13 異国の銀髪少女④
十三話 異国の銀髪少女④
石像に隠れていた親玉を倒してやると宣言したオレ。
ただ今すぐに行動したとしても、いつあのババァが戻ってくるかも分からない。 マリアと話し合った結果、アイツを強制除霊の刑に処すのは夜……ババァが家に帰ってからということになった。
「だから、こっそり鍵……空けといてくれよな」
「分かった」
「じゃあオレは一旦帰るわ。 またなー」
「途中まで送る」
オレはマリアとともに教会の外へ。
「あのババァはいつも何時くらいに帰ってるんだ?」などと雑談を交わしながら扉を開けて道に出ようとしたのだが、なんというタイミング……少し先から石井さんがこちらに向かってきていることに気づいた。
「おわわっ!!」
慌てて引き返すと、マリアの手を引いて茂みの奥へと身を隠す。
「な、なに?」
「シーーーッ!!!!」
オレは人差し指を口元に当てながら声や音を出さないようマリアにお願い。
その後隙間から石井さんの様子を確認すると、石井さんはいつも通りの暗い表情・オーラを振りまきながら教会の入り口へ。 「し、失礼します」と籠った声で呟いて中へと入っていく。
今朝ヤンキー女が言ってたの、マジだったんだ。
「なぁ、えーと……」
流石にずっと『キミ』呼びだと話しづらい。
オレがどうマリアを呼べばいいのか悩んでいると、マリアはそれを察したのか「マリア? マリアはマリア」とペッタンコな胸に手を当てながら相変わらずの無表情でオレを見上げる。
「う、うんマリア。 ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「なに?」
「さっき教会に女子高生が入ってっただろ? あの子はよくここに来るのか?」
このオレの質問に対してもマリアの答えは端的な「うん」。
しかし問題はここから……色々と驚く情報が飛び込んできたんだ。
「最近来だした。 あの人には強い狐が憑いてる」
「ーー……狐?」
「そう、狐。 コンコン鳴く」
マリアは両手を頭に乗せて狐耳を再現。
ピクピクと動かしているその姿にオレは思わず「か、可愛い……」と漏らしてしまう。
「ん? 何か言った?」
「え、あ、いやなんでもないんだ!! でも狐……そんなの憑いてるか?」
「憑いてる」
「いつから?」
「それは分からない。 でも、今も憑いてるはず」
「んーー。 オレにはまったく視えないんだけどな」
オレは石井さんが転校して来てから今までのことを思い出す。
ーー……うん、悪霊や中級・上級霊ならよく憑いてたけど、狐なんて一度も見たことがない。
オレがそう伝えるとマリアの反応は「それは仕方のないこと」。
続けて「マリアもあの人がお祈りしてる時に一瞬視えただけだから」と付け加えた。
「一瞬だけ? どういうことだ?」
「あの人の影に潜んでる。 その時は耳だけ出してたのが見えた。 あれはあの悪魔からも上手く存在を隠し通せるほどの、かなり霊格の高い狐」
「へぇー」
ーー……ん、今なんて言った?
「あ、悪魔?」
あまりにも聞き馴染みのない単語だ。
オレの聞き返しにマリアは「うん」と頷く。
「あの石像、さっきあなたは悪霊って言ってたけど、霊じゃない。 あれはおばさんが呼び寄せた悪魔」
「え、ええええええええ!?!?」
おいおいマジか、悪魔って……本当にいるのか?
オレも霊が視える人生を結構送ってるけど、悪魔なんて一度も視たことも会ったことも……浮遊霊たちからも聞いたこともないぞ。
それに……
「な、なぁマリア。 オレ、悪魔なんて祓ったことないけど大丈夫なのか? 悪魔って霊の除霊方法通用するのか?」
「分からない」
「分からないのかよ!!!」
あまりの後だし情報に思わずツッコミを入れながらもオレはしばらくの間考える。
これは……大丈夫なのか?
その悪魔に強制除霊が効かなかったら、オレはただそこにいるだけの役立たずなオブジェ……完全にゲームオーバーだぞ?
