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悪魔の初恋  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第2章 魂と思惑
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006 雅司の価値

 


「あなたの絶望は、人間が抱える許容量を超えている」


 ノゾミが真顔で告げる。

 対して雅司は、その事実を淡々と受け止めているようだった。


「だからこそ、死神に取られる訳にはいかないの」


「感情ゲージが半端ない。だから無茶を承知で声をかけて来たと」


「そういうことよ。ここまで手強いとは思ってなかったけど」


「ははっ、悪いな」


 悪びれる様子もなく笑う雅司に、ノゾミがため息を吐く。

 これって結構、すごい告白なんだけどな。そう思いながら。


「悪いと思うんなら、さっさと契約、完了させてよね」


「でもノゾミの言い方だと、負の感情でなくてもいいんだよな」


「そうね。とにかく感情ゲージが高いほど、価値があるの」


「なら、幸せいっぱいなやつでもよかったんじゃないか?」


「幸せいっぱいの人間が、魂を賭けて契約すると思う?」


「……言われてみれば」


「それにね、そんな人たちとは比較にならないぐらい、あなたの魂には感情が刻まれてるの。本当、どうすればここまで黒くなれるのかしら」


「ごめんごめん」


他人事(ひとごと)みたいに言わないで。あなたの話なんだからね」


「確かにな」


「でもね、そんなあなたが望みを叶えたら……どうなると思う?」


「反動で、正のゲージがすごいことに」


「そういうこと。魂の価値が更に上がる。だからこそこの任務、私が選ばれたの」


「魔界きってのエリート、ノゾミ様の出番って訳だ」


「とにかくそう言う訳だから、これから雅司には、幸せをいっぱい感じてほしいの」


「中々に高いハードルだな」


「そう? でも料理を食べてる時のあなた、幸せそうだったわよ」


 そう言われ、雅司はその時の感情を思い返した。

 確かにうまかった。こんなにしっかり食べたのも久しぶりだし、自分好みの味付けで満足した。


 でも。


「料理がうまかったから、だけじゃないな」


「どういうこと?」


「多分、ノゾミが作ってくれたからだ。俺の為に」


「え」


「ノゾミと一緒に食べたから、ってのも大きいな。こうやって誰かと一緒に飯を食うなんて、久しぶりだったしな」


 雅司にそう言われ、ノゾミはうつむき頬を染めた。


「本当、うまかったよ」


 その言葉に顔を上げると、笑顔いっぱいの雅司と目が合った。


「……それはどうも、お粗末様でした」


「謙遜しなくていいぞ。最高だった」


 胸が熱い何かに包まれていく。そんな気がした。


「でもあれだな。俺にそんな価値があるのなら、横取りされた死神は面白くないだろうな」


「そうね。向こうの世界でも、ちょっとした騒ぎになってるから」


「まあでも、俺の魂は今、ノゾミとリンクしてるんだよな。だったら安心だ」


「でもこの契約、絶対って訳でもないの」


「どういうことだ?」


「この契約を解除する方法、ない訳じゃないの」


「出来るのか」


「あなた自身が、死神に譲渡してもいいって意思を示す。そうすれば私との契約は解除される。元々死神が刈る物だったんだし」


「死神への救済措置も、ちゃんとある訳だ」


「いずれ向こうからも、何かしらアクションがあると思う。このまま諦める、なんてことはない筈よ」


 そう言ったノゾミの瞳に、陰りが宿る。

 雅司は微笑み、ノゾミの手を握った。


「……え?」


「俺の魂はお前の物だ。どんな手を使ってくるのか知らないけど、俺がノゾミを見てる限り、大丈夫なんだろ? だったら問題ないさ。信じていいよ」


「雅司……」


 ノゾミが安堵の表情を浮かべ、手を握り返した。


「ありがとう、雅司」


「こういう真面目なシチュエーションだと、パニックにならないんだな」


 雅司がそう言って、意地悪そうに笑う。

 その言葉にノゾミは我に返り、慌てて手を引っ込めた。


「ば、馬鹿にしないで! こ、これぐらい……全然平気なんだから!」


「ははっ、そうだったな、ごめんごめん」





「そろそろ寝るか」


 枕を抱き締め、落ち着かない様子のノゾミに雅司が言った。


「そ、そうね! そろそろ寝ないとね!」


「いや、だからなんで緊張してるんだよ」


「き、緊張なんてしてないわよ。夜になったから寝る、当たり前のことじゃない!」


「いやいや、十分緊張してるから。何を想像してるか知らんけど、部屋は別々だからな」


「え」


「え、じゃないから。いくら俺でも、会ったばかりの女と一緒になんて寝ないから」


「わ、私の方は大丈夫なのよ? 一緒に住むって決めた時、覚悟もしたから。余計な気遣いは無用よ」


「足震わせて言っても、説得力ないからな。大体、覚悟って何だよ」


「でも私」


「はいはい分かった分かった。明日も早いから、俺もあんまり夜更かししたくないんだよ」


「朝早いって……あなたまさか、仕事に行く気なの?」


「そりゃそうだろ。シフトに入ってるんだから」


「でもあなた、昨日死のうとしてたのに。今更行かなくてもいいじゃない」


「まあ昨日の内に死んでたら、行くことも出来なかったけどな。後のことなんて知るかって思ってた。でも俺は今、まだ生きてる。だったら迷惑かける訳にはいかない。するべきことはする、そう決めてるから」


「……真面目なのか投げやりなのか、よく分からない性格ね」


「そういうことだから、今夜は隣の部屋で寝てくれ。布団敷いてるから」


「分かった……じゃあこの続きは明日、あなたが帰ってからってことで」


「ちゃんと布団かぶって寝るんだぞ」


「うん……おやすみなさい」


「おやすみ」


 扉が閉まると、安堵の表情を浮かべたノゾミが、その場にへなへなと崩れた。


「本当、変わった人ね、あなたって」




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