17 異国の銀髪少女⑧
十七話 異国の銀髪少女⑧
悪魔について『とあること』が判明したオレはゆっくりと立ち上がり、後ろで愛ちゃんの介抱を受けていたマリアのもとへ。 「マリア」と声をかけると希望のない……輝きのない瞳がオレへと向けられた。
「あのな、あの悪魔のことなんだけど、一つ分かったことがあるんだ」
「そう」
「実はあの悪魔……」
オレがそのことを伝えようとしたタイミング。 マリアがオレの言葉を遮るように「もういい」と力なく首を左右に振る。
「え」
「なにを聞いても無理。 あれを倒すことなんてマリアにはできなかった」
完全なほどに戦意喪失。
心の折れたマリアはオレの言葉に耳を傾かせる気はなく、「いつになったらマリア、パパやママたちのところ帰れる?」と一人静かに涙を流し始めた。
「お兄ちゃん、何かいい方法思いついたの?」
「うん。 でもそれにはマリアの力が必要なんだけど……今のマリアの様子だと難しそうだなぁ」
「そうなんだ……じゃ、じゃあちょっと待ってて」
「ん?」
愛ちゃんが力強い視線をオレに向けてきたため何をするのだろうと思って見ていると、愛ちゃんは元気な声でマリアに話しかけはじめる。
「ね、ねぇマリアちゃん! お兄ちゃんがいい方法思いついたんだって!」
「ーー……」
「そ、それでね! マリアちゃんの力が必要らしいんだけど……お話聞いてもらえないかな」
「ーー……」
「だから……だからえっとね、うーーんと……!」
あぁ、なんて健気でいい子なんだ愛ちゃんは。
オレのためにここまで頑張ってくれて……。
オレはここで話を挟むべきではないと判断。 マリアのことは同年代・同性の愛ちゃんに任すとして……とはいえマリアが話を聞いてくれるまではやることがなかったためオレはしばらくの間マリアを見つめていたのだが……
それにしても細い身体……よくもまぁあんな劣悪な環境の中で頑張ってきたものだ。
なのに逃げずに頑張って特訓・修行してるってことは、それだけ一流のシスター……なのかは分からないがそういう退魔師的な存在になりたいのだろうな。
夢に向かってひたむきに頑張ってる姿も愛ちゃんそっくりだ。
何かに頑張っている女の子ほど魅力的なものはない。
「あぁ……尊い」
それからどのくらい経っただろう。
オレがワンピースから出るマリアの脚をぼんやり眺めながら感心していると、オレの視線に気づいたのか? マリアがゆっくりとオレを見上げながら「なに?」と尋ねてきた。
「あ、良かった。 やっとマリア、オレの話聞く気になってくれたのか?」
「違う。 さっきから良樹、マリアの脚見てた」
「え」
「なんで?」
「なんでって……ぐ、偶然じゃないか? 確かにちょうど今オレはマリアの脚を見てたけど、ずっと見てたわけではないぞ?」
「変態?」
「ちげーよ!!!!」
ていうか女の子の脚を見てただけで変態扱いされるとか……確かにそうかもしれないけど、流石に敏感すぎないか?
特に今のマリアは悪魔との圧倒的な力の差に絶望してたのに、なんでそういうことに関しては少しとはいえ感情を出せるんだよ。
オレは女の子のセクハラに対する理不尽さから大きくため息をつく。
しかしそれと同時……オレの脳がこのどうしようもない現状を打破できるかもしれない、素晴らしい案を思いついたのだ。
なんだよ、あったじゃないか……マリアの調子を取り戻す画期的な方法が!!!!
オレはマリアに見つめられながら目の前まで歩み寄ると、その場でしゃがみ込み視線をマリアのスカートへ。
「なに?」
「うんにゃ、なんにもー」
さてここからはスピード勝負だ。
オレはマリアの脳が理解するよりも早くスカートに手をかけると、それを勢いよく上へ。 魅惑のデルタゾーンを隠していた布をハラリと捲りあげた。
「ーー……っ!」
マリアは目を大きく見開きながら今起こっている自体を必死に脳へと伝達。 次第に頬が赤く染まっていく。
ふっふっふ……さすがはオレだ。
どうだ凄いだろう!! これこそオレが先ほどマリアとの会話からヒントを得た究極技!! マリアもクールであまり感情を表に出すタイプではないが女の子……少しエッチな悪戯をすれば、恥ずかしさが上昇して絶望の気持ちも吹き飛ぶのではないかと考えたのだ!!!!
