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土下座王子の悪役令嬢(ヒロイン)ルート

作者: 香坂 悟

目が覚めると第一王子のカインになっていた・・・


俺、高木敦は只のサラリーマンで独身。そして大のゲーム好き。

神ゲーと名高い乙女ゲーム「ときめく魔法学園」のシナリオをフルコンプした後、トラックにはねられて

気が付くとその乙女ゲームの世界のキャラのカインとして転生していた。


幼少期は王子としてしっかり教養も身に着ける事には苦労したが

生活は転生前に比べれば不便こそあれ生活には困らないから良かった。


6歳の頃に王族・貴族の顔合わせがあり

10歳の頃に悪役令嬢のマリーとの婚約をする事になった。

可愛いけど何故かじっと睨まれたっけ・・・


15歳に魔法学園に入学。

前世ではモテる方ではなかったから周囲の黄色い声は悪くはない、・・・これはしょうがないね。


そして、入学式に主人公のアリアと出会う。桜吹雪の舞う正門前での出会いは確かに王道的なものはある。


案の定、数日後にはマリーが取り巻き二人を連れて主人公のアリアをいじめている。

とりあえず、いじめは良くないので声をかけるとマリー達はそそくさと立ち去ってしまいアリアとの会話になる。ゲーム通りアリアは素直で良い子だった。


一方、マリーは魔法学園入学後から成績が良くはなく、ガラの悪い取り巻き二人を連れている。

周囲に高圧的な態度を取り学校での評判は良くなかった。



そういえば、そろそろアリアが指を怪我するイベントが発生するんだよな・・・

コッソリと自室を出て夜の学園に忍び込む。


『いた・・・。』


アリアのロッカーの前に3人。何か話し声が聞こえているが、2人の笑い声。

明日アリアが怪我する展開を回避するならやる事は一つ。


『そこの3人、何をやっているっ!!』


と明かりを3人に向け、大声を発すると


「誰か来たっ!」

「逃げようっ!!」


3人は逃げ出すが、1人コケて・・・2人はそのまま置いていく。


『・・・。』


お約束と言って良いくらいベタな展開で戸惑ったが

とりあえず、コケた子に近づき明かりを顔に向けると・・・


『え・・・マリー??』

「・・・カイン様っ!?」


お互い、意外だったみたいで思わず声が出る。

まぁ、悪役令嬢だし可能性はあったわけだけど。

こういうのって離れた所で指示するような黒幕みたいな立ち位置だよね。


『うん、まずは話を聞こうか。』

「え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


驚くマリーに構わず二人掛けのベンチに座り、彼女へ隣に座る様に促す。


「はい・・・。」


あれ?高圧的な感じがないぞ?

普段のマリーには見られない姿を見せたかと思えば、大粒の涙をこぼし泣き崩れてしまった。


「・・・私は顔合わせの頃からカイン様の事をずっとお慕いしておりました・・・。」


あ、6歳の時にやった・・・

ちょっと目つきが悪かったけど、可愛かったのは覚えている。


『うん。』


「婚約者として選ばれた時、本当に幸せでした・・・・。」


あ、10歳の時に婚約者として選ばれたんだよなぁ。

凄く睨まれた記憶があったけど、俺は嫌われてはいなかったのかぁ。


『うん・・・。』


「魔法学園に入って、カイン様とアリアさんが近づいていたのが気に入らなくなって・・・」


まあ、婚約者が違う女の子と親しくしてればそれは当然だよね。

やり方は良くないと思うけど、気持ちはなんとなくだけど分かる。


というか・・・


ときめく魔法学園のカインルートを振り返る。ビデオの逆再生を回す様にカインのイベントシーンを巻き戻していく。


怪我をしたアリアの指を舐めるシーンあるし(ぶっちゃけセクハラ)・・・


(婚約者いるのに)アリアに壁ドンして言い寄るシーンあるし・・・


(描写がなかっただけかもしれないけど)一方的にマリーとの婚約破棄するし・・・


花火を背景にアリアとのキスシーンは盛り過ぎだし(偏見)・・・


バッドエンド・グッドエンド・ハッピーエンドにしても、マリーは〇害・自○・追放の破滅フラグ3点セット・・・


乙女ゲーム闇が深いよな。ギャルゲーも変わらんけど

・・・いや、今はそんな話ではない。


え、この王子はここまで慕ってくれている女の子にあんな仕打ちをやったの??

