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119 波乱の授業参観!?②


 百十九話  波乱の授業参観!?②



 楽しみにしていた愛ちゃん・マリアの授業参観日。

 授業内容は粘土工作で、保護者たちも幸せそうな笑顔でその工程を見学。 オレも、たまにツッコミを入れながらも楽しく愛ちゃんやマリアとの時間を楽しんでいた。



「いやマリア、グミ以外に……もうちょっといいアイデアないのか?」


「なんで」


「なんでって……。 ほら、周り見てみろよ。 動物とか人とか……みんな子供らしいもの作ってんだろ?」


「むぅ、良樹分かっていない。 マリアにとって、グミはこの世で最高の食べ物。 それによく見て。 大きさ・形まで完全再現してる」



 ぐぬぬ、これも海外特有の『個性的』や『独創性』というやつなのだろうか。



 まぁ日本のように周囲に合わせすぎるのも良くないとは思うが……でもグミなんだよな。

 これはこれでマリアらしいと諦めて愛ちゃんへと視線を移すと、愛ちゃんはマリアと違って黙々と熱心に粘土を形取っている。 その表情は真剣そのもので、しかし何を作っているのかが全く予想つかなかったためオレは思わず声をかけた。



「愛ちゃんは何作ってんの?」



 普通に考えると……フォルムが横長っぽいし、動物なのか?

 犬や猫といったありきたりな想像を始めたオレだったのだが、ここで愛ちゃんはとんでもないことを口にしたのだ。



「んとね、今は狐の格好してる、みーちゃん作ってるの!」


「ーー……」



 狐モードの御白……だと?



 キラキラした表情で答える愛ちゃんの目の前で、オレは口を半開きにした状態で固まる。

 しかしそんなオレを無視して、マリアは愛ちゃんの作品を見ながら「でもそれ、マリアには狛犬さんにしか見えない」と感想を漏らした。



「そうかなー。 狛犬さんはもっとおっきいしフサフサだよ?」


「でも、みぃはそこまで身体、長くない」


「あーそっか。 そう言われてみればそうだね。 眷属さんたちももっと可愛い感じだもんね」



 おいおいおいおい!!! 何言っちゃてんだ二人とも!! ここは家じゃない……公共の場所なんだぞ!!



 慌てて周囲を見渡してみるも、幸いなことに他の人たちは各々の子供の作品に集中していたらしく、聞かれてはいない様子。

 オレがホッと胸を撫で下ろしていると、愛ちゃんの背後に狛犬が出現。 オレの代わりに落ち着いた声で耳打ちをしてくれた。



『主人。 兄様あにさまが困っておりますよ。 兄様がおいでなさって心浮かれるのも分かりますが……ここは自宅ではないためお気をつけを』



 おお、ナイスだ狛犬!!!!!



 狛犬はオレの方をチラッと見ると、その姿をすぐに消し去る。

 愛ちゃんは「ハッ!」と驚いた顔をして、すぐに形を潰して進行をリセット。 新しいフォルムを成形しはじめた。



「ちなみに愛ちゃん、今度は……」


「じゃんじゃかハムロック!!」


「おお、いいチョイス!!」



 そうだよな!!! 子供っていえばそんな感じだよな!!!



 それからは愛ちゃんに感化されたマリアが天使っぽい人形を作り出したりと、なんとも和やかな雰囲気が訪れる。

 オレはそんな癒しのひと時を心ゆくまで楽しんでいたのだが……やはりどこにでもいるものだな。 突然中年おばさんの怒鳴り声が教室内に響いたかと思うと、そのおばさんの子供の作品なのだろうか。 子供からそれを奪い取り、勢いよく床に叩きつけた。



「こんなみっともない……恥晒しなもの作らないでちょうだい!!!」



 ん、なんだなんだ!?



 ◆◇



 おばさんの目の前では子供が号泣。

 近くにいた他の保護者の男性が「そんなムキにならなくても」と声をかけるも、おばさんは「他の家庭に口出ししないでちょうだい!」と怒りの矛先をその保護者へと変更。 保護者対決へと移行していった。



 おいおい、流石に子供や大勢の保護者の前でみっともなさ過ぎるだろ。



 騒動に気づいた高槻さんが駆け寄り間に入ろうとするも、言い合い中の保護者は推定四十代。 比べて高槻さんはまだ二十代前半のため、全く相手にされず。 男性の方は終始落ち着いていた感じだったのだが、おばさん側は激しく激昂。 鼓膜が破れるんじゃないかと思えるほどの大音量で「子供もいなさそうな新人教師はすっこんでなさい!!!」と高槻さんめがけて腕を勢いよく振り上げた。



『主人の兄様よ、あの女性を頼む』



 あまりにも突然の修羅場に固まっていると、一度消えた狛犬がオレの隣に出現。 声を直接的には出さず……まるでテレパシーの要領でオレの脳内に直接語りかけてくる。



「ん?」


『あの野蛮な女のせいで、私の主人が非常に恐怖を覚えている。 これは由々しき事態……助太刀すけだち願えるか?』


「ーー……!」



 オレはすぐに狛犬の意図を理解。

 要するに、あのババァに制裁したいから手を貸せってことだよな?



