13話 トラブルは止まらない
「なるほどねー」
休み時間。
凛に事情を話すと、納得顔で頷いた。
「あの聖女様とどうやって仲良くなったのか、ものすごーーーく不思議だったけど、あたしと同じく食べ物で釣っていたか」
「人聞きの悪いことを言うな」
「っていうか、聖女様って、意外と食いしん坊?」
「ノーコメントで」
ものすごく同意しかないのだけど……
彼女は彼女で、そこそこイメージを気にしているようだから、詳細な感想は口にしないでおいた。
「うまいことやったね」
「そういうつもりはないって」
「ふーん」
なぜか、ちょっとだけ凛の機嫌が悪い。
どうしたのだろう?
でも、すぐにいつも通りになり、笑顔を向けてくる。
「ねえねえ。今度、あたしを聖女様に紹介してよ」
「凛を?」
「聖女様と仲良くなるチャンス、逃したくないからねー」
「……まあ、いいけど」
凛はお調子者ではあるものの、本当に人が嫌がることはしない。
それと、誰とでも仲良くなれる特技を持つ。
天城さんも、友達を欲していたみたいだから……うん。
二人はいい友達になるかもしれないな。
「ただ、その『聖女様』っていうのはやめた方がいいかな」
「え、なんで?」
「本人は、あまり気に入っていないらしい」
「そっか、了解。なら、普通にさせてもらおうかな。抱きついて、すりすりしたり、くんかくんかって匂いを嗅いだり」
「それは普通じゃない」
「あれ?」
冗談じゃなくて、本気なのか……?
「ああ、そうだ」
なにやら思い出した様子で凛が言う。
「聖女様で思い出したけど……創、ちょっと気をつけた方がいいかも」
「どういうこと?」
「如月先輩に目をつけられたかも」
「……誰?」
「創って、たまに、とんでもなく神経が図太い時があるよね……」
なぜか、呆れられてしまう。
いや。
そんな反応を見せられても、俺としては困惑しかないのだけど。
「ほら。この前、聖女様にこっぴどく振られていたイケメンの先輩」
「……あぁ」
思い出した。
この前、絡まれたな。
天城さんと釣り合いがとれていないとかなんとか。
「あたしがいない時、絡んできたんでしょ? で、それを聖女様が撃退した」
「そうだけど、よく知っているな?」
「噂になっているからねー。あの如月先輩が、っていう感じで」
天城さんが聖女様として噂されるように。
如月先輩もイケメンだから、噂になりやすいのだろう。
「でも、なんで俺が?」
「逆恨みかな? 聖女様が酷いことを言ったのは、創のせいに違いない、騙されているそそのかされている、って考えたみたい」
「なんだ、それ……」
「疲れる話でしょ? でも、これが事実なんだなー」
だとしたら、本当に疲れる話だ。
まったく関係ないとは言わないが……
でも、俺が天城さんにあれこれと吹き込む理由がない。
そんなことをしても、なにも得がない。
というか、そんなことをするようなヤツは友達じゃない。
「けっこうな勢いで勘違いしているみたいだから、ま、覚悟しておいた方がいいかも、っていう話」
「嫌な覚悟だなぁ……」
「こういう時、どうしても止められないからね。なら、心構えだけはしておいた方がいいっしょ」
「それもそうか。情報、ありがとう」
「いえいえ。お礼は、いつものお弁当で♪」
「了解」
そこで話は終わったのだけど、
「すまない」
ガラリと教室の扉が勢いよく開く音。
それと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「愛しい猫の周りをうろつく、ドブネズミはいるかな?」
「「……」」
如月先輩だった。
凛の言っていたことが現実になったわけだけど……
なんというか、台詞があまりにも臭すぎて、ついついフリーズしてしまう俺達だった。