18 異国の銀髪少女⑨【挿絵有】
十八話 異国の銀髪少女⑨
「ほらな、食べてるだろ」
「うん。 マリア、見るの初めて」
いつもは誰も居なくなってから食べてたんだろうな。
オレたちは悪魔の視力が悪いことを利用して物陰に隠れて行動を開始。 一先ずは周囲に溢れ出していた悪霊たちを強制除霊で消していく。
『ーー……!! マタ戻ってキタノカ。 ドコだ』
悪魔が周囲を見渡しながら探し始めるも、オレたちがどこに隠れているのかすらも目星は付いていないようだ。
「よし、じゃあマリア、まずはオレがやる……待ってろよ」
「無茶しないで」
「あぁ」
さて、今からオレの地獄タイムがいつまで続くんだろうな。
オレは悪魔に向けて手をかざし、強制除霊を連発。 その度にオレの腕や脚……至る所に切り傷が走っていく。
「痛ってぇ……」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない……けど、今回だけ頑張ってやるよ。 オレ普段はこんなキャラじゃない……インキャなんだからな」
「良樹」
「マリア、あの悪魔の体を覆っている膜みたいなものが浮き出て一気に剥がれていってるの見えるか? あれが悪魔の食べてきた霊の鎧……あれが少なくなれば、それだけお前の力が通りやすくなるはずなんだ」
出来るだけマリアには悪魔の防御が低くなってからフルパワーで挑んでもらいたい。
オレは全身に走る痛みに顔を歪めながらも自爆特攻を続行。 悪魔もこのままでは危険だと感じているのか、怒りの咆哮をあげながら至る所に超常現象で浮かせた小物や割れた花瓶の破片などを飛ばしていった。
◆◇
『ドコダ……どコだああアアアアアア!!!!!』
この焦り方……そろそろか。
大体始めてから三十分といったところだな。 悪魔が今までよりも激しく反応を始めたため、吸収していた霊の残数が僅かしか残っていないと判断したオレはマリアの背中に手を添えた。
「よし、マリア。 オレはこのまま続けるから、マリアも同時に頼む!」
「うん! 良樹、大丈夫? 息、荒い」
「そう思うならオレのためにも早く終わらせてくれ」
「わ、分かった」
マリアが再び十字を切り悪魔祓いを開始。 やはり防御が薄くなった影響からか、悪魔は苦しみの声をあげながら自身を包み込む光をどうにか消そうと必死に羽をばたつかせる。
「良樹。 あれ、き、効いてる……?」
「だな。 でも気は抜くなよ」
「わかってる」
悪魔の息が次第にかなり荒くなっていく。
それでもなお力を弱めずに二人で力をぶつけていると、まずはオレの一つの役目が終了……とうとう悪魔を守っていた霊の鎧が無くなり何も剥がれなくなった。
「よ、よし」
「すごい、良樹……」
後はマリアに力を注ぐことだけに集中すればいいだけ。
そう少し安堵した……その時だった。
「ーー……あ、やべ」
視界が大きくグニャっと歪む。
平衡感覚を失ったオレはバランスを崩し、マリアにもたれかかるように膝をついた。
痛い……さっきまでは集中してたからそこまで気にはなっていなかったけど、呪詛返しの影響で全身に走った傷口がとてつもなく痛い。
「生きてる?」
マリアが振り返らずに声をかけてくる。
「あぁ。 すまんマリア、気にせず続けてくれ」
意識が遠のきそうになるも、気合いでなんとか持ちこたえる。
ここでオレが倒れて霊力供給をやめてしまったら、これまでのオレやマリアの努力が無駄になってしまうからな。 それだけはなんとしてでも避けなければ……。
しかしそう、ここで予想していなかった個人的な問題が発生してしまったのだ。
少しでも体勢を楽にしようとおでこをマリアの背中にくっつけていたのだが、数秒後マリアから香る女の子独特の甘い香りとボディーソープ……加えて汗の香りが合わさった状態でオレの嗅覚を刺激。 世界最強のアロマがオレを襲ってくる。
疲弊してる時に癒しって……マジかよ。
このままマリアの香りを嗅いでいたら危険……そうは分かっていてもオレの本能がそれに逆らい吸い込んでいく。
「よ、良樹?」
「やばい……意識飛びそう」
「大丈夫? やめる?」
「いや……出来ればマリア、オレを起こさせるような方法があれば教えて欲しい」
「起こさせる?」
「うん。 目が覚めるならなんでもいいんだ。 怒らせるでも痛がらせるでもなんでも……」
「またあそこ、蹴る?」
「いや、それは気絶しかねないから却下で」
「そう」
「すまんな、本当ならオレ自身で考えたほうがいいのかもしれないんだけど、もう考える気力も残ってないんだよ」
「わかった。 ちょっと待って、考えるから」
マリアは悪魔に力を打ち込みながらオレの目を覚めさせる方法を考察。
その間にもオレの意識ゲージが物凄いスピードで減少していく。
『グア……ガっ、アアアアア……!!!』
悪魔のこの苦痛の叫び声すらも遠くなってきたと感じ始めていた頃。
それは突然起こった。
「むぅ……仕方ない。 今回だけ特別。 良樹、手、こっち」
マリアが片手を後ろに回してオレの手首を掴むと、そのまま前へとスライドさせながら移動。 オレの手が何か……かなり僅かではあるが、ほんのりと柔らかい感触を捉える。
「ま、マリア?」
「こ、こっちの手も」
まるで後ろから抱きつくような体勢になったオレ。
そして両手から伝わるのは、やはり『柔らかい』だけでは済まされない、言葉にするのも難しいほどの……
こ、これはまさか……まさかあああああああああああああ!!!!!