もしそれで失敗して悪魔に狙われちゃった場合、頼りになるのは一度失敗しているマリアのみ。 しかしマリアの霊力はオレよりもかなり少なくて。
マリアにもっと力……霊力があれば可能性は。
「ーー……ん、霊力?」
「どうしたの?」
あ、閃いた。
「なぁマリア」
「なに?」
「マリアって今霊力、ほとんど使い切っちゃってるんだよな?」
「うん。 もうほとんどない。 立ってるのがやっと」
マリアはオレを見上げながら自身の色白の太ももを両手でさする。
かなりすべすべ……見てるだけで柔らかさや瑞々(みずみず)しさが伝わってくる。
「そ、そうか」
ーー……触りたい。
オレは心の底から湧いてくる太ももを触りたい欲求を必死に制御して「だったらさ、ちょっとごめんね」とマリアの背中に手を添える。 その後お札に霊力を込めるように……マリアの体内にオレの霊力を注ぎ込んでみた。
紙でも溜まるんだ。 だったら人に流れないって道理もないはずだよな?
自分の手からマリアへ向けて何かが流れていっているのが分かる。
「えっ……ん、なに、これ。 すごい、マリアの……っ!!」
マリアの顔が少し火照ったところでオレはそれを中断。 顔の火照りに加えて息も乱れていてかなりエロい。
オレがそんなマリアに「ど、どうだ?」と質問すると、マリアは満足そうな顔をして大きく深呼吸……、ゆっくりとオレを見上げてきた。
「すごい、霊力回復した。 マリア元気になった。 ありがとう」
そう言うとマリアはオレに顔を近づけてきて、あろうことか頬にキス。
オレは驚きのあまりキスされた頬を押さえながら尻餅をついた。
「え、ちょっ……!!! ええええええええええ!?!?!?」
「どうしたの?」
「お、おいマリア……今お前、オレのほっぺにキ、キキキキキス!!!」
「うん、した」
「なんでそうも平然としてられるんだよ!!!」
「え? アメリカでは感謝の気持ちを伝える時にはキス、する。 普通」
「ここは日本じゃああああああああ!!!!」
おそるべしカルチャーギャップ!!!
オレはこんなにも心臓が激しくビートを刻んでいるというのに!!!
「あ、もしかしてキス……初めてだった?」
「なっ……!!!」
ちくしょう、なんだかチェリーをバカにされたような感覚だぜ。
それに女子小学生に同情されるとは、なんと無様!!!
オレは取り乱した心を一旦落ち着かせるために数回深呼吸。 その後頬を強めに叩いて気合いを入れて話を戻した。
「そ、それでだ! もしオレの除霊方法が悪魔に効かなかったとするぞ? その時にはもう頼れるのはマリアしかいないんだけど、今みたいにマリアに霊力を注いだとしたら今までよりも強力な力で悪魔に挑めるはず……そうしたら倒せる可能性とかあるか?」
「ーー……それは未知の領域だけど、いけるかも?」
「よし、じゃあオレのが効かなかったらその方法で行こう。 ちなみにオレの霊力は好きなだけ使っていいからな。 オレ、結構霊力あるかもしれないんだ」
「分かった」
これで方法は決まった。
あとは実行するだけだけど……あまりマリアを待たせるのもあれだよな。
「ちなみにババァは何時には確実にいないか分かるか?」
「八時。 おばさん、毎日違うドラマとか見てるから」
「なるほど。 それで一応聞いておくけどさ、ババァと一緒に帰る……なんてことあるのか?」
「ない」
「そうか。 じゃあ一瞬で終わらせて、チャチャっと家に帰ろう。 帰りは家まで送りたいんだけど、家どこなんだ?」
何気なく聞いた普通の質問。
しかし返って来たのは予想外の答えだった。
「家、ない」
「え」
思ってもみなかった回答にオレの脳は一瞬停止。
大きく瞬きをしながら改めてマリアを見る。
「な、ない? じゃあ普段はどこに」
「基本的には教会の外。 この辺か、公園のベンチ」
「は、はああ? 野宿って言いたいのか?」
「そう」
マリアはまっすぐオレを見上げたまま頷く。
この表情……やはり嘘をついているようには思えない。
