16 異国の銀髪少女⑦
十六話 異国の銀髪少女⑦
ゲームで例えるところの、最終ボスを倒してクリアだと思っていたらボス第二形態が出現して戦闘続行……みたいなノリで石像からとうとう姿を現した牛顔の悪魔。 どうやらマリアも悪魔本体の姿は初めて見たらしく、背中に手を添えていたオレだからこそ分かる……恐怖で身体を小さく震わせていた。
まぁ実際オレもめちゃくちゃ怖いんだけどさ。
でもここはオレがしっかりしなくては……
「おいマリア、大丈夫か」
「う、うん」
「多分だけど本体が出てきたってことは、それだけマリアの力が効いてるってこと……だからもう一回やるぞ」
「わ、分かった」
悪魔が何か言っていたが、そんなものに耳を貸すなんて時間の無駄だ。
オレの霊力を上乗せさせてマリアが再び極大の力を悪魔にぶつける。 しかしなぜだろう……先ほどまでは苦しそうな声を上げていたのにも関わらず、今は全く効いていないような……マリアの放つ光の奥で、ニヤリと口角を上げているのが見えた。
マリアも何か違和感を感じたのか、振り返りながらオレに指示を求めてくる。
「な、なんで。 効いてない? よ、良樹」
「分からん……けど、やせ我慢してる可能性もあるだろ。 もうちょっと続けてみるぞ」
「うん」
しかしそれも虚しく、悪魔が大きく咆哮するとマリアの力が強制的に解除。 マリアはあまりに力の差に驚いて腰を抜かしたのか、倒れるようにオレにもたれかかってきた。
「ちょ、おいマリア、大丈夫か!?」
「無理、腰抜かした。 立てない」
「えええ」
「やっぱり悪魔に挑もうとすること自体が愚かだった。 またマリア、おばさんにお仕置きされる?」
おいおいマリアのやつ、顔つきからしてもう諦めてんじゃねぇか。
しかもなんか今気づいたけど悪魔が羽を広げて……急に飛んでくるとかは勘弁してくれよ?
そう願っていたのだが、悪魔が大きく羽をばたつかせる。
すると、あれは……マジだったのか。 テレビでもみたことのあるような、ある意味飛んでくるよりも怖い光景をオレの視界は捉えた。
「ーー……オワタ」
そう、超常現象。
教会内に置かれていた本やら高価そうな花瓶やらが宙に浮いており、それらが悪魔が羽を大きく動かすと同時に勢いよくこちらに向かって飛んでくる。
「おわあああああああああああ!!!!!」
頭に当たったら怪我するどころの騒ぎじゃない……下手したら死ぬぞ!!!
オレはマリアを抱えたまま近くの長椅子の後ろへとダイブ。 その後後方に身を隠していた愛ちゃんへ向けて「隙を見て先に外に逃げて!!」と叫んだ。
「う、うん!!」
『奥にもいたノカ……気づかなカッタ命拾いシタナ』
なんだ? あの悪魔、ガチで愛ちゃんに気づいてなかった……視力が結構弱いのか?
外へ飛び出した愛ちゃんからオレたちが先ほどまでいた場所へ視線を戻すと、『ドコ、イッタ』と周囲を見渡し始める。
やっぱりあいつ、目が悪いんだ!!
とりあえず一旦は助かったものの、圧倒的に不利な状況は変わらない。
しかし例えここでじっとしていても、再び飛んでくる花瓶に当たる可能性もあるし、あいつに動かれたら終わり……見つかるのも時間の問題だろう。
「このやろ……消えろ!!」
ダメ元で強制除霊をぶつけてみるも、やはりそれも無駄……悪魔の皮が一枚剥がれたように見えたくらいで、悪魔はそれに対して全く動じていないように見えた。
『グヌ……、どこに隠レタ。 石像が壊レテしまったからナ……お前らにハ、我の宿主となってモラウ』
宿主……。 やっぱり悪魔も霊と一緒で憑依……寄生するのか?
だったら尚更早くここから逃げなければ。
悪霊たち相手では感じたことのない恐怖と緊張で額から汗が垂れ落ちる。
オレは隙間から悪魔の様子を伺いながらそれを腕で拭おうとしたのだが……
「ーー……!! 痛っ」
額に痛みが走ったので先ほど拭った手の甲を確認すると、そこに付いていたのは血。
さっきここに飛び込んだ時にぶつけたのか……?
「立って逃げたら流石に視力が悪くても見つかる……よな。 服汚れるけど、これしかないか」
悪魔は石像の上から移動する様子がなかったことから、オレはマリアを背中に乗せた状態で匍匐前進しながら扉へと向かうことに。
途中オレのお札の効果が切れたのか悪霊たちが中へと侵入してきていたのだが、悪霊たちの興味を引いているのはやはり自分たちとは異形の存在でもある悪魔。 一応悪魔の行動に注意しながら進んでいると、それは扉の手前まできたあたり……オレは衝撃的な光景を目にしてしまったのだ。
『力が、足りナイ。 丁度イイ』
「ーー……!?」
突然悪魔が言葉を発したため視線を向けてみると、共食い……いや、種類が違うから共食いにはならないのか? 悪魔はまるで小魚の踊り食いをするような感覚で、霊を捕まえてはそれを口の中へと運び喰らっていく。
『ギャアアアアアア!!!』
『キエエエエエエエ!!!』
霊を喰らい終えると悪魔の体表面が薄っすらと紫色に発光……それは少しずつ肌へと浸透していった。
「ーー……まさか、悪魔が霊を食べるなんて」
とはいえここでオレの頭の中では、とある説が浮上。 オレはそれを確かめるべく、マリアとともに教会外への脱出完了後に扉の隙間から再び強制除霊を打ち込んでみる。
するとどうだろう、やはり先ほどと同様に悪魔の皮が一枚剥がれるように消えていき、その後オレの体に切り傷が走った。
「ーー……痛っ!!」
「お、お兄ちゃん!? 」
愛ちゃんが驚きながらオレに寄り添ってくる。
「お兄ちゃん……! 手から血が!!」
「大丈夫。 それよりも愛ちゃんはマリアの側にいてあげて」
「わ、わかった!!」
聞き分けのいい愛ちゃんはすぐにオレの後ろで力なく座り込んでいたマリアのもとへ。
オレは自身の腕に走った切り傷を見つめながら「やっぱりか……」と呟きため息をついた。
「厄介だな。 これならまだ怖いヤンキーたちにいじられる方が断然マシ……愛ちゃんやマリアにかっこいい姿を見せるつもりだったのに、どうしてこうなっちまったんだ」
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