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第96話「よるのたようせい」

「はっ、綺麗事で人間は生きていけないんだよ!」

 

 そう言いつつ、靖はSPたちに「こいつらを殺せ」と指示を出す。

 

「ふん、舐められたものだな」

 

 刀を抜いた誠一が苦笑し、青眼の構えでSPたちに対峙する。

 

「付け焼き刃が玉鋼に勝てると思うなよ!」

 

 魂技に関しては【ナイトウォッチ】である誠一や颯真たちの方に一日の長がある。プロジェクト【アンダーワールド】が進められると知って急遽チップを埋め込まれた素人に負けるわけがない。

 

 靖は増幅装置も渡していると言ったが、それは颯真たちも同じだ。颯真たち新米上がりの四人は修了式の際に増幅装置を手渡されている。いくらSPが受け取ったものがそれを改良したものであったとしても、条件はイーブン。

 颯真たち五人はそれぞれの武器を手に、颯真たちについてきたアキトシたち【タソガレ】も漆黒の刃を手にSPたちに立ち向かう。

 

「はぁっ!」

 

 鋭い突きで繰り出された刀を、真は【(Reinfor)(cement)】で固めた拳で振り払い、そのままSPの懐に飛び込む。

 

「歯ァ食い縛れ!」

 

 その言葉と共にSPの鳩尾に叩き込まれる真の拳。

 いくら魂技で身体強化されていたとしてもその一撃は重く、SPはたまらず昏倒した。

 

「次!」

 

 真がそう声を上げる横で、卓実は両手の銃を頭上で交差させてSPの刀を受け止めている。

 

「やっべ、俺は肉弾戦が苦手なんだよ!」

 

 こんな至近距離で不意打ち喰らって対応できるかよ、と言いつつ、卓実は右脚を思いっきり振り上げた。

 その右脚がSPに直撃する。それはもう、どことは言えない場所に。

 

「ふぐぅっ!?」

 

 男としての急所に渾身の一撃を受けたSPはその場に崩れ落ちた。魂技での強化など意味はない。いくら強化しようとある意味露出した内臓に一撃を受けたのである。強化で致命的なダメージにならなかったとしても精神的なダメージはあまりにも大きい。そして、増幅装置は「使用者の精神状態」によってその威力を変動させる。

 

 精神的に大きなダメージを受けたSPはその時点で戦うことができなくなっていた。全身を包み込んでいた光が霧散し、ただその場にのたうち回るだけの人間となる。

 

 冬希はSPが巧みに繰り出す刀を捌きながら攻撃のチャンスを窺っていた。ほんの数合、打ち合っただけだが分かる。このSPは剣道の有段者。少しでも気を抜けば斬られる。

 

 SPたちが手にしている刀は冬希たちと違い、玉鋼で作られた本物の日本刀だ。誠一も今は日本刀を装備しているが、峰打ちを狙っている時点で完全に殺しにきているSPたちとは違う。

 

 冬希たちが手にしているカーボンファイバー製の刀はあくまでも【あのものたち】と戦うために作られたものだ。魂技で切れ味を上げ、耐久力を上げたとしても一点へ集中的に打撃を受ければ何の前触れもなく突然砕ける。魂技で強化された日本刀との打ち合いに耐えられるものではない。

 

 折れる前に無力化しなければ殺される。相手の武器に対して恐れはないし、死に対して恐れがあるわけではないが、冬希は今死ぬわけにはいかなかった。

 

「女だからって——バカにするな!」

 

 冬希が気合い鋭く全身に蒼白い光を纏わせる。

 

「【雷撃(Lightning)】!」

 

 コマンドワード解放、電撃が目の前のSPに降りかかる。

 上段に構えた刀が避雷針となり、電撃は真っ直ぐSPの頭上から足元を通過していった。

 

 魂技で身体強化していたことと、冬希が出力を調整して発動していたためにダメージとしては致命的なものではないが、それでも電流によるショックは大きい。

 

 高圧電流に全身が麻痺し、冬希と対峙していたSPも倒れ伏す。

 

「【タソガレ】がなんだ、やってやる!」

 

 このままでは押し切られると思ったSPたちは各個撃破を考えたのか、数人がまとめてアキトシに【拘束(Bind)】のコマンドワードを解放する。

 光の帯がアキトシに伸ばされ、絡み付く。

 

