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第104話「よるにとどめをさす」

 応、と颯真の中で声が応える。

 

『ここでミツキを伸せれば俺も浮かばれる、というものだ。颯真、思う存分暴れろ。ヤバいときは俺がサポートする』

 

 その言葉に、一瞬違和感を覚えるが、今はそれについて考えている余裕はない。

 長と融合し、巨大化したミツキが振り下ろす爪を横に跳んでかわしながら颯真はどのコマンドワードを使うべきか思案した。

 

 訓練時代に教わったコマンドワードは一通り使える。そもそもコマンドワードの数自体そこまで多くない。複雑化することによっていざ使用する際に適切なものが使えなければ致命傷となるから、という理由でチップに登録されているコマンドワードは十を少し上回る程度である。

 

 逆に言えば今まではその程度のコマンドワードで【あのものたち】を退けることができていた。

 今、目の前にいるミツキも突き詰めれば【あのものたち】の融合体である。理論上は、手持ちのコマンドワードで十分対応できる。

 

 それでも、目の前の敵をそれで倒せるという確信が持てないのはひとえにミツキが「上位の【あのものたち】」であり、その中でも特に力を持っていたであろう長と融合を果たしてしまったからだ。その時点で、颯真は自分の判断の甘さを後悔することになってしまった。

 

——強い!

 

 今まで戦った、どの個体よりも。ミツキはたかだか長という一個体と融合しただけのはずなのに、何十体という個体と融合した融合体よりもはるかに強い「圧」を颯真は感じていた。

 

『上だ!』

 

 声の指示に従い、再び横に跳ぶ。

 着地してすぐにミツキへと刀を向け、【(Amplifi)(cation)】で増幅し、鋭さを増した刃で切りつける。

 

「く——!」

 

 颯真の横で、冬希もミツキの別の腕を受け止めている。

 

「重い——!」

「冬希!」

 

 叩きつけられた腕から生え、颯真に襲い掛かる触手を切り払い、颯真は冬希を呼んだ。

 

「だめだ、一人ひとり戦ってたら押し切られる!」

「でも、どうやって!」

 

 全力でミツキの腕を振り払い、冬希が声を上げる。

 冬希としても分かっている。個別に戦っても勝ち目が薄いことくらいは。

 颯真と力を合わせて、できれば他のメンバーも交えて一斉に攻撃を仕掛けたいが、巨大化し、複数の腕を生やしたミツキの攻撃は的確に颯真と冬希を分断していた。

 

「はっ、一人ひとりだと手も足も出ないか!」

 

 やはり、といったようなミツキの声。

 

「くそ……」

 

 読まれていたのか、と颯真が唸る。

 今までの戦いでミツキに対して同時攻撃を行なったことはほぼなかったが、それでもミツキは颯真と冬希の二人が息を合わせれば危険だと察知しているらしい。

 

 させるか、とばかりにミツキは二人に対して別々の腕を叩き込む。

 隙が無い。逆に、こちらが隙を見せればすぐに喰われる。

 どうする、と颯真は叩き込まれる腕を回避し、いなし、自分への直撃を避けながら横目で冬希を見た。

 

 冬希も軽い身のこなしでミツキの攻撃を回避し、颯真の隣に移動してくる。

 激しいミツキの攻撃をかいくぐり、その攻撃をうまく誘導して冬希が隣に来たことに、颯真は「流石冬希」と心の中で称賛する。

 

「さて、どうする颯真!」

 

 追いかけてくるように叩きつけられた腕を颯真と共に受け止め、冬希が尋ねた。

 

「何とかして、二人で攻撃する隙を見つけたいところ……!」

 

 颯真が冬希の力を借りて腕を押し返し、刀を構えなおす。

 

「このままじゃジリ貧なのは分かってるけど、隙がない——!」

「——なら、わたしの出番かな」

 

 不意に、颯真の後ろから声が響いた。

 その直後、颯真の横をアキトシが駆け抜けていく。

 

「アキトシさん!」

『アキトシ!』

 

 颯真と、颯真の中の声が同時に響く。

 その声が聞こえたのか、アキトシはちら、と颯真を——颯真の裡にいる()()()()を見た。

 

()()()()()()()

「……?」

 

 言葉の意味が理解できず、颯真が困惑した視線をアキトシに向ける。

 

