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19 あの子と狐①


 十九話  あの子と狐①



 マリアがウチで暮らすことが決まった翌日の土曜日。

 本日オレは愛ちゃんとマリアの三人で、少し離れたところにある中規模のショッピングセンターへと来ていた。

 


「ねぇねぇマリアちゃん、これ可愛いよ!」


「むぅ。 マリア、ピンクとかよりは黒の方が好み」


「うわー! 大人だねー!!」



 今オレたちがいるのは女性用下着売り場。

 一応昨日、緊急でマリアの服や下着を買いに行ったんだけど可愛いのがあまりなかったからな。 だからこうしてじっくり好みのものを選んでもらうために来たのだが……



「ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃんはこのピンクのパンツと白のパンツ、どっちが可愛いと思う?」


「え」


「良樹。 マリア、この黒がいいけど……愛みたいな可愛いのがいい?」


「え」



 パンツを持ちながら迫り来る愛ちゃんとマリア。

 そしてその奥からはオレに不審者を見るような視線を向けてくる従業員たち。



「うわあああああああ!!! もうオレは知らない!!! お店出たところで待ってるからあああああ!!!!」



 リア充たちなら余裕なのだろうが、その真逆の存在……インキャのオレには果てしなく辛い。


 冷たい視線ほど心に刺さるものはないよな。


 店前のベンチで待っていると二人はお気に入りのパンツが決まったらしくニコニコしながらオレのもとへ。

 次は服を買いに子供服売り場へと向かったのだが、先ほどの冷たい視線……トラウマが蘇りオレは再度外で待つことにした。



「じゃあお兄ちゃん、行ってくるね!」

「良樹、待ってて」


「おー。 いってらっしゃい、ゆっくりでいいからねー」



 さてと、ベンチは……埋まってるか。



 愛ちゃんとマリアが楽しそうに店内へ入っていくのを見届けたオレは、近くの柱にもたれかかりながらスマートフォンに視線を落とす。

 そこで周囲に誰もいないことを確認した後に、最近見つけた原作がエッチなゲームのアプリ【幼女開発魔法・スマートフォン版(全年齢対応)】をプレイしていたのだが……



 アプリを始めてからどのくらい経っただろう。

 突然目の前から「あっ」と声が聞こえたので反射的にその方向へと視線を向けると、そこには弟……だろうか。 小さな男の子を連れたプライベート姿の石井さんの姿が視界に入った。


 

「あ、石井さん」


「ーー……」



 おいおいなんだよ。 反応してきたのはそっちなのに、こっちから話しかけたら無視か?

 石井さんは動揺しているのか視点がまるで定まっていない。 このままでは気まずいし、「またね」と声をかけてここから離れるべきか……そんなことを考えていると、隣にいた男の子が「姉ちゃん、知り合い?」とオレを指差しながら石井さんに尋ねた。



 姉ちゃん……てことはやはりこの子は弟か。

 それにしてもこの弟、姉とは違ってかなり見た目が普通だ。 黒髪短髪でキャラ物のシャツに短パン……比べて石井さんは色あせた黒のTシャツに紺のジーンズだもんな。



 石井さんは先ほどの弟の質問に対して「うん、そう」とマリア並みの端的な言葉で解答。 すると弟はやはり違う……石井弟はニカッと笑うと「こんちはー!!」とオレに向けて元気に挨拶をしてくる。



「こ、こんにちは」


「おう!!!!」



 ま、眩しいっ……!!!

 これが好青年……生きてる世界が違いすぎるぜ!!!



 オレが目の前の好青年を直視できないでいると、石井弟は「じゃあ俺一人で選んでくるから、姉ちゃんはそこで話して待ってろよ!」とやんちゃに走りながら店の中へ。 オレは石井さんと二人、取り残されることとなった。



 ◆◇



 石井弟がいなくなってからというもの、コミュ障同士のオレと石井さんはお互いに一言も発さず。

 流石に隣でちょっとエッチなアプリも出来ないため、オレは石井さんの影に視線を落として集中……先日見た狐がまだいるのかどうかを確かめる。



 ーー……いるな。

 耳が少しだけ見える。



 上手く隠れてるつもりなのかは知らないけど、残念だったな。

 悪霊とかは今は憑いてないっぽいけど未だに石井さんからは何か他の禍々しい気配を感じる……もしかしてこいつがそれを発してるのだとしたら、あの時の悪魔みたいに石井さんに寄生して静かに生きる力を奪っているのかもしれない。


 

 だったら答えは簡単だ。

 相手が悪魔ではない以上、オレの強制除霊の対象……成敗してくれる。



 オレはこっそりと手をかざして狐の霊へ向けて強制除霊を試す。 しかし次の瞬間、いきなり『バチン』と静電気とは比べものにならないほどの衝撃が指先に走り、そんなオレを嘲笑うかのように狐は『コン』と甲高かんだかく鳴いて影の中へと消えた。



「ーー……いてて、なんだあの狐」



 未だ痛みの和らがない指先をもう片方の手で庇いながら小さく舌打ちをする。

 するとどうだろう、オレが大きくため息をついて石井さんの顔へと視線を上げると、石井さんが目を大きく見開いてオレを凝視していることに気づいた。



「え、えええ、どうしたの石井さん」



 まさかマリアの時みたいに脚を見てたと思われて……セクハラ認定されちゃったやつか!?


 

 高校生相手にセクハラ疑惑とか洒落にならない。

 オレはそこから必死に言い訳を考えるべく脳をフル回転。 しかしいい言い訳を思いつくよりも先……石井さんが全身を細かく震わせながら小さく口を開いた。



「今、『狐』って言った……?」


「え」


「い、今言ったよね『狐』って!! 視えるの!?」



 お、おおおおお!?!? な、なんだなんだ……いきなり性格が変わったぞ!!!

 石井さんが顔を近づけて問い詰めて来ているのだが、長い前髪の隙間から見える目がかなり怖い。 



「い、石井さん!?」


「お願い答えて……言ったよね、狐って!?」


「いや、あのー……」


「加藤くん!!」



 怖えええええええええええええええ!!!!!



 ふむ、いつもならしらを切るところではあるのだが、『狐』という単語に反応している辺り何か心当たりでもあるのだろうか。

 それにこの状況で納得のいく返しをしないことには解放されないような気もするし……

 


 石井さんも根はインキャのはず。 少し話しても皆には内緒にしてくれる……よな?



 とはいえここはショッピングセンター。

 周囲の目や耳がある中でそういう話をしたくなかったオレは「ここで話すのもあれだから今度時間があるときに学校で話そうよ」と提案。 すると石井さんもオレが若干引いてることに気づいたんだろうな。 「そ、そう……だよね、いきなりごめんなさい」といつもの暗い石井さんに戻った。



「ううん、いいよ。 ただ一つお願いがあるんだけど、オレが視えるってことは……周りには言わないでくれる?」


「やっぱり……」


「それで、どう? 言わないって約束してくれるかな」


「ーー……わかった」



 ◆◇



 その後、さすがは男の子……先に店内に入った愛ちゃんたちよりも早く石井弟が帰還。 そこで石井さんたちとは分かれてオレは再びアプリ【幼女開発魔法】を起動して集中。 愛ちゃんたちが戻ってくるのをひたすら待っていたのだった。

 


「石井さんたちが帰ってから約30分……ゆっくりでいいとは言ったけど、服選ぶだけなのにいつまでかかってるんだ」




 女子の買い物……長げぇ。


 


お読みいただきましてありがとうございます!!!

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