「アキトシさん!」

 

 光の帯に拘束されたアキトシを見た瞬間、颯真が動いた。

 手にした刀で光の帯を切り裂き、コマンドワードを解放したSPたちに手を向ける。

 

「【拘束(Bind)】、【拡散(Diffusion)】!」

 

 光の帯が拡散し、SPたちに絡み付く。

 

「コマンドワードはこう使うんだ!」

「クソッ……!」

 

 全てのSPが昏倒、または拘束され、靖は心底悔しそうに呻いた。

 プロジェクト【アンダーワールド】の要となる颯真はプロジェクトに賛同しなかったどころかこちらに牙を剥いた。これは大きな誤算だ。

 

 颯真が様々な家庭を渡り歩いていた頃から追跡調査はしていたが、その時の颯真の性格を考えればこのプロジェクトに参加するよう求めれば応じると思っていた。それなのに颯真は自分の意思で未来を選択し、人類と【タソガレ】の共存を願った。

 

 こんなはずではなかった。颯真をうまく丸め込み、【タソガレ】を滅ぼし、資源を全て独占し、そして日本を技術大国に持ち上げ誰も日本人を馬鹿にすることができないようにするつもりだった。

 それはただの夢物語だったのか。間違っていたのか。

 

 靖の前に、刀を抜いた颯真が立つ。

 

「ここまでです。もう抵抗しないでください」

「しかし、お前たちが私を止めて夜の真実を公表してもいたずらに混乱を招くだけだぞ! それなら従軍希望者を募って裏の世界に攻め込めば——」

 

 なおも靖は抵抗する。

 自分の考えの方が民衆は従う、という靖の考えを颯真は首を振って否定する。

 

「多様性、って知っていますか? たとえ種族が違っても、それを悍ましいものとして排除するのではなく存在するものだとして受け入れる、それが大切なんじゃないのですか?」

 

 多様性の許容が今の世の中ではないのですか、と颯真は続けた。

 今、世の中は多様性の許容が声高らかに叫ばれている。性の多様性もその一つだし、他人の嗜好を否定しない、という話も今では当たり前のことである。一時期は「必ずこの特徴を持つ人間を起用しろ」といった間違った多様性が浸透したこともあったが、今では「自分が嫌いだからといって他人の好きを否定しない」という考え方は当たり前となっている。

 

 だが、【タソガレ】を滅ぼしたいと考える靖の考えはその多様性の考えから逆行している。存在を認めない、それがたとえ資源独占のためであったとしても間違っている。それこそ、【タソガレ】が「ヴェスペリ石」と呼んだこの資源の価値を知らなかったことを利用して巻き上げることもできたはずである。それはそれで颯真としては複雑な気持ちになるところではあるが、「共存」という観点では間違ってはいない。

 

 共存という選択肢を選ばなかった時点で、颯真にとって靖は敵だったのだ。

 

「今の世の中、【タソガレ】だからという理由で排除する人間ばかりだとは思っていません。人類にはない文化、人類にはない技術、そして【タソガレ】にない文化、技術、互いを知りたいという興味を持つ人間、【タソガレ】がいてもおかしくない。だからこそ、僕は【タソガレ】との共存を願います」

 

 どれほどの人間が【タソガレ】に興味を持つか、どれほどの人間が【タソガレ】を憎むか、それは分からない。それでも、少しでも興味を持つ人間がいてくれれば、そうでなくても存在を否定しない人間がいてくれればそれでいい。

 

 そのための架け橋となれるのなら喜んで身を捧げる、その覚悟を込めて颯真は靖に宣言した。

 颯真の宣言に、靖はがっくりとうなだれる。

 

「は……はは……。そんなはっきりと言われたら、私は君に勝てないよ」

 

 もう打つ手は何もなく、裏の世界の資源を独占することなどできない。

 完全に敗北を認め、靖はその場に座り込んだ。

 

「だが忘れるな。人間の悪意を、人間の憎しみを」

 

 それはいつか【タソガレ】との間に亀裂を作る。

 その靖の言葉に、颯真は「分かってますよ」と答えた。

 

「それでも僕は人類を信じます。よりよい生活を送りたいという気持ちは人間も【タソガレ】も同じですから」

 

 誠一に拘束される靖を見ながら、颯真はそう呟いた。

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