12 異国の銀髪少女③
十二話 異国の銀髪少女③
「助かった。 マリア、さっきは立ってるのがやっとだった」
誰もいなくなった教会。 仰向けになったマリアのもとへ行くと、マリアが表情柔らかく「ありがとう」と伝えてくる。
か、可愛い。
無表情なのに笑ってるように見えるぞ。
「構わんさ。 てかキミもかなり疲れたんだろ、この中にはもう悪霊もいないし、もうちょっと休んでろよ」
「うん」
「そういやこの教会ってキミ以外に誰かいないのか? まさかキミ一人が任せられてる……とか、そんなんじゃないんだよな?」
そう尋ねてみるとマリアの表情が一瞬で曇る。
その後かなり言いにくそうに重い口を開きながら「おばさんがいる」と呟いた。
「おばさん?」
「うん。 おばさん。 あなたには教えてもいいから言うけど、実はおばさんは……」
一体マリアはオレに何を言おうとしたのだろうか。 マリアが言葉を続けようとしたタイミング……マリアの言葉をかき消すように勢いよく後方の扉が開けられた音がしたかと思うと、何かを察したマリアはすぐに立ち上がりオレを長椅子の後ろへ。 小声で「ここで隠れてて」と言い残して扉の方へと向かった。
な、なんだ? 何事だ?
「はい、マリアは、ここに……います、おばさん」
こっそり顔を出して確認してみると、扉にいたのは修道服に身を包んだ中年の女性。 女性は目の前に立つマリアを見下ろすなり、容赦無くその手を高く掲げてマリアの頬へ……強烈な破裂音が教会内に響き渡った。
「!?!?!?」
思いがけず飛び出しそうになるも、それがマリアのマイナスになると考えたオレは必死にその衝動を我慢。 中年の女性……ババァが何か言おうとしていたのでそれに耳を傾けることにする。
「マリア、これはどう言うこと? どうしてここにいる悪霊を全て消した?」
「そ、それは……」
「言い訳なんぞいらないわ!!! そんなことをしたら……運営が出来なくなることくらい分かるでしょう!?」
ババァの強烈な二発目がマリアを襲い、未だ体力・気力ともに回復していないマリアの身体は簡単にその場で崩れ落ちる。
「いい? マリア。 あなたはただ苦しんでいる人に憑いたモノを少しだけ剥がしておけば……最悪、剥がすフリをしていればいいの、余計なことはしないで頂戴!!!」
「ごめんなさい」
なるほど、やはりこの教会……見た目からして異様だったけど、わざとだったのか。
意図的にここに悪霊を溜めて信者や、初めて救いを求めて訪れてくる者たちに憑依させる……そして後日、それを少しだけマリアに退治させて、一瞬身体が軽くなる感覚を味あわせて帰る際にまた憑依させる。 おそらくはこのループでお金を徴収しているのだろう。
「汚ねぇやつ……よく見れば顔も金の亡者、ブタじゃねぇか」
ババァは力なく座り込んでいるマリアを軽く蹴飛ばすとフンと鼻を鳴らしながら石像の前で膝をつく。
何か小声で……念仏でも唱えているのか?
オレの耳がなんとか捉えたのは「申し訳ありません、そこの馬鹿な小娘が全て消し去ってしまったようで」というババァの言葉。
そしてそれに応えるかのように、石像の足下からドス黒い瘴気が出現。 灰色の瞳が薄気味悪く、赤く光った。
「そこに親玉を隠して飼っていて、その波長に釣られた悪霊たちを集めていたのか。 にしては隠れるの上手いな。 全然気づかなかったぞ」
しかし残念だったな。 だったら今からオレがアイツを強制除霊させて……いや、今やったらマリアのせいだと思われるか。
オレが強制除霊をしたい欲求を必死に抑えていたその時、かなり重たい……背筋が凍るような声が全体に響き渡った。
『謝罪なド、必要ナい。 罪の意識があるノなら、早く中級どもヲ成長させる宿主を、サッサト増やセ』
「!!」
感覚的には悪霊クラス……だと思うのだが、オレは若干感じた違和感について考える。
どうしてあの悪霊は石像に隠れたまま……姿も見せないで話しているんだ? それに、どうしてたかが悪霊程度にあのババァも身体を震わせて……。
あの悪霊が強いのか、はたまたババァがかなり弱いのか。
ババァは「か、かしこまりました!!!」と頭を下げると駆け足で教会の外へ。
ババァの姿が見えなくなると石像から恐ろしいほど感じていたマイナスな感覚はぱったりと消え、再び悪霊など誰もいない……オレとマリアだけの空間になった。
◆◇
「なぁ、大丈夫か?」
ババァや変な気配も消えたことで、オレはゆっくりと立ち上がり入り口前で力なく座り込んでいた……頬を赤く腫らしたマリアにそっと手を差し出す。
「なんていうか……ごめんな、オレが余計なことをしちゃったせいで」
「大丈夫、いつものこと。 それにマリア的には感謝してるから問題ない」
その表情は先ほど少しだけ笑ってくれた印象があったのにも関わらず、再び無表情に。 少し俯いたまま、オレから視線を逸らしながら小さく頷いた。
「いつものことって……学校では何も言われないのか? そんな姿見たら流石に先生たちも見て見ぬ振りは出来ないだろ」
「ううん、マリア、学校行かせてもらってない」
「え」
オレはマリアの発言に耳を疑う。
「ーー……マジ?」
「うん。 ほんとは学校行きながら修行する話だったけど、修行方針はパパがおばさんに全部任せてるから」
「だ、だったらそのパパに告げ口すればいいじゃないか。 そしたらあんなババァのところから離れられて……」
「無理。 おばさん、マリアのパパやママの前では良い顔してるから、何言ってもマリアが怒られるだけ」
かなり複雑……ここから先はやめておいたほうがいいかもな。
流石にこれ以上家庭の話をするのはナンセンスだと感じたオレは別の話……先ほどの石像に隠れていた悪霊の話をすることに。
「あのババァ、石像と話してて気持ち悪かったな」と冗談ぽく笑うと、マリアは視線を先ほどの石像へと移し、ゆっくりと口を開く。
「あのせいで教会、悪霊まみれになった」
「おお、オレの予想が当たったぜ」
「そうなの?」
「うん。 でもその正体が分かってたならなんで対処しないんだ? キミのあの力を使えばあんなやつ一瞬じゃないのか?」
そう、悪の正体が分かっているのなら、それを潰せば済む話じゃないか。
しかしマリアから返ってきた言葉は諦めの気持ちがいっぱいに詰まった「無理」。 首を左右に振ると、床の上で開いていた手のひらを強く握りしめた。
「マリアの力……霊力じゃ無理。 最初の頃に試したことあったんだけど失敗して……あとでおばさんにいっぱいお仕置きされた」
「お、お仕置き……」
「うん。 マリア、痛いのはイヤ」
マリアは目を瞑りながら先ほどビンタされた頬を手で覆う。
なんて可哀想、なんて理不尽。 こんな美人可愛い子を見過ごせるほど、オレの妹属性のレベルは低くはないぜ。
「よし、分かった! オレが今夜アイツをぶっ倒してやろう!」
オレがマリアの肩に手を置くと、マリアが目を大きく見開きこちらを見上げてくる。
「え……、本当?」
「あぁ!! キミも見ただろ? オレが除霊してるところ」
「うん」
これが知らない一般女性とかだったら関わらないんだろうけどな。
愛ちゃんまでとはいわないが、かなりの妹属性!! 助ける以外の選択肢があるわけないだろう!!!
オレはマリアを安心させてあげるため、優しく微笑みかけた。
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