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第70話「よるはうらぎる」

「裏切り者の息子が裏切り者の家にいることはなんら不思議なことではないでしょう」

 

 部屋に踏み込んできたミツキは勝ち誇ったように笑いながらアキトシを、そして颯真を見る。

 

「帰還地点を設定せずにゲートをくぐれば出現地点がランダムになるから多少は捜索したが、それでもオマエのところにいるのでは、という予測は簡単に立てられたよ」

 

 そう言い、ミツキが一歩歩み寄る。

 

「ミツキ——!」

 

 颯真が拾い上げた刀の柄に手をかける。

 それを、颯真を庇うかのようにアキトシが片手を伸ばし、遮ってくる。

 

「落ち着けソウマ、今きみが戦っても勝ち目はない」

「でも!」

 

 止めないでください、と颯真が声を上げる。

 

「あいつは僕の父さんと冬希さんの母さんを——」

「だからだ。今のきみは怒りに支配されている。その状態で、全力が出せるというのか」

 

 冷静なアキトシの指摘。颯真が低く呻くが、それでも刀から手を離さない。

 

「ここはわたしに任せてくれ。きみは一旦後ろへ」

「でも!」

 

 いくらアキトシに下がれと言われても颯真は下がる気がなかった。

 そもそもアキトシはミツキの攻撃で傷を負い、それを癒している最中ではなかったのか。

 その点ではミツキも颯真の攻撃で傷を負っているため万全ではないかもしれないが、それでもアキトシがミツキに一度負けているということと今まで戦った経験を考えると今日的なのは確実。

 

「アキトシさんこそ下がってください!」

 

 強引に前に出ようとして颯真が叫んだ。

 

「ワタシとしては二人同時でもいいのですが?」

 

 ミツキが不敵に笑い、その手に漆黒の刃を出現させる。

 

「それに、アキトシ、キミではワタシに勝てないことは分かり切っているでしょうに。それに、裏切り者の息子はまだ全てを解放しきれていない。二人がかりでもワタシに勝てるかな……?」

「くそ……!」

 

 挑発に乗ってはいけない、と思いつつも抜刀したくなる。

 今すぐミツキに斬りかかりたい、その思いを懸命にこらえながらも颯真はミツキを睨みつけていた。

 

「ふん、挑発には乗らないか。それならば——こちらから行く!」

 

 ミツキが空いている方の手を二人に向けて突き出す。

 その手に漆黒の球体が出現、次の瞬間二人に向かって放たれる。

 

「くそ!」

 

 颯真を庇うように手を出したまま、アキトシがもう片方の手を正面に突き出す。

 目の前にミツキが放ったと同じ漆黒の球体が現れ、ぶつかり合い、相殺する。

 

「——く、やはり()()!」

 

 互いに漆黒の球体を飛ばし、ぶつけ合いながらアキトシが唸る。

 

「アキトシさん!」

 

 行かせてください、と言う颯真を首を振ることで制止し、アキトシは駄目だ、と唸った。

 

「きみを死なせるわけにはいかないんだ! リュウイチにとっての希望はわたしにとっても希望だ! ここで君を喪えば、わたしはリュウイチに顔向けできない」

「でも——!」

 

 二人の戦いは一見、拮抗しているように見える。

 しかし、涼しい顔で球体を飛ばすミツキに対し、アキトシは苦しげな表情でそれに応じていた。

 

「——っ!」

 

 アキトシが飛ばした球体が、ミツキの球体を相殺しきれず天井へと弾き飛ばす。

 球体が直撃し、崩れる天井。

 

「アキトシさん!」

 

 たまらず、颯真はアキトシの手を振り切って床を蹴った。

 

「ソウマ!」

 

アキトシが止めるが、それに構わず、颯真は抜刀してミツキに飛び掛かっていた。

 

「【解放(Release)】!」

 

 コマンドワードを解放し、颯真の刀が金色の光に包まれる。

 金色に輝く刀が、ミツキが放つ球体を切り裂き、霧散させる。

 

「逃がさない!」

 

 だが、颯真のその敵意に怯むことなく、ミツキは余裕の笑みすら浮かべる。

 

「裏切り者が開発した装置を使っても、その程度ですか」

 

 颯真がミツキに刀を叩き込む。それをミツキが手にしていた刃で易々と受け止める。

 

「感じます、キミの怒りを」

 

 気迫のこもった颯真の攻撃を余裕でいなすミツキ。

 それでいて、アキトシにも球体で攻撃を仕掛けるミツキに颯真は低く呻いた。

 

——強い!