◆◇
「よ、良樹……。 ちょっと……、指、動かしすぎ」
「ありがとうマリア。 ありがとう、本当にありがとう」
「わかった。 わかったから……もう意識戻ったのなら元の場所に戻して」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
「んんっ、き、聞いてない……。 ねぇ良樹、わざと聞こえてないふり、してる?」
「ありがとう……、ん? なんだ、先端が固く……」
「ーー……っ!!」
一体オレは何を触っていたのダロウ。
目を閉じていたオレにはさっぱりなんのことやら分からず。 マリアの柔らかさと時折漏らす妖艶な声に興奮しながらも絶え間なく霊力を注ぎ込んでいたのだが、マリアが「良樹、み、見て!」と声をかけてきてようやく目を開けた。
「ん、なんだ?」
「やっぱり起きてた」
「それでなんだ」
「前、見て」
「ん」
マリアが指差した方向……そこにあったのは完全に崩れ落ちた石像と、その上にはパラパラと灰になって消えていく悪魔のシルエット。
オレが「あれ、倒したのか!?」と尋ねると、マリアは少し恥じらいながら口を開いた。
「倒した……というより気づいたら倒してた」
「は?」
「良樹の手がいやらしくて、それを忘れるために全力を出し続けてたら灰になってた」
「おぉ……おおおおお!!!!」
流石に倒される瞬間を見られていなかったのは悪魔からしたら少し不憫ではあるが、倒せたことに変わりはない。
オレとマリアが消えゆく……かつて悪魔だった残骸を眺めていると、後ろから「お兄ちゃん!」と愛ちゃんの声。 何事かと思い振り返るなり、再び緊張感の増す言葉が放たれた。
「ここ……なのか分からないんだけど、パトカーの音、聞こえてきたよ!」
「え」
顔を青くしてマリアを見ると、マリアが小さく頷く。
「な、なんでマリア納得してんだ? お前まさか通報したんじゃないだろうな」
「してない。 でもあれだけ物が飛んだり割れたり音がしてたんだから、近所の人が通報するのもおかしくはない」
「うおおおい!! あれは悪魔のせいだろうがああああああ!!!!」
見つかったらかなりややこしいため、オレたちはそそくさと教会から退散。
マリアの手を引っ張りながら家へと向かった。
「よ、良樹なんで? マリア、もう良樹や愛の家に行く理由なんか」
「いや考えろ。 もしあんな光景を目にしたらあのババァ、絶対にマリアに強く当たるに決まってるだろ? だったらもうあそこになんか行かなくていい……電話も貸すから、アメリカのパパに電話してもいいぞ?」
「いいの?」
「構わん。 パパと話した上で、またこっちで新しい師匠紹介してもらって頑張るなり故郷に帰るなりすればいい。 それまではウチで泊まってけ。 愛ちゃんもきっと喜ぶ……ね、愛ちゃん」
「うん!!」
愛ちゃんの迷いのない笑顔に動かされたのか、マリアはオレたちを交互に見ながら「ありがとう」と一礼。
三人仲良く家へと帰ったのだった。
◆◇
翌日の朝、流石にこの傷で学校へ行くのは躊躇われたのでオレは休むことに。
愛ちゃんを送り出した後、故郷のパパと電話を終えたのであろうマリアとゆっくり話をすることにした。
「パパなんか言ってたか?」
「マリアの好きにしていいって。 帰りたければ帰ってきてもいいし、別のところで頑張りたいのなら、この辺の教会関係者はほとんど知り合いだから自分から頼みに行きなさいって」
「そうか」
「それでマリア、こっちで頑張るって言った」
「ほう」
「だからマリア、ここに住みたい」
「そうかそうか……って、え」
ええええええええええええええ!?!?!?
詳しく聞いてみたところ、マリアは霊力タンクなオレと一緒にいた方が色んな経験が出来て、かつ成長出来ると判断……先ほどのお願いに至ったらしい。
「だめ?」
マリアがかなりあざとく……可愛い上目遣いでオレに近づいてくる。
「いや……え、マジか……マジかあああああ!!!!」
考えてもみなかった最高の展開にオレの心臓は爆発寸前……小学三年生の少女二人との同棲生活を想像して息が荒くなる。
「うん。 マリア、ここで……良樹と愛と一緒に住みたい。 もしお金的に厳しいんだったらパパにお願いして……」
「あああああ!!! いや、大丈夫!! そこは気にしなくて大丈夫だから!!!」
下手にマリアパパと電話越しにでも話す状況になったとしたらと考えると、それだけで冷や汗が出る。
それにこれは願ってもない……考え方を変えれば妹が二人になるんだ!! この機を逃さない手はない!!!!