つまり、一番の屑は王子(=俺)じゃん・・・OTL


真実の愛?それ、一山いくら?いや、本当にね。


幸いアリアの怪我イベントは発生しないし、アリアに対しては特別な感情もない。

ここまで思っている女の子がいるのは悪くないし、破滅フラグは誰であっても後味悪いしね。


ちゃんとしよう。お金や物ではない、誠意をもってマリーに応えたい。


『マリー、すまなかった。』


マリーに土下座する。


「カイン様頭を上げて下さいっ!!」

『いや、上げられない。婚約者なのにフラフラした態度しか取れなかった事が問題なんだ。俺はマリーの婚約者としてちゃんとしたいんだっ!!』


「・・・。」


マリーも答えにくいだろう。だから、答えが出るまでは頭を下げる。


「・・・頭を上げて下さい、カイン様。」


マリーの声はとても落ち着いて、気になってしまい顔を上げる。

泣いてはいたが、その表情は穏やかだった。


「・・・嬉しいのです。カイン様から婚約者として認められた気がして・・・」


・・・こんな近くにいたのか、俺のヒロインは・・・


・・・この王子、本当に何やってたんだよ・・・うん、俺だけど。

長かった俺とマリーとの誤解は解けたと思う。


それにしても、ゲームの世界とはいえ土下座が通じるんだな。(説明は覚悟してたけど)


次にすべき事はアリアとマリーとの関係改善だ。



次の日ー

俺はアリアを学園の中庭に呼び出した。


「あの、カイン様。一体どういった御用ですか?」


首を傾げるアリアに土下座する。


『アリアさん、すまなかった。』

「えぇぇぇぇっ!」

『マリーが君に強く当たっていたのは俺のせいなんだ。マリーという大事な婚約者がいるのにフラフラしていたから、俺のせいで君に迷惑をかけてしまった。』

「えぇぇ・・・」


困惑するアリアは少し落ち着かせて


「カイン様、頭を上げて下さい。マリーさんとの誤解が解けたのであれば私から特にいう事はありません。」

『ありがとう。』


平民出身のアリアに土下座した事は学園中に広まる事になり、直接言われる事はないが「土下座王子」とあだ名がついた様だ。

王子様としての印象は大幅に落ち、周囲からキャーキャー言われる事はなくなった。

だけど、これでいいんだと思った。


3日後、理事長室に呼ばれる。

理事長室には理事長と父がいた。もちろん、例の土下座の件だ。

婚約者と一般生徒とのトラブル対応であった事と今までの自分の行動へのけじめである事を説明すると、次からは気をつける様にと注意だけで済んだ。


マリーとアリアとの誤解が解けた後はなるべくマリーの近くにいる事にした。

婚約者であれば自然ではあるし、そうする事で取り巻きが近づかなくなっていった。

付き合っていく事で分かったのはマリーが口下手な事と上手く断れない性格のせいで周囲に誤解を生んでいた事、取り巻きの二人もマリーの公爵令嬢の地位を利用していただけだった。


次の課題は勉強。

教師からの評価は厳しい物があり“授業に集中していない”とは言われていた。

王族の婚約者だからという事で特別対応をするのは、後でマリーを苦しめる事になるので改善の必要がある。


二人で授業の復習をしていると、魔法書を読むマリーに違和感を覚えた。

魔法書を離して見たり近く寄せたり・・・魔法書が読めていない?


