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悪魔の初恋  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第2章 魂と思惑
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005 観察眼

 


 料理は得意だから。

 その言葉は本当だった。

 夕食で出された料理は、どれも絶品だった。

 味付けも自分好みだ。


「なんで俺の好みが分かったんだ? それも悪魔の能力なのか」


 熱い煎茶にほっとした表情を浮かべ、雅司が聞いた。


「ええそうよ。私たち悪魔には、人間にない様々な能力がある。これはその中でもお気に入りの能力、観察よ」


「観察ね。どんな能力なんだ?」


「私たちは人間と契約して、その対価として魂を回収する」


「そうだな」


「その為に私たちは進化してきた。種の繁栄に、魂は必須だから」


「何もしなければ、全部死神が持っていくんだったな」


「そういうこと。ただでさえ分の悪い戦いなの。昨日あなたが言った様に、私たちには横から奪い取ることしか出来ないから」


「根に持ってたのか? 悪い、(おとし)める意図はなかったんだ」


「分かってるわよ。でもまあ、その通りだからね、痛いところを突かれたと思ったわ。

 残りの寿命を投げうってまでして、手に入れたい願望。そんな物を持ってる人間、そうそういるものじゃない。適当に選別して声をかけたところで、結構です、そう言われたらどうすることも出来ない。だから、契約しそうな人間を見つけなくてはいけないの」


「なるほど」


「その為には、その人間がどういう存在なのか、それを知らなければいけない。どんな些細な事柄も見落とさず、全てを見抜く必要があるの」


「それが観察、という訳か」


「今、どうして好みが分かったのか聞いたけど、それもそう。あなたの表情、仕草、言葉に対する反応。そうね、瞳孔の開きや発汗、呼吸音、心拍数、瞬きの回数とか……それらを観察することで、その人間が何を考え、何を求めているのか分かるようになっていったの」


「すごいな。僅かな時間一緒にいただけで、俺の反応から味の好みまで理解したのか」


「すごいでしょ。もっと褒めていいのよ」


「ああ、本当にすごいよ。流石ノゾミだ」


「何よ、珍しく素直じゃない。そんな雅司も可愛いけど」


 ノゾミが照れくさそうに笑う。


「いやいや本当、お世辞抜きに感心したさ。そんな能力で見られたら、俺たちなんて丸裸同然じゃないか」


「まあ、そうなんだけどね。ふふっ」


「俺たちより、悪魔が上位の存在なんだと思い知らされるよ」


「雅司ったら、褒めすぎだって」


「でもまあ……だからこそ今、俺の中に大きな疑問が生まれた訳で」


 そう言って、今度は雅司がにっこり微笑む。


「どういうこと?」


「そんなすごい能力があるのに、どうして俺なんかに声をかけてきたんだ?」


 その言葉に、ノゾミが目を泳がせた。


「昨日の反応、ノゾミが俺を理解してたとは思えない。俺が何も望んでない男だってことも、分かってたようには見えなかったぞ」


「それは、ね……あははっ」


「笑って誤魔化すな。何か理由でもあったのか? 確かに俺は昨日死ぬつもりだった。そんな男なら簡単に契約する筈、そう考えたのは分かる。でも観察に特化した種族と言うなら、俺の難易度が高いことぐらい分かりそうなものじゃないか。俺なんかに比べたら、適当に目をつけたやつの方が、よっぽど成功率高くないか?」


「……誤魔化せるとは思ってなかったけど、やっぱり無理だったか」


「何かあるんだな」


「ええ。今回の私の任務、それはね、あなたの魂の回収なの」


「俺じゃないと駄目ってことか」


「そういうこと。雅司のような人の魂、と言うのが正しいんだけど」


「説明いいか」


「今更隠すつもりもなかったからね、いいわよ。雅司、あなたの魂はね、特別なの」


「……」


「魂の価値は、その人の背負ってる感情で決まるの。喜びや怒り、哀しみや絶望。それらが全て、魂に刻まれてるの」


「それが多いほど、価値があるってことか」


「ええそう。全く、あなたって本当、察しがいいわね」


「それで?」


「あなたの魂にはね、絶望が詰まってるの。その辺の人間が束になっても(かな)わないぐらい、深い絶望が」




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