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第99話「よるのまくがあがる」

 建物の中は颯真たちが暮らす表の世界にある建物とあまり変わりがなかった。

 違いがあるとすればより無機質な感じがして、照明もLEDなどではなく、天井自体が発行しているように見える、といったところか。

 

「こっちだ」

 

 アキトシの先導に、颯真たちが建物の奥へと進む。

 と、一同の目の前に数体の【タソガレ】が姿を見せる。

 

「——! アキトシ、お前——」

 

 アキトシの姿を認めた瞬間、【タソガレ】たちが漆黒の刃を展開して進路を塞ぐ。

 

「お前、まだあの計画を否定するのか!? 我々のエネルギー問題が解決するんだぞ!?」

「そのエネルギー問題に、別の解決方法が見つかったとしたら?」

 

 刃を展開することなく、アキトシが静かに言う。その後ろで颯真たちも武器を抜くことなく様子を窺っている。

 

「そんなうまい話があるか。人間の魂が最もエネルギー効率のいい資源だとミツキが言っていたではないか」

 

 即座に目の前の【タソガレ】が否定する。

 だが、その言葉に、わずかながらにも迷いが含まれていることに颯真は気付いた。

 もしかして、この【タソガレ】は人間の魂をエネルギー源にすることに対して疑問があるのだろうか、と考え、颯真が一歩前に進む。

 

「僕も実際に目の当たりにはしていないので断言はできないのですが——方法が見つかった、と聞いています」

「それは何だ」

 

 【タソガレ】の視線が颯真に流れる。

 その視線をまっすぐ受け止め、颯真は一つ頷いてみせた。

 

「あくまでも伝聞ですが、この世界にある『ヴェスペリ石』にとんでもないポテンシャルが秘められている、と聞きました。それを使えば宇宙に行くことも可能だ、と」

 

 颯真の言葉に【タソガレ】が「は?」と声を上げる。

 

「何言ってるんだ、ヴェスペリ石はただの塗料素材だ。砕いて発光塗料にする以外何の使い道もない」

「——と思ったんだがな。人間はあれを利用していたぞ」

 

 あくまでもヴェスペリ石はただの塗料素材だ、と主張する【タソガレ】に、アキトシが口を挟んだ。

 

「えっ」

 

 アキトシの言葉に颯真が思わず声を上げ、振り返って誠一を見る。

 

「神谷さん、心当たりは?」

「いや? 私は知らないが」

 

 ヴェスペリ石がエネルギー源であり素材であり可能性に満ちた鉱石であるという話は確かに靖から聞いたが、颯真たちは実際にそれが素材として利用されているところを見たことがない。それなのにアキトシは「人間は利用していた」と断言した。

 

 それともハッタリなのだろうか、と颯真が考えたところでアキトシはさらりと答えを口にする。

 

「今ここにいる人間がどうやってこちら側に来たのか、と考えると簡単な話だ。人間側もゲートを作り上げた。そこにヴェスペリ石が使われていたよ」

「な——」

 

 思いもよらなかった言葉。

 確かに宇宙開発に使えるといったことは聞いていたが、本当に素材としての価値を引き出していたとは。

 

「あのエネルギー反応はヴェスペリ石を割ったときに一瞬だけ発生する電磁波と同じものだった。ゲートに展開した力場もその電磁波を利用したものだし、わたしも目を疑ったよ」

「なんだと……」

 

 【タソガレ】が天井に視線を投げる。

 

「我々がただ照明用の塗料にしか使っていないヴェスペリ石を、人間が……?」

「ああ、われわれが知らない加工方法があるんだろうな。とにかく、人間を襲わずともエネルギー問題を解決する方法に直結するかもしれない。だから、長に会わせてくれ」

 

 あくまでも穏便に、アキトシは【タソガレ】たちに要求する。

 【タソガレ】たちは困惑しながら顔を見合わせ、「どうする?」と首を傾げた。

 この侵入者たちの言い分が正しければ表の世界を侵略せずともエネルギー問題は解決する。人間が実際に利用しているのなら自分たちに扱えない素材ではない、という思いもある。【タソガレ】の科学技術は人間のそれよりも幾分か進んでいる、という自覚はある。

 

 しかし、もしこの言葉がアキトシの口から出た出まかせであれば長を危険にさらすことにもなる。

 相手は武器を所持している、これがもし抜かれれば犠牲者が出る可能性も高い。

 

 どうする、と【タソガレ】たちは相談し合った。

 数分、ぼそぼそという話し声が廊下に響き、やがて【タソガレ】の一人がアキトシを見る。

 

「……今、実際に稼働しているヴェスペリ石はないのか?」

 

