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14話 聖女様、再び怒る

「ああ、そこにいたか」


 如月先輩は俺を見つけると、他の教室ということは関係なく、ズカズカと踏み込んできた。


 同学年ならともかく、他学年の教室に入るのは、普通、少しはためらわないか?

 この辺り、如月先輩の性格がよく現れているように思えた。


「天城さんは……ふむ。今は席を外しているみたいだね」


 前の授業が移動教室だった。

 先生の手伝いをしていたから、戻って来るのが遅くなっているみたいだ。


「ちょうどいい。この前の話の続きをさせてもらおうか」

「えっと……なんの話でしたっけ?」

「とぼけるな。天城さんにつきまとうのをやめろ、という話だ」


 そんな話だったか?


 釣り合わないとか、そういう関係で……

 一緒にいるな、とは言われたものの、つきまとうとか、そういう話はしていなかったと思うのだけど。


 この人、自分の都合のいいように物事を頭の中で置き換えてしまうのかもしれない。


「天城さんは優しいから、キミのことを迷惑に思っているが、それを口に出せないのだろう。だから、代わりに僕が言おう。天城さんに憧れ、近づきたくなる気持ちはわからないでもないが、キミは、まるで釣り合いがとれていない。高嶺の花というレベルではないな。少し意味は異なるが、月とスッポンだ。それくらいに差がある、ということだ」

「はぁ」

「理解してくれたのかな? ならば、次にキミが取るべき行動は理解しているな? 天城さんに二度と近づかないことを約束してもらおうか。そして、彼女に不快な思いをさせたこと、きちんと謝罪したまえ」

「はぁ」


 いや、なんというか……

 この人は、本当になにを言っているんだ?


 釣り合わない、という部分は同意ではあるが……

 その他は、まったく納得できない。


 天城さんと俺は友達で、それは彼女も認めてくれた。

 もしもあれが演技や、実は嫌がっていた、ということならとんでもない役者だ。


 まあ、『聖女様』なら、それくらいの演技はしてみせるかもしれないが……

 『聖女様』という周囲の見方よりも、俺が今まで接してきた『天城瑠衣』の言葉を、その態度を信じる。


 つまり、的はずれなことを言っているのは如月先輩の方だ。


 ……ただ、周囲はそう思わなかったらしい。


「え、つきまとっているの……?」

「やばくない? ストーカーじゃん」

「にわかには信じがたいけど……でも、如月先輩が言っているからなあ」


 クラスメイト達から懐疑的な視線を向けられてしまう。

 ただ、全員が全員そういうわけじゃなくて……


「あー……ちょっといいですか?」


 凛がにっこりと笑う。


 あ、やばい。

 あれは完全にキレている表情だ。

 下手をしたら殴りかかるかもしれない。


 ……ただ。


 他にもう一人、凛以上にキレている人がいた。


「……なにをしているんですか?」

「「「……っ……!?」」」


 ゴゴゴと地の底から湧き出てくるかのような低い声。

 俺を含めて、みんな、一斉に振り返る。


「……」


 天城さんがいた。

 凛と同じように、にっこりと笑っている。


 笑っているのだけど……

 目はまったく笑っていない。

 震えるほどの迫力を放ち、そのせいで誰も声を発することができない。


「今、少しだけですが話が聞こえていたのですが……あなたは、なにをしているのですか?」

「……」

「黙っていてはわかりません。私の質問に答えてくれませんか? それとも、私なんかの質問には答えられないと?」

「……」


 如月先輩はダラダラと汗を流しつつ、ぱくぱくと口を開け閉めしていた。

 なんとか返事をしようとしているらしいが、天城さんの迫力に完全に飲み込まれてしまい、どうにもならないようだ。


「はっきり言っておきますが」


 天城さんは怒りの表情を浮かべつつ、俺の隣に並ぶ。

 そして……ぎゅっと、強いくらいに俺の手を握りしめた。


「彼は……高槻君は、私の友達です」

「なっ……!? え……ま、まさか、こんな冴えない男が……」

「それも失礼ですが……釣り合うとか釣り合わないとか。離れるべきとか。そういうことを勝手に決めないでいただけますか?」

「し、しかし……!」


 これ以上ないほどの拒絶を突きつけられているにも関わらず、如月先輩は諦めない。

 その度胸はすごいと思う。


 まあ……単に、空気が読めないだけかもしれないが。


「そのような男を友達にすれば、天城さんの品位も問われてしまうかもしれない。それは、僕の望むところではなくて……」

「ろくに高槻君のことを知らずに品位を語る、あなたの品位の方が疑わしいと思いますが?」

「ぐっ……!?」


 ものすごいカウンターだ。

 如月先輩、膝に来ているぞ。


「そもそも。前にも言いましたが、余計なお世話です。私が誰を友達にするか? 誰と同じ時間を過ごすか? それは私が決めることで、あなたが決めるようなことではありません。ああ、そうそう。これも前に言ったことですよね? それを覚えていないなんて、あなたは記憶力が悪いんですか? なら仕方ないですね。理解できるまで、何度でも何度でも言いましょう」

「う……く……」


 滅多打ちだ。

 如月先輩はなにも反論できず、ただただ言葉で殴られるだけ。


 というか……


 ここまで天城さんが怒るところなんて、初めて見た。

 いや。

 前回の件を入れれば、二度目か。


 ……それだけ、俺のことを大事な友達と思ってくれているのだろうか?

 だとしたら嬉しい。


 とはいえ、このままだとよくないことになりそうなので……


「天城さん、天城さん」

「なんですか?」

「ものすごく注目を集めちゃっているから」

「……ぁ……」


 クラスメイトがざわついている。

 そのことにようやく気づいたらしく、天城さんは、しまったというような顔に。


 ただ、すぐに余所行きの笑顔を貼り付けて、


「こほん……そういうわけなので。そろそろ自分の教室へおかえりください」

「……ああ」


 如月先輩は力なく頷いて、言われた通りに教室の出口へ向かい……


「……っ……」


 去り際、一瞬ではあるものの、如月先輩はこちらを睨みつけてきた。


 ……また一波乱ありそうだな。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
如月先輩が痛い…痛すぎる… 医者A「手遅れです、手の施しようがありません」 医者B「出せる薬?あるわけないでしょ」 医者C(闇医者)「お薬出しておきますねー(テトロドトキシン)」
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