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12話 あなたに感謝を

「高槻君」


 移動教室の途中。

 廊下で天城さんに呼び止められた。


「今、ちょっとだけいいですか?」

「どうかした?」

「えっと……ちょっとだけお話がしたくて。ダメですか?」

「ダメってことはないけど……」


 先を行く凛を見ると、こちらの様子に気づいて、「お楽しみに」なんていう感じで唇を動かすのが見えた。


 そういう話ではないと思うのだけど……まあいいや。


「高槻君に感謝の気持ちを伝えておきたくて」

「感謝? ……弁当のこと?」

「それもありますけど、それ以外にも……」

「あれ? 弁当のことだけじゃないの?」

「えっと……秘密です」


 いやいや。

 そこを秘密にされたら、こちらは戸惑うしかないのだけど。


 でも、天城さんは教えてくれないらしい。


 それと、少し頬が赤い。

 秘密にしなければいけないような、恥ずかしいことなのだろうか?


 ……ダメだ、まったく心当たりがない。


「その、細かいところはうまく言えないのですが……高槻君と一緒にいると楽しいんです」

「楽しい?」

「はい。不思議と、自然に笑顔になることができて……こんな感じです」


 天城さんは笑顔を見せてきた。


 その笑顔は、今まで見てきた『聖女様』ではなくて……

 『天城瑠衣』という一人の女の子のものに見えた。


 自然体の笑顔、っていうことなのかな?

 でも、どうして俺と一緒にいるとそんなことになるのか、謎なのだけど。


 そう尋ねると、天城さんは小首を傾げる。


「それは、私もよくわからなくて……なんででしょう?」

「俺に聞かれても」

「ごめんなさい。私のことなのに、私について聞かれても困りますよね」

「正直、困るかな」

「ふふ」


 ぶっちゃけすぎた答えを返してしまうのだけど、なぜか天城さんは嬉しそうだ。


「高槻君は、正直なんですね」

「あー……ごめん。気を悪くした?」

「いえ、その逆です」

「逆?」

「そういう正直なところ、好ましいと感じています。私の周りにいる人は、皆、私の顔色を窺ってばかりなので」

「それは……そうかもしれないね」


 天城さんは『聖女様』で……

 清らかだろう、聖人君子だろう……などなど、それぞれのイメージを通して見ているはずだ。


 ある意味で顔色を窺う行為で。

 そして、『天城瑠衣』という人を見ていないことになる。


「だから、高槻君は高槻君のままでいてくれると嬉しいです」

「俺のまま、と言われても……うーん」

「変わってしまうんですか?」

「いや。俺らしく、っていうのがよくわからなくて。自分を客観視できるほど、俺、できた人間じゃないからさ」

「なら、私が見ててあげますね」

「え」

「高槻君がらしくあれるように、私が見ています。なにかおかしなところを感じたら話をしましょう」


 どうして、そこまで俺のことを気にかけるのだろう?

 天城さんとは、ついこの前まで、ちゃんと話したことがないのだけど……


 謎だ。


 でも……

 友達が増えることを歓迎しない理由はない。


「まあ……これからもよろしく、っていうことでいい?」

「はい♪」


 天城さんは、とびっきりの笑顔を見せた。


 優しくて、温かくて、澄んでいて……

 『聖女様』にふさわしい笑顔だ。


 ただ……


 失礼な話かもだけど、俺は、そこまで尊いものに思えない。見えない。

 天城さんは、なんだかんだ、ただのクラスメイトだ。

 本人が言っていたように、聖人君子というわけじゃない。


 だから俺も、普通に接することにしよう。


 『聖女様』ではなくて……

 天城瑠衣さんという、クラスの女の子と友達になった。

 それだけだ。


「って、まずい。そろそろチャイムが鳴りそうだ」

「ごめんなさい、ついつい話し込んでしまいました」

「謝ることないよ。楽しかったから」

「楽しい……ですか?」

「ちょっと真面目な話だったけど、それはそれで。天城さんと話していると、楽しいから」

「……」

「天城さん?」

「い、いえ……その、なんでもありません……」


 天城さんが顔を背けてしまう。

 俺、なにかしただろうか?


 結局……

 移動教室の間、天城さんは、ずっと俺に顔を見せてくれなかった。

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