 【タソガレ】の質問は至極真っ当なものだった。

 話の真偽が疑われる案件が出てきたのであれば、それを証明するものを提示すればいい。それなら話は真実だと分かるし、今回の場合は実物があれば分かりやすい。

 

 【タソガレ】に言われて、アキトシがあぁ、と小さく頷く。

 

「ソウマ、その武器を借りていいか?」

「え?」

 

 唐突なアキトシの言葉に颯真が首をかしげる。

 

「その武器からヴェスペリ石の気配を感じるのでね」

 

 とりあえず貸してくれ、とアキトシは再度颯真に言う。

 

「……それなら」

 

 半信半疑で、颯真は腰のアタッチメントから刀を鞘ごと取り外してアキトシに渡した。

 刀を受け取ったアキトシが、その柄部分を【タソガレ】たちに見せる。

 

「この装置を見てくれ」

 

 アキトシが見せたのは、颯真が修了式の際に受け取り、刀にセットした増幅装置。

 それに気づいた瞬間、颯真はそんな、と声を上げた。

 まさか、ヴェスペリ石がこんな身近なところで使われていたとは。

 

 同時に、いったいどれほどのヴェスペリ石が持ち込まれていたのだ、という疑問も浮かび上がる。

 

「……ほんとだ、この光と反応はヴェスペリ石だ」

 

 【タソガレ】たちが興味津々で刀の柄を覗き込む。

 

「すごいな、人間ってこんな何の役にも立たないと思っていたものでも価値を見出すんだな」

「しかもこれがエネルギー源になるんだろ?」

 

 互いに顔を見合わせ、【タソガレ】たちが感心したように声を上げる。

 それから颯真を見て、その後ろの誠一たちを見た。

 

「あんたらはヴェスペリ石の可能性を我々に伝えに?」

「ああ、これならエネルギー問題を解消できるから、できるなら和平を結びたい」

 

 颯真たちの願いはただ一つ。【タソガレ】がエネルギー問題を解決して人類への攻撃をやめること。

 そのための最大の交渉素材が元から裏の世界にあるヴェスペリ石だった。

 

 再び【タソガレ】たちが顔を見合わせる。

 

「まぁ、おれたちはエネルギー問題が解決するならヴェスペリ石でもいいよな?」

「そうだな、ミツキが『人間は下等な生き物だ』とか言ってたがこうやって話すとおれたちとあまり変わりないしな」

「これが嘘だったら長が直々に成敗するよな」

 

 そんなやり取りをして、【タソガレ】たちはアキトシに向かって頷いてみせた。

 

「まあいいだろう。長の元に案内する」

 

 ついてこい、と【タソガレ】たちが颯真たちに背を向ける。

 その瞬間、空気が甲高い音を立てて切り裂かれた。

 【タソガレ】たちのコアが一瞬にして砕け、その姿が霧散する。

 

「誰だ!」

 

 颯真が身構え、廊下の奥に向かって叫ぶ。

 

「ソウマ、これを!」

 

 颯真から借り受けていた刀を返し、アキトシも刃を展開する。

 背後の誠一たちもそれぞれの武器を抜き、身構える。

 

「そんな簡単に絆されて、それでも親衛隊か」

 

 コツ、と廊下の奥から足音が響く。

 

「——ミツキ、」

 

 颯真がその名前を口にする。

 

「ああ、裏切り者の息子か——ワタシを追って、わざわざニンゲンが作ったゲートを使うとはね」

 

 足音と共に一人の男——ミツキが姿を現し、颯真たちの前に立つ。

 

「駄目ですよ、ヴェスペリ石に可能性があるなんてホラを吹くなんて」

 

 【タソガレ】の特性か、以前颯真に斬られたミツキの右腕は再生していた。

 

「コアにダメージが入らなければその程度か……」

 

 悔しそうにアキトシが呻く。

 

「ふん、あの時コアを砕き損ねたからしぶとく生きながらえている、ということですか。そのコアの再生も完了していないのにワタシに立ち向かうつもりか、アキトシ」

 

 余裕の笑みすら浮かべてそう言うミツキに、颯真の奥歯がきり、と鳴る。

 

「……ミツキ……」

 

 颯真の隣に立って刀を構え、冬希も低く呟く。

 

「冬希、ミツキを止めよう。ミツキさえ止めて長にきちんと話せばきっと道は開ける」

 

 これが最終決戦になる、その場にいた誰もがそう思った。

 颯真と冬希にとっては討つべき仇、誠一たちにとっては平和を目前にした最大の障害。

 緊迫した空気がその場に流れ——

 

『うおおおおおおおおっ!!』

 

 颯真と冬希が声を合わせ、直後誠一たちも鬨の声を上げ、ミツキに向かって走り出した。

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