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第91話「よるをとめる」

 颯真たちを乗せた兵員輸送車が【ナイトウォッチ】本部に到着したとき、本部は既に準備を整えていた。

 

 正門の前にはバリケードが築かれ、バリケードの奥に控えている隊員の中には対大型個体用に調整された対戦車誘導弾(LMAT)を構えている者もいる。

 

 大型個体にダメージを与えるために用意されたとはいえ、元々は対戦車ミサイル、そんなものを人間が乗った兵員輸送車に向けている時点で本部側の殺意がひしひしと伝わってくる。

 

 確かに、颯真たちはクーデターを起こした側だ。武器も、戦うための力もある相手を不殺で通すほど本部も甘くないということか。

 どうする、とホログラムスクリーンに映し出されたバリケードの様子を見ながら誠一は淳史に声をかけた。

 

「流石にLMAT(ラット)を持ち出されたらこいつはひとたまりもないぞ。っても、実弾でも魂技でなんとかできるのが【ナイトウォッチ】だ。こうなったら盾役に【防御(Protection)】でシールドを張ってもらって耐えるか」

 

 自衛隊と違い、【ナイトウォッチ】には魂技がある。本来なら命にかかわるけがを負うような攻撃であっても【解放(Release)】の時点である程度身体強化はされるしそこに【(Reinfor)(cement)】を併用すればワールドレコード保持者もびっくりの身体能力を発揮できる。【防御(Protection)】を使えば使用者の素質にもよるが銃弾くらいは完全に無効化できる。

 

 淳史が言った盾役はその中でも防御系の魂技に特化した隊員である。一般の隊員が銃弾を無効化するシールドを張ることができるのに対して、全力を出せば戦車の主砲くらいは止められる——というのがカタログスペックである。

 

 ちょうど、淳史に賛同したデルタチームのメンバーにもその盾役がいたため、対戦車ミサイルに対しては対策は可能。問題は「相手の攻撃を封じることができるということはこちらの攻撃も封じることができる」というものである。卓実のように銃火器を扱う隊員もいるが、【ナイトウォッチ】の隊員同士での戦闘となると銃火器はほぼ無効化される。颯真たちのように近接武器が有効となるが、そうなるとほぼ内に秘めた魂での殴り合いである。より強い魂を持つ者が勝つ、それが【ナイトウォッチ】である。

 

 できるか、と淳史はぐるりと隊員たちを見回す。

 デルタチームの隊員が弱いとは思っていない。しかし、本部勤めの隊員となるとその魂の強さを買われて登用された者が多い。有事の際、他の隊では手が負えないとなったときに動員されるくらいにはエリートぞろいである。

 

 そんな本部の隊員と真正面から殴り合って勝てるかと言えばそれは厳しいものだろう。

 それでも、ここで退くわけにはいかない。

 向こうが撃つ前に散開するぞ、と淳史が言おうとしたとき、目を閉じて意識を集中させていた颯真が目を開けた。

 

「——鏑木隊長、僕に行かせてください」

『な——』

 

 淳史と誠一の声が重なる。

 

「颯真君、君は何を——」

「僕なら、止められます」

 

 自信に満ちた颯真の声。

 その声に、淳史も誠一も理解する。

 颯真に秘められた魂はとても強い。それこそ、使い手を選ぶ原型チップを埋め込まれるくらいには。

 そこへもって颯真には【タソガレ】としての力も埋め込まれている。それは誠一もすでに見たもの。

 

 人間の可能性と【タソガレ】の可能性、その両方を秘めた颯真は強い。恐らく自分よりも強い、と誠一は認めていた。

 はじめは頼りなかったかもしれないが、それでも颯真は少しずつ自分を見つけ出し、歩みを進めてきた。その成長を近くで見てきたから誠一は分かる。颯真はここぞという時に誰もが思わぬ力を発揮する、と。

 

「分かった、颯真君に任せる」

「神谷!?」

 

 誠一がさほど迷うことなく颯真に託したことで淳史が声を上げるが、すぐに納得したように頷く。

 誠一が見立てを誤ることはない。自分の知らないところで颯真は成長しているのだ、と淳史も理解する。

 

「……分かった、南に任せる。ただ、南一人に全て押し付けたりはしないよなぁ?」

 

 そう、淳史が周りの隊員に声をかけると、全員が「勿論です」と力強く頷く。

 

「南、お前が道を切り開いたら俺たちはすぐに動く。他の奴らも、ここが正念場だ、気張れよ!」

 

