114 特別編・良樹のいない夜
百十四話 特別編・良樹のいない夜
夜・良樹入院のため、一人減った加藤家内。
その日は病院を出るのが遅かったため舞・愛・マリアは夕食を道中のファミレスで済ませて帰宅。 肉体的にも精神的にも疲弊していた三人は、家に到着するなり揃ってソファーに腰掛けていた。
「はぁ、それにしても良樹くん無事でよかったね。 先生、良樹くんの担任の先生から電話が来た時は驚きすぎて心臓が止まっちゃうかと思ったよ」
静寂な空気を切り裂くように、舞が大きく伸びをしながら愛・マリアに視線を向ける。
「ほんと、お兄ちゃん無事でよかった……」
「確かに。 舞から話を聞いた時の愛、見たことないくらい泣いてたからマリア、びっくりした」
「そりゃービックリするよ。 だって私、舞せんせーからその話聞いたとき、本気でお兄ちゃんを轢いた人のこと憎んだもん」
「!」
愛のその言葉にマリアが過度に反応。
舞には視えない……浄化の光を愛を中心に展開させた。
「え、マリアちゃん? なんで?」
もちろん突然の光の出現……しかも自分を中心に展開させられていることに愛は混乱。 しかしすぐに近くに舞がいることを思い出して口を紡いだ。
「うん? どうしたの愛ちゃん」
「う、ううん! なんでもない!」
「そうなの?」
「うん! あ、そうだ私お風呂入れてくるね!」
愛は舞の視線とマリアの展開させた光の円から逃げるようにお風呂場へと駆け込む。 給湯ボタンを押してその場で一息ついていると、今度は脱衣所の扉からメリッサが顔を覗かせていることに気づいた。
「わわっ、メリッサちゃんどうしたの!? いきなりいてビックリしたよ!」
愛が声をかけながら近づくと、メリッサは若干警戒した表情で背中に下げていた大鎌に手を添える。
「メリッサちゃん?」
『えーと……愛ちゃんで、合ってるよね?』
一体何を言っているのだろう。
愛は頭上にはてなマークを浮かばせながらも「うん」と首を縦に。 その後、どうしてそんな面持ちでいるのかを尋ねた。
『え、なんでぇ?』
「だってメリッサちゃん、私のこと敵みたいな感じで見てたような気がしたから……どうしたのかなって思って」
『そ、そうかなー?』
「そうだよ。 それにさっきメリッサちゃんが言った『愛ちゃんで合ってるよね?』って……どういうこと?」
愛の問いかけにメリッサは分かりやすく動揺。『あははは、そうだったかなー? 私、エッチなことしすぎて疲れちゃってるのかなー?』と子供でも分かるほどの棒読みで愛から視線を逸らす。
「ねぇメリッサちゃん」
『あー、疲れたなー! おっきいの振るいすぎたり、ネコちゃんにパシらされて天誅しに行ったりで、手がパンパンだなぁー!』
「マリアちゃんも急に浄霊の光を私にしてきたし……ほんとどうしたの? 二人しておかしい……私に何か憑いてるの?」
『いやおかしいのは愛ちゃ……こほん、あっ! 浮遊霊くんたちにサービスする時間だぁ!! それじゃね!!』
メリッサは無理矢理愛との話を中断させて、慌てて外へと飛び出していく。
「ちょ、ちょっとメリッサちゃん!!」
今のメリッサの反応から見るに、本当に自分に何かおかしなものでも取り憑いているのだろうか。
しかし自身の身体や周囲を見てみるも、特に悪い霊の存在は確認できない。
「ほんとどうしたの? 確かに私、病院に行ってから途中の記憶が全くないし、気づいたらお兄ちゃんの病室にいてお兄ちゃん目を覚ましてたけど……。 私の記憶がないだけで、何か悪いことでも……迷惑をかけること、しちゃったのかな」
必死に思い返してみても何一つ思い出すことは出来ず、良樹やマリア、舞、御白、メリッサは心の底から信頼・大好きなため、暴言を吐いたなどという可能性も限りなく無い。
後にあり得そうなのは、気づいていないうちに漏らすくらいなのだが……
「ーー……うん、パンツも朝から一緒のパンツだし、別に汚れてないもんね」
このまま浴室にいても心配されると考えた愛は、一旦リビングに戻ることに。
しかしリビングの入り口手前で愛は足をピタッと止める。
もしこのままリビングに戻ったら、多分私、マリアちゃんにもさっきと同じこと聞きたくなっちゃう。
必死に我慢したとしても、どこかよそよそしくなっちゃって……逆にマリアちゃんから「どうしたの?」って聞かれちゃいそう。
「ーー……」
愛は一人静かに息を吐くと、リビングには入らずに、マリアにメールを送りながら二階にある自室へと向かう。
【送信・マリアちゃん】お風呂、先に舞せんせーと一緒に入っていいよ。 私疲れたから先に部屋で休んでるね。
「これで、よしっと」
メールを送り終えてようやく自室の部屋を開ける。
するとどうだろう、この家には御白の力が充満しているため、他の霊が勝手に入ってくるなんてあり得ないことだと聞いていたのだが……
「えっ、あなた……だれ?」
扉を開けた愛の瞳に映っていたのは、月明かりが差し込む窓の手前で静かに伏せている大きな白い獣の姿。
獣は愛の入室に気づくなり、ゆっくりとその顔を上げた。
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