さて、マリアの反応も気になるところではあるが、せっかく見えるんだ。 マリアが愛ちゃんのどのパンツを借りたか拝見させてもらおう。
オレは脳内を録画モードに変更させつつその視線をマリアの下半身へ。 一番最初に視界に映ったのは白い太ももで、そこから一気に上へと視点を上げていったのだが……
「ーー……あれ?」
思わず声が漏れる。
はだ……いろ?
なんという事実、履いていない。 オレの瞳が捉えたのはここに向かう前にリビングで見た汚れを知らない神聖な大地そのもの。
オレは生唾をごくりと飲み込みながら視線をマリアの顔へとあげて一言「ごめん」と頭を下げる。 そしてその直後、やはり女の子は男の痛みなど分からないのだろうな……強烈な蹴り上げがオレの下半身へと直撃し、オレは声にならない声を発しながらその場で崩れ落ちた。
「ぐっ……マリアお前……、人がせっかく気分を変えてやろうと……!! バタリ!!!」
◆◇
痛みに悶絶しながらも必死に言い訳をした甲斐もあり、なんとかマリアはオレの先ほどの行為を水に流してくれることに。
「確かにさっきのでマリア、ちょっと気持ちが晴れた」と、ようやくオレの話に耳を貸してくれたのだが……
「「じゅそ……がえし?」」
オレの前で愛ちゃんとマリアが揃って可愛く首をかしげる。
「うん。 多分……てかおそらくそうだと思う」
呪詛返し……それは呪い等の霊的な攻撃を仕掛けたとしても、対象がその呪いや術者よりも力があった場合にそれを跳ね返し、そっくりそのまま術者に何かしらの影響として返ってくるというもの。
オレがその内容を簡単に説明すると、マリアが「それで……その呪詛返しと悪魔になんの関係があるの?」と尋ねてきた。
「実はあそこから脱出するときに見たんだけど、あの悪魔、霊を食べて……その後一体化したように見えたんだ」
「うん」
「それでオレが強制除霊をしてみたら薄皮一枚剥がれたように見えた」
「うん」
「てことは、あいつの体には今まで食べた悪霊たちの数だけ霊の鎧が幾重にも折り重なっていて……それだけ力が強化されてるってことなんだよ」
「なるほど……ということは?」
「だからマリアがオレの力を上乗せしてあいつに退魔的な行為……悪魔祓いを行なったとしても、霊の鎧が厚すぎて悪魔本体まで百パーセント届いてなかったってことなんだ」
「ーー……!」
隣にいる愛ちゃんはまったく理解できていないようだが、マリアはオレの今の言葉でなんとなく察したようで「そういうこと」と小さく頷く。 その後続けて前のめりになり、「じゃあ、勝てる方法……あるの?」と胸のあたりで拳を握りしめながらオレを見上げた。
「あるぞ。 ちょっとオレが大変だけどな」
「そうなの?」
「うん。 でも倒すなら今がチャンスかもしれない」
「え」
「その前にマリアに確認だけしておきたいんだけどさ」
オレはマリアに悪魔というものは本来動き回るものなのかどうかを問いかける。
そしてマリアの答えは「動く。 動き回って災厄を撒き散らす」。 それを聞いたオレは「よかった」と安堵の息を漏らした。
「どうして?」
「あのなマリア、あの悪魔……まだ完全体じゃないぞ」
「なんで?」
「あの悪魔はオレたちが圧倒的不利な状況だったにも関わらず、詰め寄って攻撃して来なかった。 おそらくはあのババァに不完全なまま召喚されたんだろうな、力がまだ不十分だから、まだあそこから動けないで大量の霊を呼び寄せて摂取していたんだ」
完全体ではない……その言葉を聞いたマリアの目に光が灯る。
「だから、勝てるの?」
「うん。 それで方法なんだけど……」
オレは愛ちゃんを心配させないため、マリアに軽く耳打ち。 もちろんマリアは却下してきたが、この機を逃したらまたマリアが悲しい日々を過ごさなければならないからな。
オレは「大丈夫だから任せろ」と頼れるお兄ちゃん的な雰囲気を醸し出しながら親指を立てた。
「てことだから愛ちゃんはごめんだけどもうちょっとここで我慢……もし出来たらでいいんだけど、また周りにお札貼っといてくれる?」
「中は危険なんだもんね。 うん、わかった」
「じゃあマリア、行くか」
「うん。 ありがとう良樹」
オレはマリアとともに立ち上がると、再びあの戦場へ……悪魔の待つ教会へと足を踏み入れた。
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