もしかしたら妹二人と暮らしてれば、いずれ……
巫女×シスター×妹=えっちぃイベント盛りだくさん・洗濯時パンツ見放題
うおおおおおおおおお!!! 滾ってきた……オレ、勝ち組すぎるだろおおおおおお!!!!
オレは「マリアが良いんだったらオレは大歓迎だよ」とクールに返答。
その後これはどう手続きをしたら良いのだろうか……マリアにも学校デビューをして欲しかったオレは、愛ちゃんの通う学校関係者に電話をして直接聞いてみることに。
ワンピースを着たマリアとともに学校へと赴くと、あれは……先生だよな? 校門に入るなり近くにいたおじさんと目が合い、そのおじさんは目をキラキラと輝かせながらオレのもとへ……むしろマリアだけに視線を集中させながら物凄い勢いで駆け寄ってきた。
「あ、えーと先ほどお電話した加藤……」
「はい伺ってますよ!! 私、教頭です!!!」
「きょ、教頭先生……ですか。 それでお聞きしたいことがありまして……」
「この子ですか!? 我が校に通わせたいとおっしゃっていたのは!!」
「あ、はい。 マリアって言うんですけど……」
「素晴らしいワンピースだ!!」
「そうそう素晴らしいワンピースでしょ……って、え?」
そこからは聞いてもいないのに教頭が早口で弾丸トーク。
「自分はいずれ自分好みの制服をデザインするのが夢」だとか、「その構想をずっと練っていたがどれもしっくり来ず、モヤモヤした日々が続いていた」やら、本当にどうでもいい内容。
そして今マリアの着ているセーラー型のワンピースを見て最高のアイデアが浮かんだ……とのことだった。
「教頭先生……マリアのこと、見すぎ」
「ああああ、ごめんねごめんね!! でも本当にキミの着ているワンピースが好みだったもので……!! うん、襟元のその模様の箇所を紺色の一本線のラインに変更して、スカートの裾部分にも同じラインを入れたら……うん!! シンプル・イズ・ベスト!!! 完成だ……完成したぞおおおおおお!!!!」
それからしばらく教頭はオレたちのことなど無視して大盛り上がり。
耐えきれなくなったオレが「あの、どう手続きしたらこの子……マリアをこの学校に通わせることが出来ますか?」と尋ねたのだが、割とスムーズに答えてくれたのだった。
「あー、はいはい!! それならこの紙に書いてる通りにしてもらったらいいよ! 何かイレギュラーがあったらまた連絡してくれればいいから!!」
「え、あ、ありがとうございます?」
「それよりもキミ……マリアちゃん、だったかな!! もっとよく観察させてくれ……キミのおかげで私の今後いつか来るであろう校長生活がより華やかになる!!」
「もっとよく観察……こう?」
マリアはわざとやって……オレと教頭をからかっているのか?
オレたちを前にマリアはワンピースのスカート部分を掴んで、パンツが見えないギリギリの位置までたくし上げて「こんな感じ?」と尋ねてくる。
しかしここは意見の一致……すぐにオレと教頭の素早いツッコミが入った。
「マリア!! 早くそれおろせ見えるだろおおおお!!!」
「ストーーップ!! それ以上されたら私、逮捕されちゃうーー!!!」
◆◇
なんかちょっとこの学校に通わせるのが不安になってはきたのだが、愛ちゃんも問題なく通えてるようだし教頭以外は普通なのだろう。
手続きの手順は分かったため、もうこの変態教頭には用はない。 オレは「じゃあ早速してきます」と頭を下げるとマリアの手を引いてそそくさとその場を後に。 今後ウチで住むとなれば色々と必要だからな……オレはマリアと共に、とりあえず数日分の服や下着、その他必要そうなものの買い出しに向かう。
「ーー……ん、どうしたマリア。 なんか嬉しそうだな」
「うん。 ずっと見られるのは恥ずかしいけど、服を褒めてもらったのは嬉しい」
「そうなのか?」
「そう。 それにマリア、また学校行けるの嬉しい。 あ、良樹」
「なんだ?」
「マリアも愛と同じように、お兄ちゃんって呼んだ方がいい?」
「なっ……!!」
お兄ちゃん……やはりなんて最高の響きなんだ。
しかしこの質問に対してオレは脳をフル回転。
色々と妄想した結果、母親以外に名前呼びされたことないからな。 「良樹」呼びでお願いしたのだった。
「それにしても良樹、その服……長袖暑くない?」
「仕方ないだろ。 昨日の呪詛返しのせいで傷だらけなんだから」
「別に出しててもいいと思う。 マリアは昨日の良樹、かっこいいって思った」
「え」
「でもここ、ずっと触ってフニフニしてたから減点。 もう触っちゃだめ。 分かった?」
「ーー……はい」
お読みいただきましてありがとうございます!!
巫女、シスター、可愛い。。
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