「大丈夫だ、わたしもミツキと心中する気はない。きみは怒るかもしれないが——少し無茶をさせてもらうよ!」

 

 そう言いながら、アキトシが両手に刃を展開し、ミツキに向かう。

 

「アキトシィ!」

 

 ミツキもアキトシに向けて腕を振り下ろし、いくつもの棘を飛ばすが、アキトシはそれを最低限の動きで回避し、ミツキの腕に乗る。

 

 いくつかの棘がミツキの腕もろともアキトシを貫こうとするが、それはアキトシに追従した二人の【タソガレ】が盾を飛ばして援護する。

 

「邪魔をしやがって!」

 

 こうなったらさらに分身を、とミツキが叫ぶ。

 だが、それは先に繰り出された分身を打ち破った誠一と卓実、真の三人が許さなかった。

 

「お前の手口はもう分かってんだよ! 分身を出させるか!」

 

 卓実が叫び、真と口を合わせてコマンドワードを解放、ミツキの周りに集まり始めた黒い靄を打ち払う。

 アキトシと他の【タソガレ】も振り回されるミツキの触手と棘を砕き、颯真たちに届かないように最前で、巨大なミツキの腕の上を戦場に戦っている。

 

「くそ——! 裏切り者が!」

 

 激昂したミツキがさらに腕と触手を増やす。

 

「アキトシさん!」

 

 追加された触手がアキトシの死角から迫っていることに気付き、颯真は床を蹴った。

 【(Reinfor)(cement)】を利用して瞬時にアキトシの横に移動し、突き飛ばす。

 咄嗟のことで、ミツキの攻撃に対しては完全に無防備だった颯真。

 

 その颯真に、アキトシを貫こうとしていた棘が突き刺さった。

 

「ぐ——!」

 

 バランスを崩し、颯真が床に落ちる。

 

「颯真!」

「ソウマ!」

 

 冬希とアキトシが颯真に駆け寄り、声をかける。

 

「やっべ! 真、援護しろ!」

 

 颯真が刺されたことに気付いた卓実が慌てて真に指示を出し、ミツキの追撃が颯真たちに届かないように妨害する。

 

「颯真!」

 

 床に倒れた颯真を抱き起し、冬希が叫んだ。

 

「いや……大丈夫だって……」

 

 意識は失っていなかったのだろう、颯真が苦笑する。

 

「急所は外してるし【回復(Heal)】も使ってる、そりゃ弘前さんみたいにはできないけど——」

「はい、これ飲んで」

 

 まだ戦える、と立ち上がろうとする颯真の口にアキトシが蓋を開けた瓶を押し込む。

 

「僕はだいじょ——うぼぉぁ!?」

 

 喉を通る液体。液体であることは分かるが、脳が味を認識しない。ただ、途轍もなく「まずい」とだけ理解する。

 

「最後の一本だ。治癒能力を高めて疲労を回復してくれる」

 

 そう説明しながらアキトシは闇を固化させて帯を作り、颯真の傷を押さえるようにきつく巻き付ける。

 

「今は誰の離脱も許されない。ソウマ、いけるな?」

 ミツキの本体を見据え、アキトシが確認する。

 

「大丈夫です。この程度の怪我で日和ってなんていられません」

 

 すぐに立ち上がり、颯真もミツキを睨みつけた。

 

『——俺を忘れてもらっては困る。【回復(Heal)】か? 追加でかけておいた』

 

 颯真の中で響く声。

 その声が聞こえた途端、颯真の傷から痛みが引いていく。

 

『俺が戦えれば話は早いかもしれないが、それではいけない。この戦いは【タソガレ】と人類、双方が歩み寄るための戦いだ。それは()()()()()奴にしかできない』

「……生きている……?」

 

 颯真が声に尋ねる。

 まるで、この声の主はとうの昔に死んでいて、今は自分に憑りついているみたいだ、とふと思う。

 何度も自分を助け、意識を失ったときには身体を利用して敵を打ち砕いた声の主——。

 

 今までは深く考えたことがなかったが、颯真は今はっきりと認識した。

 アキトシは気付いているらしい。知らないのは自分だけだ。

 誰だ、と思考を巡らせようとしたが、すぐに颯真はその思考を中断した。

 

