06 愛ちゃんの夢と謎の転校生②
六話 愛ちゃんの夢と謎の転校生②
愛ちゃんと同じタイミングで転校して来た後ろの席の女の子……石井ゆづき。
同情して話しかけただけで、まさかオレまで笑い者になっちまうなんてな。
ーー……今まで存在感を消してたのに全てが台無しだ。
「愛ちゃんだ。 オレの心を今癒せるのは妹ゲームではない……リアル妹の愛ちゃんだけだ!!!」
オレは学校が終わるなりいち早く愛ちゃんを求めて家へと全力ダッシュ。
しかしその途中でいつもの浮遊霊の中の一人がオレのもとへ。 『愛ちゃんだったら担任の先生と話してたから今帰宅中だぞ。 その先のT字路……曲がり角で待ってたら合流できるぜ』とナイスな情報を教えてくれた。
「え、それ本当か?」
『嘘じゃねーよ。 てかそんなこと言っていいのか? 愛ちゃんの見守りやめるぞ』
「あ、あああ。 すまん、嬉しくてついな」
なるほど。 学校でも帰宅中の今でも、顔なじみの浮遊霊の人数が少なかったのは昨日お願いした……愛ちゃんを見守ってくれてたからだったのか。
やっぱりこいつらは信用できるぜ。
オレは先ほどの浮遊霊に教えてもらった通りに少し行った先のT字路で愛ちゃんを待つことに。
しばらくすると、オレの姿を先に見つけた愛ちゃんが「お兄ちゃーん」と嬉しそうに手を振りながら、背負っている赤色のランドセルを弾ませながら駆け寄って来た。
◆◇
「へぇー、フユーレイさんたちが私が来るの教えてくれたんだねー」
「そうだよ」
「後でお礼言わないと。 家に帰ったら手、繋いでいい?」
あぁ、ちゃんと人目のつかないところで霊たちと会話しようとしてくれている。
まだ小学三年生なのにそんな気遣いもできるなんて。 ウチのクラスメイトたちも少しは見習ってほしいものだぜ。
オレはそんな愛ちゃんに癒されながら、家までの道を愛ちゃんの歩幅に合わせてゆっくりと歩く。
「初めてのクラスはどうだった?」やら「仲良くなれそうな友達はいた?」などと会話に花を咲かせていると、たまにいるんだよな……幸せな空気をぶち壊そうとしてくる空気の読めない奴が。
それはオレたちは細い川に上に掛かったアスファルトの橋の上を渡ろうとしていたタイミング。
橋の下から黒い腕が勢いよく飛び出して来たのだ。
「ちょっ!! 愛ちゃん危ない!!!」
ちょうど黒い手が出て来たのが愛ちゃんが歩いている側だったため、オレは安全を優先……愛ちゃんの手を掴んでその先に行くのを止めさせる。
そして愛ちゃんもはじめこそ一瞬何が起こったか分からなかった様子だったのだが、オレが触れたことで愛ちゃんにも視えたのだろう。 「うわわ!!」と驚きの声をあげながら数メートル先に飛び出ていたそれへと視線を向けた。
「お、おおお兄ちゃん何あれ……! なんか黒いのがいるよ!?」
愛ちゃんが少し怯えた様子で指差しながらオレに尋ねてくる。
「うん。 いるね」
「なにあれ……!」
「あれは全身が真っ黒だから……悪霊だね」
「あ、悪霊?」
オレは愛ちゃんに悪霊がどういった存在なのかを簡単に説明。
愛ちゃんが今まで絡んできた害のない浮遊霊たちとはまったく真逆の存在……良いことなんて絶対にないので近寄らない方がいいことを教えると、愛ちゃんは子供特有のものなのだろうか。 興味津々でその黒い腕に視線を戻す。
「あれが……悪霊。 悪い霊なんだね」
「そうだよ。 今後ゆっくりと、こういう悪いのもいることを愛ちゃんに教えようと思ってたんだけど……ちょうどよかった。 愛ちゃん、これからもし愛ちゃんが幽霊を視えるようになったとしても、あれみたいな黒い霊を見つけたら気づかないフリをしてすぐに逃げるんだよ?」
オレと愛ちゃんが話している間にも、悪霊は橋の下からゆっくりと上へと這い上がってくる。
身長的には愛ちゃんと同じくらいか。
見てみると全身が水浸し。 かなり汚れた衣服から水滴を落としていて、自分のことが視えていると気づいたのだろう。 首を九十度不気味に回しながらこちらに顔を向けて来た。
「お、お兄ちゃんっ!」
「大丈夫だから後ろに隠れてて。 今からお兄ちゃんが倒すから」
悪霊が地面に足を這わせながら……すり足でこちらへと近づいてくる。
一般的にはこういう時は逃げた方が正解なのだが、オレには自慢の【強制除霊】がある。 オレは愛ちゃんを背中に隠すと悪霊に向かって手をかざし、いざそれを施そうとしたのだが……
「ま、待ってお兄ちゃん。 あの悪霊さん、何か言ってるよ?」
後ろから愛ちゃんがオレを見上げながら小さく声をかけてくる。
「うんそうだね、でも耳傾けなくていいよ」
「話、聞いてあげないの?」
「構わないよ。 だってアイツは悪霊……ろくなこと言わないから。 それにほら、ブツブツ言ってるだけで何言ってるか分かんないでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
やはり小学生。 悪霊の危険さがあまり理解できていないようだな。
これだとオレがいない時に出くわしたら危険……霊が視えるようになる特訓はそこらへんが解ってくるまで控えた方がいいのかもしれない。
これは……愛ちゃんの夢を途中で断念させるのは心苦しいけど、帰ったら話し合いだな。
『オ……、ーー……ガ……、テ……』
悪霊が掠れた……まるで壊れたラジオのような声でオレたちを見ながら川の方を指差す。
「ほらお兄ちゃん、何か言ってる!!!」
「え、あ、あぁ……」
なんだこいつ……普通の悪霊ならすぐにオレたちに負を与えようと飛びかかってくるはずだ。 なのにそうしてこないってことは、かなり弱っているのか?
『オ……ノ、ーー……ガ、サ……シ、テ……』
悪霊が少しずつ近づいてくるにつれて声が先ほどよりもはっきりと聞こえるようにはなってきたが、やはり上手く聞き取れない。 もしかしてあれか? 声に集中させといて射程圏内に入った途端に襲いかかってくるパターンか?
悪霊なら大いにあり得る。 だとしたら早く対処しなければ。
オレは改めて目の前の対象を強制除霊させるために手をかざす。
しかし、どれだけ純粋な心を持っているんだよ。
「だめーーーー!!!!!」
「え、えええええええ!?!?!?」
それは後ろから腕に飛びついて来た愛ちゃんによって阻止されたことにより不発。 結果、オレは最終手段を実行することを余儀なくされた。
「愛ちゃん、ごめん!!!」
「にゃあっ!?」
オレに最後に残された手段……そう、逃げる!!!
オレはくるりと悪霊にを向けると愛ちゃんを抱きかかえながら猛ダッシュで来た道を逆走。
別ルートで家へと逃げ帰った。
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