125 特別編・刺客【挿絵有】
百二十五話 特別編・刺客
恋愛成就を謳って人を騙し、若者たちの間で一時的に流行ったアクセサリー・ラブブレ。 その製造元に潜入し、破壊してから数日後のある日。
『あー、暇じゃー』
御白がリビング内をふわふわと浮きながら漂っていると、ちょうど良樹の観ていたテレビの画面が視界に入った。
『良樹、なに観てるのじゃ?』
「ん? いや特に観たいものがなかったからさ。 適当にチャンネル選んで眺めてるだけだ」
この返答に、御白は『ほー』と返しながら良樹へ。
ーー……適当に観てるということは、暇しておるということじゃよな?
御白はまずは手始めに、『宿題はしなくていいのか?』と鉄板の話題を投下。 良樹に話し相手になってもらうべく、体の向きを良樹へと向けた。
「あのな御白、せっかく夏休みに入ったってのに「宿題」ってワードは……流石にないだろ」
『そうか? じゃが愛とマリアは部屋で宿題しておるぞ?』
「二人は真面目だからなー。 算数ドリルとかやってんの?」
『いや、それはもう終わったらしいぞ。 今は「自由研究」とやらを、何にするかを考えておったな』
「へー、小学生でもあるんだな自由研究」
『ちなみにその……自由研究って何なのじゃ?』
聞いてみたところ、自由研究というものは各自、自由に調べたいことを調べて、それを発表するもの……とのことらしい。 ちなみに良樹の昨年の自由研究は『食パンを放置したら、何日でカビが生えるか』だったらしい。
『ーー……なんじゃそれ。 そんな適当なものでいいのか』
「自由だからいいんだよ。 それにパンを置いてけば済む話なんだ。 他に何をするわけでもないから楽だろ?」
『まったく……お主は本当に』
「なんだよ」
良樹にツッコミを入れられながらも、御白は良樹との会話を心から楽しむ。 御白にとって、こうして対等に会話が出来るのは、良樹や愛、マリア、メリッサしかいないのだ。
ーー……相手が神ならそれ相応の立ち振る舞いをしなければならないし、霊能者たち人間は妾が神だということで、まるで腫れ物を扱うように接してくるからの。 数千年、神として生きてきたが、こんなに気さくに話してくれる相手は初めてなのではないか?
『くはは。 あははは』
改めて考えると、この恵まれた環境……あまりの嬉しさから思わず口角が上がる。
「おいおい御白、どうした急に。 今、笑えるところ全然なかったぞ」
『あははは! すまぬすまぬ、ちょっと別のことを考えておってな』
「なんだ? そっちから話しかけておいて失礼なやつだな」
『お? 神に向かってそんな態度をとっていいのか?』
「逆に崇め奉ってほしいのか?」
『それは拒否する』
「だよな」
良樹がここまで気さくに接してくれるのは、霊能者にしては珍しい……どこの宗教や流派にも属していないところも理由の一つなのだろう。
『良樹、コーラ飲みたいのじゃ』
「いや急だな。 ていうかお前飲みすぎなんだよ。 どんだけお供えしてると思ってんだ」
『いいじゃろ別に。 神なんじゃし』
「神様だったら普通はお酒だろ」
『チッチッチ。 良樹よ、そこはお酒……じゃなくて、御神酒と言うのじゃぞ』
「ーー……水にするわ」
『あー!! すまぬすまぬ!! そうじゃな、呼び方の違いだけで、結局はお酒じゃもんな!』
「ったく分かったよ。 ちょっと待っててくれ、今から入れてくる。 御白にはまだ家周辺を警戒してもらってるわけだしな」
良樹は大きくため息をつきながらキッチンの方へ。
御白はそんな良樹の姿を微笑みながら見つめていた。
『ちゃんとグラスに入れるのじゃぞー? マグカップだけはエヌジィーじゃ』
「一緒だろ」
『違うんじゃなー。 気分を味わいたいんじゃ』
「ワインかよ」
良樹のコーラを注ぐ音を聞いた御白は、視線を再びテレビの方へ。
するとちょうど地元のニュースが流れており、これは……先日襲撃したラブブレを製造していた建物なのだろうか。 どうやら火事が起きたらしく、多くの報道陣が取材に訪れていた。
『なんじゃ、術に失敗して……それで不幸が重なってこうなったのか? くく、自業自得じゃ』
報道では製造者のタバコの火の不始末が原因とのこと。 これは新たな話のネタができたと思い、早速良樹に声をかけようとしたのだが……
『おい良樹、これを観……』
ーー……っ!!!
良樹へと視線を移そうとした瞬間、御白の瞳にとある人物の姿が映る。
『な、なんじゃあやつは』
報道のカメラが向けられていた火事が起きたと見られる場所に、明らかに異様な雰囲気を纏った少女が。 不気味な笑みを浮かべながら視線をカメラへと向けて立っている。
誰も気づいていないことから明らかに人ではないことは確かなのだが、彼女は一体……
『ーー……ふふっ、ここを襲撃してくれた犯人、見てりゅー? 今度復讐に行くから覚悟しててほしいにゃー?』
『!!!』
少女はそう発すると、すぐに姿を消してその場から退散。
その際テレビ越しではあるが、あの時感じた……明らかにこちらに敵意を向けていたのと同じ波動を御白は感じた。
『これは……危険やも知れぬな』
コーラを楽しみにしていたが、それどころではなさそうだ。
御白はすぐに眷属を召喚し、外へ出払っていたメリッサと神社を任せている龍神に伝令を出す。 その後家の屋根上へと移動して周囲を見渡し、数匹の眷属を家の四方に配置……厳戒態勢をとった。
『ーー……念の為じゃ。 後で良樹にも話しておくとしよう』
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