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変わりゆく日常

新学期が始まって一週間が経った。詩羅が同じ学校に通い始めてから、俺の日常は少しずつ、だが確実に変化していった。


朝、目覚めると、いつものように詩羅の声が聞こえる。


「兄さん、起きて!朝ごはんできてるよ!」


俺はため息をつきながらベッドから這い出す。鏡に映る自分の顔を見て、少し苦笑する。目の下にクマができている。ここ数日、詩羅のことを考えすぎて、よく眠れていないのだ。


「おはよう、詩羅」


「おはよう、兄さん。顔色悪いけど大丈夫?」


詩羅が心配そうに俺の顔を覗き込む。その距離の近さに、思わず顔が熱くなる。


「あ、うん...大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけ」


「そう...無理しないでね」


詩羅の優しさに、胸が締め付けられる。俺は何とか平静を装って朝食を済ませ、学校へ向かった。


教室に入ると、愚楽が声をかけてきた。


「よう、灰光。今日も元気ないな」


「うるせぇよ」


「まあまあ。そういえば、お前の妹さん、かなり評判いいらしいぜ」


愚楽の言葉に、俺は思わず身を乗り出す。


「え?どういうこと?」


「知らないのか?もう男子たちの間で人気者だぜ。『鎌戸の妹』って呼ばれてる」


俺は複雑な気持ちになる。詩羅が人気者になるのは予想していたが、こんなに早くとは。


「そ、そうか...」


「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ」


「別に...」


愚楽は首をかしげたが、それ以上は何も言わなかった。


授業中、俺は詩羅のことを考えていた。あいつら男子どもは詩羅に何を考えているんだ?詩羅は大丈夫なのか?いじめられてないか?そんな考えが頭の中をぐるぐると回る。


昼休み、俺は思わず一年生の教室に向かっていた。そこで、詩羅の姿を見つける。彼女は美堂と楽しそうに話している。その周りには何人かの男子生徒がいた。


(くそっ...あいつら、詩羅に近づきすぎだ)


俺は思わず拳を握りしめる。その時、詩羅が俺に気づいた。


「あ、兄さん!」


詩羅が手を振る。周りの生徒たちが一斉に俺の方を見た。


「兄さん、どうしたの?」


「あ、いや...ちょっと様子を見に来ただけだ」


「もう、心配しすぎだよ。私、ちゃんとやってるから」


詩羅は少し困ったような顔をする。俺は急に自分がバカバカしく思えてきた。


「そうか...じゃあ、俺は行くよ」


「うん、またね」


詩羅が笑顔で手を振る。その笑顔に、俺の心臓が高鳴る。


教室に戻ると、愚楽がニヤニヤしながら待っていた。


「おい、灰光。妹の様子見に行ってたのか?」


「うるせぇな」


「まあまあ。でもさ、お前、ちょっと妹のこと気にしすぎじゃないか?」


愚楽の言葉に、俺は黙り込んでしまう。確かに、俺は詩羅のことを考えすぎている。でも、それは兄として当然のことだろう?


放課後、部活動の時間。俺は剣道部に所属している。竹刀を握りしめ、相手と向き合う。しかし、集中できない。頭の中は詩羅のことでいっぱいだ。


「鎌戸!集中しろ!」


部長の声に、はっとする。俺は深呼吸をして、心を落ち着かせようとする。


稽古が終わり、更衣室で着替えていると、一年生の部員たちの会話が耳に入ってきた。


「ねえ、知ってる?鎌戸先輩の妹さん、めちゃくちゃ可愛いらしいぜ」

「マジで?見てみたいな」

「でも、鎌戸先輩怖そうだからな...近づくの怖いわ」


俺は思わず拳を握りしめる。詩羅のことを話題にされるのが、妙に腹立たしい。


家に帰ると、詩羅が出迎えてくれた。


「お帰り、兄さん。今日も部活お疲れ様」


「ただいま...」


「どうしたの?元気ないみたい」


詩羅が心配そうに俺の顔を覗き込む。その純粋な眼差しに、胸が痛くなる。


「別に...ちょっと疲れただけだ」


「そう...じゃあ、お風呂にする?それとも夕飯?」


「風呂かな」


詩羅が用意してくれたお湯に浸かりながら、俺は考え込む。なぜ俺はこんなに詩羅のことを気にしているんだ?兄として当然なのか?それとも...


(いや、違う。そんなはずない)


俺は必死に頭を振る。しかし、詩羅の笑顔が頭から離れない。


風呂から上がると、詩羅が夕飯を用意していた。


「兄さん、今日はカレーだよ。食べる?」


「ああ...ありがとう」


二人で食卓を囲む。詩羅は楽しそうに学校での出来事を話す。新しい友達のこと、面白い授業のこと。俺はただ黙って聞いていた。


「ねえ、兄さん。聞いてる?」


「え?あ、ああ...聞いてるよ」


「もう、また考え事?」


詩羅が不満そうな顔をする。可愛い。本当に可愛い。


「ごめん...ちょっと色々あってさ」


「兄さん、何かあったの?」


詩羅の心配そうな表情に、胸が締め付けられる。


「別に...大したことじゃない」


「そう...でも、何かあったら言ってね。私、兄さんの力になりたいの」


詩羅の言葉に、俺は思わず目を逸らす。


「ああ...ありがとう」


この日の夜、俺は長い間眠れなかった。詩羅のこと、学校でのこと、自分の気持ち。全てが混沌としている。


これからどうなっていくんだろう。詩羅との関係は、学校での生活は。答えは見つからない。


ただ一つ分かっているのは、俺の日常が、もう二度と元には戻らないということだ。

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