約束は守りますよー
「なるほどね、完璧に理解した」
ごめん、やっぱ嘘。
「つまり、魔人ってことね」
「まあ、そういうことだけど。本当に分かってる?」
「大丈夫大丈夫。とりあえず、イレーナのお母さんのとこに行こう」
「そ、そうね」
悪巧み部屋を出て、イレーナのお母さんが居る部屋へと向かう。
「よろしいのですかお嬢様?」
「ええ、大丈夫よ。会いたいて言ったのは母さんだしね」
「分かりました。私はここでお待ちしております」
「分かったわ。いつも悪いわね」
「気にしないでください。私はお嬢様の専属ですから」
いつもと違って語尾を伸ばさないノノさんに見送られながら、案内された部屋の中に入っていく。
「失礼します」
「母さん、来たわよ。起きてる?」
部屋の中はあまり広くなかった。むしろ狭くすら感じた。
部屋の奥にはベッドがあり、1人の女性が横になっていた。イレーナと同じ紫色の髪の女性、彼女がイレーナのお母さんで間違いないだろう。
声が聞こえたのか、反対側を向いていた女性は、体の正面をこちら側に向けて、少し起き上がろうとしていた。
「起きてるわよ。ようこそ、はじめましてね、ジーテス君」
「は、はい。はじめまして、ジーテス・ユースティアです」
「母さん、無理して起き上がろうとしなくても良いわ」
「それもそうね、ごめんなさいね、ジーテス君、こんな状態で」
「いえ、そんな、全然良いですよ。無理なさらないでください」
「ありがとうね、私の名前は、ナーナ・ディケスタよ。ジーテス君、貴方に一度、会ってみたかったのよ」
「こ、光栄です!」
「それで、結局なんで会いたかったの?」
「それはね、貴方の友達を、一度、見てみたかったのよ」
「え、本当にそれだけなの?」
「ふふ、そうだって、昨日も、そう言ったでしょ?」
「それなら、秘密まで言わなくても良かったじゃないのよ」
「そう、言ったのね」
「ええ、言ったわよ。実はジーテスも魔人なのかもしれない、みたいなこと考えながら教えたわよ」
「そうなのね、それなら、ジーテス君、貴方は、私達の秘密を、聞かされたわけだけど」
「は、はい」
「聞いてしまったからには、このまま帰すわけには、いかないわね」
「そ、そんな」
「こっちから聞かせたのに」
「だから、ジーテス君、約束、してくれるかしら?」
「約束ですか?」
「そう、約束」
「分かりました。私にできることでしたらいくらでも」
「ありがとうね。それじゃあ、ジーテス君、貴方には、私の代わりに、イレーナを、支えて欲しいのよ」
「えっと、私がですか?」
「ちょっと母さん、何言ってるのよ」
「貴方にしか、頼めないのよ。秘密を知ってる、貴方にしかね」
「なるほど?具体的にはどうすれば?」
「簡単よ、今まで通り、イレーナと、仲良くしてくれれば、それで良いわ」
「それだけ、ですか?」
「ええ、でも、貴方が死ぬまで、ずっとよ」
「そういうことでしたら、おまかせください。イレーナのためなら、何でもしますよ」
「貴方、さっきと言ってることが違うわよ」
「え、そんなことないよ?」
「ありがとう、ジーテス君、イレーナのこと、よろしく頼むわね」
「はい」
「そんな心配しなくても、私は大丈夫よ母さん」
「それはどうかな?」
「なんで貴方が答えるのよ」
「ふふ、イレーナのことが、どうしても、心配なのよ。今の私じゃ、貴方が、困っている時に、助けることが、できないわ。貴方には、味方が、必要なの、心の底から、信用できる、そんな人がね」
「心の底から・・・信用できる、ねぇ」
「・・・なんでじっとこっち見てるんですかね?信用できるでしょ?めっちゃ信頼あるでしょ?」
「これからに期待ね」
「あれぇ?俺の信用なかった?」
ショックゥー。めっちゃ信頼されてると思ってたのに。
「イレーナ、最後に、何度も言うけど、貴方は魔人よ、これだけは、忘れないでね」
「ええ、わかってるわ」
ナーナさんの部屋を出て、再び悪巧み部屋へ戻る。
「まだ貴方には言ってないことがあるのよ」
「なんです?」
「今朝、称号がなかったって言ったでしょ?」
「言ってたね」
「実はあったのよ」
「あったんだ」
「『暗黒騎士』、それが私の称号よ」
「おー、かっこいいね」
「かっこいいのかしら?人前では絶対に言えない称号だけどね」
「それも魔人関係?」
「おそらくね。魔人には、魔人用の称号があるってことね」
「称号の名前がそんな感じだもんね」
「この称号の効果が気になるわね」
「なんかすごい異能が使えるようになるんだよ、きっと」
「異能ねぇ、人前では使えないし、これ以上増えてもあんまり嬉しくないわね」
「一回くらいなら誤魔化せるよ」
「詠唱も魔法陣もないから、誤魔化すのは難しいわよ」
「そっかぁ」
詠唱も魔法陣もない魔法なんて、俺の固有魔法位しか思い当たらない・・・・・・あれ?
俺の固有魔法って念じるだけで出せて、魔法陣も出ない優れものなんだけど、これって異能では?
「異能って魔力使うの?」
「使わないわよ」
あれれ?俺の固有魔法は魔力使わないよね?
そうなると、俺の固有魔法って異能なのでは?
我が神が固有魔法って言ってた気がするけど、言ってなかった気もする。
まぁ、何でも良いや。なんかすごい眠くなるだけだし。
「さぁ、庭に行くわよ」
「急に!」
「魔法の実験台になりなさい」
「なんでぇー」
庭です。今日も燃やさないように、火属性は使わないようにします。
「炎よ、大地を焦がす龍となりなさい(意訳)」
自分で燃やす気だぁぁぁ!
「水よ!遮る壁となれ!(早口意訳)」
赤色の魔法陣が、彼女の頭上に展開される。そこから一匹の龍がこちらに向かってくる。地面からは離れてるので、まだ燃え移ってはいなかった。こちらに着く前になんとか止めることができた。
「流石ね、結構全力で撃ったのだけれど」
「庭の植物燃やす気だったのかな?」
「貴方ならなんとかしてくれると思ったわ」
「なんでそう思えたんですかねぇ?」
「私のためなら何でもしてくれるって言ったじゃない」
「あー、あんなこと言わなきゃ良かった!」
「さぁ、次行くわよ。私はね、火と闇が適性なのよ」
「じゃあ、闇の方使ってくれません?」
「今は火の気分なのよ。消火は任せたわ」
「そんなー」
これって多分、庭が燃えたら俺のせいにされるよね?全力で消火します。
「やっと、終わったぜ、もう無理」
「お疲れ様。助かったわ」
「そりゃ良かった。もうやらないでね」
「それは約束しかねるわ」
「そっかー」
ちょっと焦げたとこがあるのは気にしないことにしましょう。ノノさんが苦い顔をしているのはきっと気のせいだよ。
「今日はありがとう。初日からいろいろあったけど、今年もよろしくね」
「うん、ことよろー」
新年初日からこんなことになるなんてなぁ。式やってパーティするだけだと思ってたんですけどね。
今日あったことを思い出しながら帰路につく。驚いてばかりの一日だった。これから先、どんな事があっても忘れなさそうだ。
西の空には夕日が見えた。今日も、もう終わりが近いようだ。