 この声の主が誰であってもいい。力を貸してくれるなら、今はその力を借りてミツキを倒すだけだ。

 声の主が展開した【回復(Heal)】で傷は塞がっている。動きにも問題はない。

 床に落とした刀を拾い、構えなおして颯真が全身に気合を行きわたらせる。

 

「いくら抵抗しても無駄だ! ワタシはこの世界も、表の世界も全て支配する! ワタシが管理した方がすべてうまくいく!」

「管理なんて、誰も求めてない! 自分で決めて、自分で選んで、その責任を負って! そうやって、人間も【タソガレ】も前に進む!」

 

 ミツキの主張を、颯真は真っ向から否定する。

 

「確かに【ナイトウォッチ】に入るまでの僕はただ流されていただけだけど! 分かったんだ、自分で決めることの大切さを! 自分で選ぶことの大切さを! 自分で選んだから、僕はみんなと——冬希と生きることを決めた! それを誰にも邪魔させはしない!」

「ならば砕いてみろ! ワタシが間違っているとその力で証明しろ!」

 

 ミツキの本体から、極太の棘が颯真に向かって真っすぐ撃ちだされる。

 

「【防御(Protection)】!」

 

 颯真が真正面から棘を受け止めようとコマンドワードを解放する。

 

『【防御(Protection)】!』

 

 颯真の前面に展開された防壁に棘が触れる直前、誠一、卓実、真、そして冬希が同じコマンドワードを解放した。

 颯真の防壁の前に、いくつもの防壁が層を作る。

 層を成した防壁に棘が突き刺さる。

 

「その程度!」

 

 一枚、また一枚と打ち砕かれる防壁。

 だが、防壁に受け止められたことで棘は勢いを失い、ミツキの本体へと一本の架け橋を作り出していた。

 

「颯真君!」

 

 打ち砕かれた防壁の代わりに追加で防壁を展開しながら誠一が叫ぶ。

 

「はい!」

 

 誠一の言葉に、颯真が即座に反応する。

 動きを止めた極太の棘に飛び乗り、颯真はミツキの本体に向かって走り出した。

 

「颯真、私も!」

 

 颯真に続き、冬希も棘に飛び乗り、走り出す。

 

「颯真と私、二人なら!」

「露払いはわれわれに任せろ!」

 

 颯真と冬希が棘に乗るのは想定の範囲内だったのだろう、ミツキが無数の棘と触手を二人に伸ばすが、それはアキトシと他の【タソガレ】が球体を展開して相殺していく。

 

「颯真、いてまえ!」

「瀬名、任せた!」

 

 卓実と真が、棘が動き出さないように【拘束(Bind)】で拘束しながら二人を激励する。

 

『うおおおおおおおおっ!!』

 

 二人が同時に棘からミツキ本体へと飛び込んだ。

 金色の光と蒼白い光が混ざり合い、純白の光に変わっていく。

 純白の光に包まれた二本の刀が捉えるのはミツキ本体の心臓部分で蠢くコア。

 しかし、コアに届く前にそれを包み込む闇が刀を押しとどめる。

 

「くそ、もう一手——!」

 

 ここでコアを砕かなければ勝ち目はない。

 二本の刀は少しずつコアに向かって食い込んでいくが、ミツキの触手も二人を捕らえようと蠢いている。

 あと一手、この闇を払うことができれば——。

 

『仕方ないな』

 

 颯真の中で声が響く。

 

『まぁ、このために俺はお前の中にいたんだからな!』

 

 その声と共に、颯真から赤みを帯びた金色の光が飛び出した。

 光は颯真から離れた直後、爆発するように拡散する。

 

「な——裏切り者めが!」

 

 この一手は想定していなかったのか、ミツキが思わず声を上げる。

 颯真の視界の先で、赤みを帯びた金色の光が闇を溶かし、打ち払っていく。

 

「冬希!」

 

 颯真が叫んだ。

 

「颯真!」

 

 冬希もそれに応じる。

 二人がそれぞれの刀を、全力でむき出しになったコアに突き立てる。

 

『いっけえええぇぇぇぇ!!』

 

 言葉にはならなかったが、二人は同時にコマンドワードを解放していた。

 

 ——【懐剣(Blade)】、【(Amplifi)(cation)】、【切断(Slash)】、そして——。

 

『【爆破(Explosion)】!!』

 

 先に発動したコマンドワードで深く切り刻まれたミツキのコアが、爆発した。

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