「まかせろ。 そういうのは得意だ」



 オレは小さく頷くと、早速行動を開始……視線を窓の外へと移動させた。



「ーー……お前らの中にも高槻さんのファンはいたからな。 今のを見て黙ってられない奴らもいただろ。 今回は何をしても許す。 あのババァに地獄を見せてやってくれ」



 オレの言葉に反応するかのように、窓の向こうから馴染みの浮遊霊たちが一斉に参上。 ある者はやる気に満ち溢れていたり、またある者は大好きな高槻さんに酷いことをしようとしているババァに怒りの表情を向けている。



『よっっしゃあああ!!! あの先生に危害を加えようとしてるあのオバチャンが粛清対象だ!! やるぞお前らあああああ!!!!』


『『『『『おおおおおおおおお!!!!』』』』



 これは……狛犬の出番はないかもしれないな。

 浮遊霊たちは勢いよくババァのもとへ突撃すると、その醜い腕が高槻さんに当たるスレスレのところでババァに憑依。 わざと足を滑らせた風を装いバランスを崩れさせ、転倒させる。



「ぎゃ!?」


『まだまだああああ!!! こんなところで終わらないぜえええええ!!!』



 一応頭をぶつけられては危険だということで、憑依していた浮遊霊は即座に転倒方向を調整。 転倒したババァの頭は、先ほど自身で投げつけた粘土のちょうど真上に落下する。



「ひぎゃあああああ!!! 美容院にまで行ってセットしてもらった髪がああああああ!!!」



『っしゃああああ!!! 次は俺の番じゃあああ!!! いとしの高槻ちゃんの恨み!! とくと味わえ!!!』



 まさに連携プレイ。

 転倒した際にババァのポケットから抜け落ちたスマートフォンを浮遊霊たちが見逃さないはずがなく、すぐに怪奇現象を起こして、よからぬ動画……成人男性が喜ぶようなサイトに強制アクセスし、その音量が教室全体に響き渡った。



 おいおい、こんなことも出来るのかよ。 家、基本的に出入り禁止にしていて正解だったぜ。



「な、なんなのこれええええ!!! 私こんなサイト……え、有料動画!? 請求ーー!?!?!?」



 最初こそ金額に驚いていたババァだったのだが、自身の保身の方がよっぽど大事だったのだろう。

 顔を真っ赤にさせたまま立ち上がると、スマートフォンを胸に抱えながら教室の外へと飛び出していく。



「あ、ちょっと待ってください!!」


「うるさい!! 全部このクソみたいな授業のせい……覚悟してなさいよ!!!!」



 そのままいやらしい音声と共にどこかへと走り去ってしまったのだった。



 もちろんオレは浮遊霊たちに「報酬は豪華にする。 まだ止めずにとことんやってくれ」と追撃を指示。 それを横目で見ていた狛犬は小声で『まさに悪魔の如き所業……』と若干引き気味にオレや浮遊霊たちを見ていたのだった。



 ◆◇



 ちなみにその後の時間は平和そのもの。

 ババァの子供は当初泣き喚いていたのだが、周囲の保護者が精神的にも大人だったのが助かったな。 子供には罪はないということでそいつを宥め、一方では高槻さんにも「私たちが先生は悪くないってことは証明するから安心してちょうだい」と心強い言葉を投げかけていた。



「えっとその……すみません、こんな事態になってしまいまして」


「いえいえ。 あれは〇〇さんが全て悪いので、先生は本当に悪くないですよ」



 ここまでされると、オレの出る幕がないじゃないか。



 オレは特に気の利いた言葉をかけることができず。

 高槻さんが愛ちゃんたちの作品を覗きにきた際、こう言うだけで精一杯だった。



「高槻さん、なんかオレ今日はっちゃけたい気分なんですけど、何時頃に帰ってこれますか?」


「えっ?」


「早く帰ってこれたら授業参観お疲れ様ってことで、お酒祭りしません? もちろんオレや愛ちゃん、マリアはジュースですけど」


「ーー……いいんですか?」



 高槻さんも精神的にきていたのだろう。

 口から涎を若干垂らしながらも、期待に満ちた視線をオレに向けてくる。



「はい。 高槻さんが二日酔いにならない程度であれば」


「決まりですね。 じゃあ今日はかなり早く帰ります」



 こうして本日夕方のお酒祭りの開催が決定。

 ぶっちゃけオレはそこで高槻さんがストレスを少しでも減らしてくれたらいいなと思っていただけだったのだが……これがきっかけで、今まで知らなかった高槻さんの秘密を少しだけ知ることとなる。



お読みいただきましてありがとうございます!!

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