 了解、と全員が頷き、停止した兵員輸送車から降りる。

 颯真が先頭に立つと、冬希が数歩後ろで立ち止まり、さらにその後ろ、兵員輸送車の左右にデルタチームの隊員が並んで立つ。

 

「止まれ!」

 

 バリケードの中の隊員が叫ぶ。

 当然、その指示には従えない、と颯真は真っすぐ歩みを進める。

 

 全員が車から降りているにもかかわらず、LMATを構えているのは向こうも相手が魂技で防御できるだろうと考えているからか。

 多数の銃口とLMATを向けられているにもかかわらず、颯真はしっかりとした足取りでバリケードに向かって歩き続けた。

 

 本部の隊員が再度「止まれ」と叫ぶが、颯真は止まらない。

 

「——っ、撃て!」

 

 颯真が止まる意志を見せないことにしびれを切らした隊長が隊員に指示を出す。

 そこで隊員たちが躊躇わなかったのは訓練の賜物だろう。敵が人間であろうと【あのものたち】であろうとも撃つ、その意志が隊員たちに引き金を引かせる。

 

 LMATを構えた隊員も発射機のスイッチを押す。

 颯真に向けて放たれる無数の銃弾とLMAT弾頭。

 それに対し、颯真は右の手のひらを前に突き出すことで対応した。

 

「——【防御(Protection)】」

 

 颯真がそう唱えた瞬間、金色の光が幾何学模様を描いて一枚の壁を作り出した。

 その壁に、黒い靄がまるで蛇のように這いまわっている。

 放たれた無数の銃弾が壁に突き刺さり、突き破ることができずに地面に落ちる。

 直後、LMAT弾頭が壁に直撃し、爆発した。

 

「やったか!?」

 

 爆発を視認した本部の隊員がそう声を上げる。

 

「バカ、フラグ立てんな!」

 

 慌てて別の隊員が叱咤するが、もう遅い。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 煙の向こうから鬨の声が上がる。

 濛々と立ち込める煙を突き破り、颯真をはじめとしてデルタチームの面々がそれぞれの得物を手にバリケードに向かって走り出した。

 

「クソッ、撃て、怯むな!」

 

 本来なら兵員輸送車くらい軽く吹き飛ばせるLMATを無効化され、焦った本部の隊員が応戦する。しかし、士気の上がり切ったデルタチームはそれに怯むことなく突撃し、焦ることで本来の力が発揮できない本部の隊員たちを次々にねじ伏せ、拘束していく。

 

「あーあ、マジでこの隊バーサーカーばっか……」

 

 本部の隊員を殴り倒すデルタチームの面々を援護しながら、卓実がそうぼやいた。

 

「ぼやくな卓実、これがこの隊の強さだ」

 

 卓実の眼前で相手を殴り倒した真が苦笑する。

 そして、

 

「颯真、行け! 行って、叢雲新司令を止めてこい!」

 

 そう叫んだ。

 

「おう、南と瀬名に任せた! あとは中川と足立、それから神谷さんも援護に!」

 

 流石に颯真と冬希だけでは荷が重いだろうと判断した淳史が三人に声をかける。

 

「え、俺も!?」

「いいから来い!」

 

 淳史に指名された卓実が素っ頓狂な声を上げ、真がその襟首を掴んで引きずり始める。

 誠一も分かった、と頷いて颯真に続いた。

 どうやら全戦闘員が正門に集められていたらしく、本部内は蜂の巣をつついたような騒ぎであったが、いるのは事務官など非戦闘員ばかり。

 

 廊下を駆け抜け、五人は司令官が詰める執務室へと向かった。

 この状況で司令官が他の隊員を差し置いて逃げ出すとは思えない、大規模な作戦中だと作戦司令室(オペレーションルーム)に移動して各種指揮を執ることもあるだろうが、この状況では執務室にいると考えた方がいいだろう。

 

「こっちだ!」

 

 誠一の誘導で、颯真たちは執務室への最短距離を突き進む。

 何の障害もなく、五人は執務室の前に立つ。

 

「——待て!」

 

 不意に、嫌な予感を覚えて卓実が叫んだ。

 本部に侵入してから、五人は何の障害もなくここまで最短距離で移動することができた。それがうまくできすぎていて、逆に不安を覚える。

 

——もしかすると、これは罠——?

 

 扉を開けるな、と卓実が颯真に声をかけるが、時すでに遅し。

 

「叢雲新司令!」

 

 颯真はドアノブを回していた。

 扉が開かれ、隙間ができる。

 その隙間から、

 

「——っ!?」

 

 黒い靄、まるで闇を固化したかのような何かがあふれ出した。

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