それからその件について少し話してくれたのだが、マリアはご飯やお風呂・洗濯等は教会の信者さんたちに借りたりなどして生活しているとのこと。
最初こそババァの家に居候させてもらっていたらしいのだが、あの悪魔祓いを失敗して以降、家にはあげてもらえなくなったというのだ。
ーー……あのババァ、全てが腐ってやがるな。
オレが怒りで手を震わせていると突然マリアが立ち上がる。
「ん、どうしたんだ?」
「そろそろ閉める時間」
「そうなのか?」
「そう。 いつもはこの時間から帰るまで、おばさんが中でお金を数えたり悪魔とお話したりする」
「マリアはその時間何してんだ?」
「何もしない。 あまりそこにはいたくないから外にいる。 で、おばさんが帰ったら鍵をして……寝るところとか、信者さんが近くにいないか探す」
「ーー……なるほどな」
オレの霊力で回復したというのもあるからなのか、マリアは先ほどよりもかなり軽い足取りで教会の中へ。 そこで閉める時間だと告げられたのだろう、マリアとそれ違うように石井さんが中から出て来た。
「さてと、本当に狐がいるのか見てみたいところだが、まずは……」
あの悪魔の仕業なんだろうな。
石井さんの足元で数体の中級霊が威勢良く飛び回っている。
「とりあえずお前ら消えとけ」
オレはそいつらに向けて強制除霊。 するとちょうどそのタイミング……石井さんの影から狐の耳のようなものがちらりとはみ出しているのにオレは気づいた。
なるほどさっきマリアも言ってたけど、本当に影に隠れてたのか。 そんなの盲点……どうりで見つからないわけだぜ。
しばらくその場でジッとしているとババァが教会に戻ってくる。
しかしそれは本当に一瞬で、これから予定でもあるのだろうか。 ババァはすぐに中から出て来て中にいるマリアに「明日は九時にくるからそれまでに鍵、開けてなさい!!」と一喝してルンルンで帰っていく。
なんて自分勝手なババァなんだ……でもあれだな、これはこれで都合がいいぜ。
さらに少し待っているとマリアが外へ出て来て施錠しようとしていたので、オレはマリアのもとへと駆け寄った。
「お疲れさん。 今日は早めの自由だな」
「うん」
「もうやるか?」
「ううん、まだ明るい。 もし何かあったら信者さんがおばさんに連絡するかもしれないし」
「そ、そうか。 それもそうだな」
「うん。 それで……じゃあマリア、どこに何時くらいにいればいい?」
純粋でまっすぐ瞳がオレへと向けられる。
この子、マリアはどれだけの期間こんな生活を強いられてきたのだろう。
そう思うと心が苦しくなり、頭で考えるよりも早くオレの口からはマリアに向けて、心から思った言葉が発せられていた。
「いや、マリアもウチに来いよ」
「え」
聞き間違いとでも思ったのだろうか。 マリアの表情が、体が一瞬固まる。
「マリアも……一緒に?」
「うん」
「でもあなたは、信者さんではない」
「関係ねーよ。 マリアの言うとおりオレはこの教会の信者でもない。 でもマリア、お前を放ってはおけない。 お風呂も貸すし洗濯もする。 自由にしていいからほら、行くぞ」
半ば強引にマリアの手を引っ張りながら家のある方向へと歩き出す。
これ、知らない人から見たら完全に連れ去り案件だよな。
まぁでもマリアも嫌がってる素振りは見せてないし、同意のもと……大丈夫だろう。
その後途中オレは中規模のデパートに立ち寄り、そこでマリアの予備服としてマリアに絶対似合うであろうワンピースを購入して家へと帰ったのだった。
「今更だけど、聞いていい?」
「なんだ?」
「パパやママは、マリアをみて、変な顔しない?」
「あーそうだ言い忘れてた。 ウチ、色々あって今大人いないんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。 だから遠慮なく寛いでくれな」
「あなた……マリアに変態なこと、しない?」
「しねえよ!!!!!」
ーー……多分。
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