120 気になる話
百二十話 気になる話
とあるババァのせいで一時修羅場となった授業参観。
家に帰ったオレは本日高槻さんと約束を交わしたお酒パーティをするべく動き始め、愛ちゃんたちが帰ってくるまでの間、ババァに鉄槌を下してくれた浮遊霊たちに玄関先でお供物を振る舞っていた。
『うおおおおおお!!! コンビニ限定【唐揚げちゃん】!! 久しぶりで……美味しすぎて泣きそうだああああ!!!!』
浮遊霊たちの『ジャンクなものを食べ尽くしたい』との要望から、オレはコンビニで唐揚げやポテト、肉まん等を用意。 胃もたれとは無縁となった浮遊霊たちが欲望のままに食らいついていく。
「おいおい焦りすぎだろ。 そんながっついても量は減らないんだからよ、もっとお淑やかに食えって」
『なーに言ってんだ良樹!! この濃厚な肉汁に喉を通る重量感……これが堪らねえんだよ!!』
『そうそう!! って……ンググ、唐揚げが喉に詰まって苦し……死ぬ!! てか俺既に死んでんだったわガハハハ!!!!』
久しぶりのお供物に浮遊霊たちは大興奮。
皆かなりのご機嫌モードになており、大量の味を楽しみながら、あの後ババァにどんな制裁を加えたのかを面白おかしく話してくれてた。
『もう傑作だったぜ!! どうせならもっと恥をかかせてやろうってなってさ、道端でまた俺が憑依して一旦漏らしてやったんだ。 そしたら道ゆく人に見られて……俺が憑依を解除した途端にすぐに気づいて大声で叫んでたぜ』
「ババァの粗相……なんの需要もねぇな」
『まぁな。 でもあんだけプライドが高かったオバチャンなんだ。 しばらくはイライラが続くだろうから、あの後もいろんなことで空回り……俺たちがいなくても不幸のどん底に落ちていくだろうよ』
「おお、それは実に愉快だな」
『あぁ! それほら、あのエロ動画もスマートフォンを操作不能にしてやってたからずっとエロい音声流れててさ、今もあいつの家の中で流れてんじゃね?』
『だははーー!!! それくそ面白いな!! 手を出した相手が俺たちのマドンナ・高槻ちゃんだったのが悪かったよな!!!』
浮遊霊たち曰く、なるべく悪質そうなサイトにアクセスしたため、その会社からの電話やメールも頻繁にかかってきているとのこと。
「お前ら……狛犬も言ってたけどさ、悪魔以上にやってることゲスいよな」
『何言ってんの良樹。 お前だって出来るならそれくらいやってんだろ?』
「まぁ、そうなんだけどさ」
実際にオレがやられたと考えたら発狂ものだしガチで勘弁だけど、高槻さんを困らせたやつが苦しんでいるんだ。 なんだかオレも楽しくなってきたぜ。
『それにしても良樹、大丈夫なのか? こんなに外にいて……熱中症にならないのか?』
『そうだぜー。 また倒れられるのとかやめてくれな』
「大丈夫だって。 暑いけど」
外の気温は夕方になるというのに、まだ真夏並み。 早く室内で涼みたかったオレだったのだが、浮遊霊との会話があまりにも面白かったからな。 熱中症一歩手前まで、浮遊霊たちのご飯会に参加することにした。
『そういや話変わるけど、最近あれだな、少し前まで感じてた冷たい視線なくないか?』
『確かに。 あれはガチで鳥肌もの……悪霊以上だったよな』
『御白様やメリッサちゃんたちが周囲を警戒してくれてるからじゃないのか?』
あー、そういえば、その問題もあったな。
「なぁ、それについても、ちょっと教えてくれよ」
どうやら最近は、オレたちを狙っていたのかもしれない謎の犯人は近づいてきてはいないとのこと。
おそらくは御白から感じる神様の波動や、加えてメリッサ、覚醒した愛ちゃんの狛犬もいることから恐れをなして逃げたのだろうが……。
最近は上手くことが進まないことも多いからな。 あまり気を緩めすぎないようにしないと。
満足して帰っていった浮遊霊たちのご飯会の片付けをしていると、愛ちゃんやマリアが仲良く帰宅。 それから少し遅れて高槻さんも早上がりしてきたのか帰ってきたため、少し早めのお酒パーティーが幕を開けた。
