123 ラブブレ②
百二十三話 ラブブレ②
恋愛成就を謳った、装着者を不幸にするリング・ラブブレ。
その製造場所である建物が隣町の商店街にあるということだったのだが……
「ーー……マジか」
オレは薄暗い商店街に足を踏み入れたと同時に思わず声を漏らした。
「あの奥にある……寂れた建物だよな」
ほぼ百パーセント間違いないのだが、一応確認を取ってみたところ御白が『そうじゃ』と大きく頷く。
「やっぱりそうか」
それもそのはず。
商店街にはいくつか店が立ち並んでいるのだが、一つの建物の前にだけ分かりやすく二体の悪魔が仁王立ちしていたのだ。
『ーー……にしても大胆だよねー。 どうして堂々と建物前に立ってるのかなぁ』
メリッサが遠目で見ながら呟くと、それに対し御白が『そんなもの見張りに決まっておるじゃろう』とすぐにツッコミを入れる。
『え、そうかなぁー。 でもそうしてたらさ、ヨッシーみたいに霊が視える人もいるわけじゃん? あんな堂々と悪魔がいたらビックリして失神しちゃわないかなぁ』
『普段は別のところにいるのじゃろうて。 ただこうして夜になると、盗みに入る者もいそうじゃからな。 そのための番人じゃろ』
『あー、なるほどー』
いや、番人って。
霊が視えない人からしたら別になんともないし、例え悪魔が威嚇してきたとしても気づかないのでは? 取り憑かれたとしてもすぐに影響が出るわけでもないし。
『ん、どうしたのじゃ良樹』
「え、いやなんでもない! なんでもないぞ!!」
『そうか。 なら早速行くとするかの』
御白は眷属である白狐を数体召喚。 それぞれを商店街の至る所に忍ばせて警戒させて、いざラブブレを製造している建物へと突撃することになった。
◆◇
『じゃあネコちゃん、ヨッシー! 先陣は任せてぇー!!』
メリッサ曰くそこまで強そうな悪魔ではない……中級クラスの悪魔だということで、メリッサが翼を大きく羽ばたかせて勢いよく前へと飛び出す。
「えええ、正面突破かよ!! てっきり死角から侵入するものとばかり思ってたぞ!!」
『どうせ倒すのじゃ。 それなら最初から消した方が後々効率が良いじゃろう』
おいおい御白は慎重派だと思っていたのに。 まさかのイケイケ派かよ。
とはいえ悪魔相手に強制除霊は通用しないため、オレは何も出来ず。 オレはメリッサが大鎌を振り回して悪魔を切り刻んでいる様をただただ見つめ、建物内に侵入した御白が中から鍵を開けてくれるのをジッと待つことしか出来なかった。
『よし、開いたぞ良樹。 入ってくるのじゃ』
「なぁ御白。 マジでオレ……いるの?」
『何を言っておる。 もしかしたらあの鉄の輪、どこかに隠しておるかも知れぬからな』
「う、うん?」
『そういうときは卑猥なものを隠すのが得意そうな良樹の出番じゃ。 すぐに見つけられそうではないか?』
「ーー……」
え、今家に隠してるヤバめなものってあったっけ。
オレは目を瞑り記憶を遡る。 しかし見つかって困るものはスマートフォンの画像フォルダ以外に見当がつかない。
「え、なんかあったか?」
『ほう、良樹は卑猥な本等を隠してはおらんのか?』
「いや……隠してないはずだが」
『なんじゃつまらん。 年頃の男が卑猥な本の一冊も持っていないとは。 もっと男を磨けよ良樹』
おい、なんでそうなる。
「いや今は隠してないだけで、そもそも愛ちゃんが家に来たタイミングで全部捨てたんじゃああああああああ!!!」
中に入ったオレは、すぐには行動せず。 まずは監視カメラ等がないかの確認作業を開始した。
『ん? 何をしておるのじゃ良樹よ』
「監視カメラとかがないかを調べてんだよ。 御白たちは大丈夫かもしれないけど、オレは人間……映像とかに残っちゃってたら一発アウトだろ?」
『それなら問題ないのではないか? もとよりここは悪魔や低級霊の数が多い場所……もし設置していたとしても、磁場が狂って上手く機能していないじゃろて』
ーー……。
「あー、なるほどな」
確かに霊が多いところって電化製品とか壊れやすいっていうもんな。
妙に納得したオレは安心してラブブレの在庫等がないかを探すことに。
室内は……以前はジュエリーショップだったのだろうか、透明なショーケースが部屋全体に設置されており、しかし清掃が行き届いていないためか、それら全てに目視でもわかるほどの埃が被っている。
「といってもショーケースの中は空っぽ。 あるとしたらその奥の部屋……事務所か。 マジでここは作ってるだけの場所っぽいな」
『ふむ、よく分からんがそうなのじゃな? では向かうとしようぞ』
オレと御白が奥へと続いているのであろう扉に手をかけると、ちょうど建物前の悪魔を倒したメリッサが鼻歌を口ずさみながら合流してくる。
「おつかれメリッサ。 大丈夫だったか?」
『よゆーよゆー! 中級までならこの大鎌でスパパーンだよー!!』
メリッサが余裕の笑みでオレにVサインを見せてくる。
おお、死にかけて入院してた時もそうだったけど、なんて心強いんだ。
オレは小さく安堵の息をはく。 その後「じゃあ二人とも、何かあったらマジで頼むぞ」とお願いをして扉を開いた……のだが。
「!!!」
扉を開いたと同時。 視界に入ったものを見て、オレの背筋が一気に凍りつく。
「嘘……だろ、なんで……!」
まさか……また遭遇してしまうなんてな。
扉の向こうには細い通路。 そしてその奥の壁には一面に謎の魔法陣のようなものが描かれており、その魔法陣の中からマリアとともに教会で共闘した……あのときの巨大な悪魔に似た存在が顔を出していたのだ。
『貴様ラハ……』
おいおいおい、まさかの上級クラス悪魔かよ。 流石にこいつ相手ではメリッサもキツいんじゃないか?
『うん?? ヨッシー?』
『どうしたのじゃ』
オレはピタリと足を止め、その場から動けずにいた。
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