 

 ミツキと刃を合わせるのはこれで三回目だが、今までも、いや、今も本気を出していないと感じ取れる。

 本気を出せば颯真もアキトシもあっという間に殺せるだろうに、ミツキは決して本気を出さず、ただただ攻撃をいなしているだけだった。

 

 何故だ、とミツキに斬りかかりながら颯真が考える。

 颯真の魂が必要なら、手加減せずに殺してしまえばいいはずである。それなのに何故、そうしない。

 

「ははは、いいぞもっと怒るのです。その怒りがワタシの力になる」

「何を!」

 

 颯真の全身を金色の光が包み込む。颯真の怒りの感情がチップと、それに連動する増幅装置を経由し、魂を燃え上がらせていく。

 渾身の力で、颯真は光り輝く刀をミツキに叩き込んだ。

 ミツキも漆黒の刃で刀を受け止め、不敵に笑う。

 

「ソウマ!」

 

 横に回ったアキトシが複数の球体を生成し、ミツキに飛ばす。

 

「ちっ!」

 

 颯真を相手にしては回避できないと判断したミツキが颯真を突き飛ばし、空気を薙ぐように手を振って球体を生成する。

 アキトシとミツキの球体がぶつかり、相殺し合っていく。

 颯真にも球体を飛ばして牽制しながら、ミツキは低く嗤った。

 

「何がおかしい!」

 

 一度下がり、態勢を整え刀を構えた颯真が声を上げる。

 

「いや、滑稽だな、と思いまして」

 

 くく、と嗤うミツキに、アキトシも刃を生成して斬りかかる。

 颯真もそれに続き、二人の刃がミツキに降りかかった。

 

「その程度ではワタシを倒せないと言っているのですよ!」

 

 ミツキの空いている方の手にも刃が出現し、二本の刃を受け止める。

 くそ、と颯真が唸る。

 今のミツキは万全に近い状態に戻っているのか、颯真の刀を易々と受け止めているように見えた。

 

 以前、傷を負わせた時のように片手を離し、がら空きの胴体に攻撃を仕掛けることができない。両手でしっかりと刀を構えていないとすぐに弾き飛ばされる。

 時間的に傷は癒えていないだろうに、とは思うものの、【あのものたち】の再生速度を颯真は知らないし、不定形の時は中途半端に斬ってもすぐにつながってしまう。倒すのであればつながる前に粉々に切り裂くかコアを打ち砕けと言われているほどである。

 

 そう考えると、ミツキも傷は負ったが一旦不定形(本来の姿)に戻り、傷を塞いだというのか。

 それでも、アキトシが傷を負って回復するのに時間がかかっているらしいことを考えると傷は塞いだものの全力は出せない状況かもしれない。そんな状況であっても以前戦ったよりもはるかに重いミツキの刃に、颯真は弾き飛ばされないようにするだけで精一杯だった。

 

 全力で押す颯真と涼しげな顔で刀を受け止めるミツキの目が合う。

 

「キミはソウマというのか」

 

 颯真の目を見たまま、ミツキがそう言った。

 

「だったら何なんだ!」

 

 負けじとミツキの目を見据え、颯真も声を上げる。

 

「何も知らされず、裏切り者に利用されて、まるで道化だな」

 

 何か深い意味が込められたかのようなミツキの言葉。

 その言葉に、颯真の心の奥がざわりと揺れる。

 何だ、何が言いたい。

 そう問いたくとも、何故か声が出ない。

 ミツキは何かを知っているのか。

 

「ミツキ、やめろ!」

 

 颯真と同じようにミツキに刃を受け止められたアキトシが声を上げる。

 

「でしょうね。道化には道化なりに動いてもらいたいでしょうから」

「違う! ソウマは一人の人間として生きるべきだ! 確かにわれわれの希望かもしれないが、われわれの都合で戦わせてはいけない!」

 

 アキトシが全力でミツキを押しのけようとする。

 それに合わせ、颯真も全力でミツキを突き飛ばす。

 流石に二人がかりで突き飛ばされては踏みとどまれなかったか、ミツキが一歩後ろに下がり、片手の刃を消失させる。

 

「何を偽善者ぶったことを。ソウマの意志で戦わせたいと? その戦いたいという意思を利用したいだけじゃないですか?」

「く——!」

 

 図星を突かれたのか、アキトシが低く呻く。

 

「この際、はっきりさせた方がいいんじゃないですか? ソウマがどういう存在かを」

「ミツキ!」

 

 アキトシがミツキを止める。

 しかし、それに構うことなくミツキは言葉を続けた。

 

「ワタシの計画を阻止するために特別な魂を備えたニンゲンを生み出すプロジェクト、ワタシとしてはそちらの方が悍ましいと思いますがね」

「何を——」

 

 思わず颯真が声を上げる。

 

「ソウマ、耳を貸すな!」

 

 アキトシが今度は颯真を止めるが、颯真もアキトシの制止を聞くことができなかった。

 

「僕のことを……知っているのですか」

「ええ、よーく知っていますよ。なにせリュウイチ(裏切り者)が作り出した忘れ形見ですからね」

 

 そう言い、ミツキは禍々しい笑みをその顔に浮かべた。

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