◆◇
「いやあー、あの時はもぉ、殴られるものと思ってまひたよぉー」
完全にお酒が回った高槻さんが、オレにダル絡み……腕にしがみつきながら、あの修羅場だった時の感想を語る。
「やっぱそうですよね。 オレもびっくりしました」
「去年四年生だった頃の担任の先生からは、あの子の親御さんのことをそれとなく聞いてたんれすけどねぇ。 まさかあそこまでとはー。 あははは」
なるほど、そもそもが面倒臭い系の人種だったってことか。
酔っ払っている高槻さんの目の前では、愛ちゃんやマリアが今後の対策を話し合っている。
「愛、今度あの人きたら、マリアが舞を守る」
「うん! 私も、狛犬さんにあの人の体から守護霊さんを追い出してもらうんだ!」
「守護霊を?」
「そうだよ! 前にお兄ちゃんがこっそり教えてくれたの! 守護霊さんのいない人は、すぐに悪霊たちに取り憑かれて、ろくな人生を歩まないんだって!」
「そう。 だったらマリアも手伝う」
『すみませんねマリア様。 ここは私に主人様の望みを叶えさせてください。 戦う力のない守護霊の一人や二人、一瞬で噛み殺して見せましょう』
「違うよ狛犬さん。 追い払うだけー」
『くぅーーん』
ぶっちゃけ少し物騒な内容だけど……今の高槻さんの耳には多分届いていないだろうし大丈夫だよな?
少し心配になったオレは、無理矢理高槻さんに話を振ることに。「やっぱり今もああいう面倒な親とか結構いるんですか?」と尋ねると、高槻さんはオレを見上げながら「そうですねぇー」と頷いた。
「あー、いるんですか」
「もう大変ですよぉー? 例えば……私のクラスの子じゃないんですけど、下校中に子供同士の喧嘩があったとしますよねー? それで両者怪我をしたとして、その親御さん双方が学校に怒鳴り込んできたりするんですよー? 『学校ではどんな教育してるんだ』とかー」
「えええ、マジですか」
「おかしな話ですよねー。 そもそも、そんな喧嘩をするような人間性に育てたのはその親御さんたちなのにー。 ヒック」
「確かに。 てかそういうのも対応しなきゃとか、もう地獄ですね」
「そうですよー。 他にも、私まだ赴任してきて数ヶ月ですけど、いっぱい見てきましたもんー」
高槻さんはそれからも自らが体験したことや見てきたことを話してくれたのだが、そのほぼ全てが親の責任のようなもの。
席替えで窓際になってしまった子の親が、『子供が日焼けをするから』と文句を言ってきたり、子供が親にプリントを渡していなかったことで情報が行き届いていなかったことを学校のせいにしてきたり。
ーー……聞けば聞くほど「そんなの知るか!!!」と言い返したくなるような内容ばかりだな。
「なんかもう大変ですね」
「ふふー、そうやって理解していただけるだけで嬉しいですー」
「でもなんでそんな地獄みたいな……理不尽なところで働き続けるんですか? いやなら辞めるって手もありましたよね?」
そう思うのは至極当然。 なのでオレも心のまま高槻さんに問いかけてみたのだが、それを受けた高槻さんは酔いが覚めたかのように冷静な顔に。 オレの腕に寄り添った体勢のまま、静かに口を開いた。
「そうですね。 でもこれは……教師になるってことは、私だけの夢ではなくて……」
「え」
「あ、ううん。 なんでもないの、ごめんね」
な、なんだ?
そこから高槻さんはオレが異変を察したことに気付いたのか、酒酔いモードにキャラ変更。 先ほどの話に触れられたくなかったのだろう。 全く別の話をオレに振りだし、酒の量も一気に増えていったのだった。
「あの、高槻さん、さっきの話って……」
「良樹くん、ビールおかわりー」
「ーー……」
高槻さんが教師になったのは自分一人の夢ではない……か。
うわあああああ!!! 気になるううううう!!!!
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