15話 ごめんなさい
「ごめんなさい……!」
次の休み時間。
天城さんに呼ばれ、人気のない廊下に移動したところで頭を下げられてしまう。
え?
どういうこと?
「私のせいで、高槻君に不快な思いをさせてしまって……」
「不快?」
「その……あの、よくわからない先輩が高槻君に失礼なことばかり……」
「あ、そのことか」
突然、謝罪をされたから、なんのことだろうと驚いた。
「あれは天城さんのせいじゃないよ」
「ですが、そういうわけには……」
「周りが勝手に騒いだだけ。そのことで天城さんを責めるのは、筋違いだから」
「……高槻君……」
「俺は気にしていないよ。だから、天城さんも気にしないで」
「……」
なぜか、天城さんは目を大きくして驚いていた。
驚くようなことを言っただろうか?
「……怒らないんですか?」
「怒る理由がないよ」
「私なら怒りますよ?」
「俺なら怒らないかな」
「……ふふ」
笑みがこぼれた。
鈴が鳴るような感じで……
心地よく、そして、とても綺麗な声だ。
「高槻君って、変わっているんですね」
「そう……かな?」
「はい、とても。少なくとも、今まで私の周りにはいなかったタイプです」
光栄と思うべきなのか。
それとも、残念に思うべきなのか。
迷うところだ。
「高槻君の好意に甘えて、謝罪は止めにしますね」
「そうしてくれると」
「ただ、迷惑をかけてしまったことは事実なので、その補填というか、お詫びをしたいのですが」
「それも気にしなくていいんだけど」
「ものすごく大きなお詫びをする、というわけではありませんから。えっと……今日の放課後、時間はありますか?」
「えっと……大丈夫」
今日の予定を思い返してから頷いた。
「でしたら、放課後、高槻君の時間を少しいただけませんか?」
「いいけど、なにを?」
「デートをしましょう♪」
――――――――――
そして放課後。
俺と天城さんは、学校帰り、駅前の商店街の一角にある喫茶店に立ち寄る。
「へぇ」
不思議な雰囲気のする喫茶店だ。
こういうの、昭和レトロっていうんだっけ?
洗練されたデザインではない。
やや無骨で、無駄なものが多いと感じる。
でも、それが良い。
妙な味を感じることができて、独特の心地いい雰囲気が形成されていた。
「ここは、いわゆる隠れ家的な名店なんですよ」
「そこそこしそうだけど、本当にいいの?」
「はい。これくらいはさせてください」
お詫びとして、喫茶店で奢ってもらえることになったのだけど……
いいのだろうか?
いや、いいか。
ここまで言ってくれているんだ。
素直に好意は受け止めよう。
それに、天城さんも気にしているみたいだから、ここで拒絶する方が失礼だろう。
向かい合うようにして席についた。
それからメニューを開く。
「うーん……」
ドリンクはコーヒーが数種類と、紅茶がホットとアイスの二択。
それと、いくらかのジュース。
軽食もあり、スイーツもある。
わりとメニューが豊富で、なにを頼んでいいかわからない。
「ここのオススメは、パンケーキですよ」
「そうなの?」
「はい。とてもシンプルなタイプなんですけど、生地がふわふわで、ついついおかわりをしてしまうくらい美味しいです」
「へぇー」
というか。
「天城さん、実はここの常連?」
「はい、そうですよ」
「なるほど。だから詳しいんだ」
「秘密にしてくださいね?」
「いいけど……どうして?」
「えっと……自意識過剰と言われるかもしれませんが、たくさんの人がやってきて、混んでしまうような気がして」
十分にありえる可能性だ。
聖女様のオススメ喫茶店となると、誰もが足を運んでみたいと思うだろう。
「ふふ♪」
天城さんは、どこか上機嫌そうだ。
「どうかしたの?」
「いえ、その……」
少し頬を染めて言う。
「私と高槻君の秘密ですね」
……そういうドキッとするようなことを言うのはやめてほしい。
実は聖女様じゃなくて、人たらしなのではないだろうか?