『気のせいだったら悪いんだけど、もしかして魔法書が読めていない?』

「はい、実は小さい頃から目があまり良くなくて・・・」

『あ・・・』


睨んでいたのってそういう事かぁ・・・

前世の知識があればそのくらい思いつきそうなのに・・・OTL


魔法の世界なので視覚補助の魔法自体は作れるはず。

後は装備者に視覚補助を付与する魔道具か、装備品に視覚補助の魔法を付与するか

体の負担が予測できないので後者を選んだ。


1週間後ー


『マリー、ちょっと良いかな。』

「はい。」


小包をマリーに渡した。


「開けていいですか?」

『うん。』


マリーが小包を開けると中には眼鏡が入っていた。

こっちの世界にある物とは違い、軽い素材で仕上げている。


「これは眼鏡ですか?」

『うん、視覚補助の魔法を付与した眼鏡だね。視覚補助魔法を常時発動させる方法も考えたけど、こっちの方が体の負担が少ないんじゃないかなってね。』

「付けてみていいですか?」

『もちろん。』


マリーは眼鏡をかけた。うん、いいね。


『どうかな?』

「はい・・・素敵・・・です。」


正面を向いていたマリーが頬を赤らめはにかむ。


『気に入ってくれて良かったよ。』


元々素質があったのだと思う。その後のマリーは驚くほど成績が上がっていった。

学習態度や生活面も改善されていき、学園内でマリーを悪く言う人はいなくなった。



数か月後ー

ソラが魔法学園に転入してくる。

隣国のウィンダル皇国の王子で「ときめく魔法学園」では隠し攻略キャラだ。



アリアとの関係が改善された事で9割ほど破滅フラグの回避は出来ているが、実はマリーにはもう一つ破滅フラグが存在している。


それはソラルートのバッドエンド時。ソラとマリーが結ばれる事になるのだが、マリーはソラの国で処刑されてしまう。

これに関してはエンディングで触れるのみ。理由は分かっていないので、ソラの動きに注意は必要だった。


しかし・・・

ソラは本当に良いやつで、マリーを処刑するに至る要素が見当たらない。

そもそも、接点がないのだ。



ゲームには描写されなかった部分なのだろうか?答えは身近な所にあった。


実はマリーに贈った眼鏡が眼鏡市場を変わるほどの物だったらしく、公爵の屋敷で制作について話す事になっていた。

つまり、マリーの実家だ。


「カイン君、ありがとう。娘から話を聞いたよ。」

『いえ、眼鏡の改良の件は本当に偶然でして・・・』

「違うんだ。魔法学園に入学してから日に日に落ち込んでいる娘を見ていると、とても不憫に思えてきてね。その、縁談の白紙も考えていたんだ。」

『すみません・・・。』

「娘には幸せになってほしいから父親として真面目に考えてくれていた事を聞けて嬉しかった。これからもよろしく頼んだよ。・・・と話がそれてしまったね。」


話が繋がった気がする。

マリーとソラの繋がりの謎。婚約破棄後にソラとの縁談が来たのだろう。

だけど、上手くいかず・・・もしかして、回避できていたのかな?



その考えは甘かった・・・


1週間後、ある噂が学園に広まっていた。

“隣の国の王子と公爵令嬢が付き合っている。”というものだ。


公爵令嬢は3人いて、うち2人は学園の卒業生なので必然的にマリーに疑いの目がかけられた。

噂が約1週間ほど前だから公爵の屋敷に伺っていた時だろうと思う。


「・・・その、誤解なのです。落とした書類を拾っていただいた上に、教員室まで持っていくのを手伝っていただいたんです。」


あ、お約束展開。

二人で昼食をとっている時にマリーは恐る恐る話し出した。

もちろん、噂になっていた事は分かっていたのだろう。


『大丈夫だよ。俺がマリーを疑うなんて事はないから。』


本当はマリーを抱きしめたいけど、今は昼食中。

安心してほしいから、笑顔を向ける。


「はい。」

『うん、良かったよ。』


放課後になった。帰りの支度をすすめていると、ソラから声がかかる。

中庭のベンチでの会話・・・なんか別フラグ立たない?


「マリーさんの事が好きになってしまったんだ。婚約者がいる事は知っているし、それがお前でも・・・。」

『俺は引くつもりないよ。でも、こういうのはマリーの気持ちが大事だろ?』

「・・・俺が告白するのは止めないんだな?」


止める理由はない。

この王子自体、婚約者いるのにアリアを口説いてた経緯有ったし・・・

だから、覚悟はすべきだろう。


『俺はマリーを愛している。それ以上言う事はない。』

「・・・分かった。」



3日後


俺は、マリーから学園の屋上に呼び出された・・・


『・・・マリー、待たせてすまない。』

「いいえ。私がお呼びしたので気になさらないで下さい。」


放課後、時間は夕方。

オレンジ色の空に、所々に見える雲・・・

静かに流れる風に靡く金髪が綺麗で、マリーが佇む姿に心を奪われる。


「どうされましたか?」

『・・・いや、綺麗だなと思ってね。』

「もう、何を仰っているんですか。」


本心から出た言葉だったけど、マリーの話を聞くべきだろう。

屋上のドアを閉めて、マリーの傍に寄った。


「昨日、ソラ様から告白されました・・・。」


やはり、その話だね。


『うん・・・。』


覚悟は出来ている・・・



「私は今でもカイン様をお慕いしておりますし、カイン様に応えたいからお付き合い出来ません。とお伝えしました。」

『でも、それは・・・!!』


俺の言葉はマリーの指によって続かなかった。


「カイン様はきっと“私の思いに応えてきた”と仰っていただけるのは分かっています。ですが、私もカイン様に応えたいのです。そうなると、順番なんてどうでもよくありませんか?二人で思い、思われる。それはきっと素晴らしくて尊いものだと思えるのです。・・・言っていてなんですけど・・・ちょっと、恥ずかしいですね。」


マリーは手を合わせて、苦笑いをしながらはにかんだ。


「ちゃんとカイン様と向き合っていきたい。あらためて聞いていただくてお呼びしました。」


俺はただ気持ちの思うまま、彼女を抱きしめていた。


『マリー、愛している。』

「はい、私もです。」


この気持ちを大事にしよう。これからも大変な事は起こるだろうけど、きっと乗り越えていけると信じて・・・


(完)

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

別の話の作成中に悪役令嬢ものを考えて(寄り道して)いたら、思いついた話です。

話は短くしているので大雑把な展開になってます。

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