時間は楽しくて。
それと……
とても心地良い。
「……本当、不思議な人」
一見すると、どこにでもいるような男子。
事実……というか。
とても申しわけないことなのだけど、高槻君の名前も。
隣に住んでいるということも。
ぜんぜん、なにも知りませんでした。
ただ、ごはんを通して接点ができて。
彼と接するようになってから、高槻君のことを理解できるようになって……
他の男子とぜんぜん違うことも理解した。
どこにでもいるようで。
でも、どこにでもいない。
少なくとも、高槻君のような同年代の男子は見たことがありません。
料理が上手で。
落ち着いていて。
それと……すごく優しい。
自称、優しいとか。
誰にでも甘い顔をするとか。
そういうのではなくて……
「うーん……なんていうか、そっと隣に寄り添ってくれていて。見守ってくれていて……いざという時は、すぐに手を差し伸べてくれるような……本当の意味で『優しい』人なんですよね」
だからこそ、高槻君と一緒にいると心地よくて、安らぐのかもしれません。
「……っ……」
ぎゅっと、枕を強く抱きしめました。
「うぅ……なんでしょうね、これ。最近、ちょっと調子が……」
落ち着かないというか。
集中力がないというか。
……胸がドキドキするというか。
最近の私は、私でないような気がするというか……
妙な感覚に囚われてしまうことが多いです。
なんでしょう、これは?
「……気にしても仕方ありませんね」
わからないことを考えてもどうしようもありません。
こういう時は、深く気にしないこと。
切り替えが大事です。
「明日は……大丈夫でしょうか?」
ついつい嫌なことを思い出してしまいます。
一つ上の先輩。
私について身勝手な見解を押しつけてきて……
あろうことか、高槻君にまで見当違いの文句をつける始末。
なんて失礼な人でしょうか。
あまりに無礼すぎて、頭に血が上り……
はて?
その後、なにか言ったような気がするのだけど、なにを言ったのか覚えていません。
怒りに任せて、如月先輩を否定するようなことを口にしたような?
「……まあ、あんな人、どうでもいいですね」
嫌な人のことをいつまでも覚えている必要なんてありません。
さっさと忘れましょう。
記憶のリソースの無駄です。
「それよりも……ふふ。早く明日になってほしいですね」
明日になれば、高槻君と会うことができる。
それと、彼が作る絶品のお弁当も……
「……早く明日になーれ」