113 覚醒⑧
百十三話 覚醒⑧
別に感動的でも運命的でもなかったオレの復活劇だったけど、まぁ魂が戻らないまま天国へ……みたいなルートは回避できて良かったぜ。
オレの意識が完全に復活したため、オレは自らナースコールを押してお医者さんたちに来てもらうことにした。
◆◇
「し、信じられない……!! ついさっきまで生死の境を彷徨ってたというのに!!」
「そ、そうですよね!! というよりも、そもそも麻酔だってしてたのに……なんでそんな流暢に会話できてるんですか!?」
言えない。
大事なところを鷲掴みにされて魂が戻ったなんて……その痛みで意識が完全に覚醒しちゃったなんて、口が裂けても言えない。
医師たちの後ろには不思議そうに首を傾げている高槻さんの姿。
オレの絶叫にびっくりしたのか、責任逃れをしたのかは分からないが、あれからすぐに憑依していた愛ちゃん母はどこかに隠れちゃったんだよな。
「後ろの女性のあなたは……加藤さんの関係者の方でしたよね! 何が起こったのかみてなかったですか!?」
高槻さんの存在に気がついた医師が、カルテと睨めっこしながら高槻さんに話しかける。
「そ、そうですけど、すみません。 どうしてだか、良樹くんが目が覚めるまでの記憶があんまりなくてですね」
「記憶がない!?」
「はい……。 確かお手洗いで仕事先に電話してたのは覚えていたのですが……、気づいたらここ、良樹くんの入院部屋にいまして」
高槻さんは自身の左手を見つめ、若干顔を赤らめながら口を閉じる。
「どうしました? 顔が赤いようですが」
「あぁいえ何も。 それでは良樹くんも無事目を覚ましたことですし、私は子供たちを連れて帰りますね」
外も暗くなりかけていたため、高槻さんは愛ちゃんの手を取り「帰ろっか」と声をかける。
「あ、うん……」
「ん? どうしたの愛ちゃん」
「えっと、私もちょっと所々覚えてないんだけど、ママが……」
「ママ?」
「夢だったのかな。 ううん、なんでもない舞せんせー」
そう。 どういうわけか、オレが目覚めたと同時に愛ちゃんの瞳に光が戻り、御白の横で静かに待機していたあの狛犬の姿も消えていたんだ。
それから医師たちが来てくれるまでオレの胸で大号泣していたせいで、可愛いおメメが真っ赤っかだぜ。
オレが視線を愛ちゃんに向けると、愛ちゃんは涙目のまま笑いながら小さく手を振ってくる。
「じゃあお兄ちゃん、夜メールとかするから……またね」
「あ、うんまた。 ていうか愛ちゃん、マリア知らない?」
「マリアちゃん……ほんとだ。 電話してみるね」
ちょっとだけマリアを心配していたのだが、幸いなことにマリアは愛ちゃんからの電話にすぐに反応。
どうやらトイレに行っていたらしく、大丈夫とのこと。 ただちょっとだけ……マリアの様子がおかしかったことが気がかりだったかな。
===
『あ、マリアちゃん出た! 今どこ?』
『え、愛……無事?』
『うん? 私はなんともないけど……そうだマリアちゃん! お兄ちゃん目を覚ましたよ!!』
『ふみゃっ!? こ、こほん。 むぅ、マリア、ちょっと変な声出た。 い、今すぐ行く』
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愛ちゃんに無事か聞いてたってことは、マリアもあの闇・愛ちゃんと遭遇していたのかな。
これは、夜にこっそりメールを送っておいた方がいいかもしれないぜ。
その後マリアも合流し、少しの間延長交流タイム。
オレは一応検査も含めて明日いっぱいは入院らしく、時間になり高槻さんに連れられて帰って行く愛ちゃんやマリアの後ろ姿を静かに見守った。
◆◇
その日の夜。
オレは再びお見舞いに来てくれた御白と今回の愛ちゃんの件について話していた。
「そういや御白、あれから愛ちゃんは大丈夫そうなのか?」
『あぁ、驚くことに何も感じぬ』
御白が小さく首を左右に振りながら、肩をあげる。
「じゃあもしかしたら、またどこかであの力が暴走する可能性も……?」
『分からぬ。 ただ妾から言えることは、もう此度のような面倒ごとはまっぴらごめんじゃ。 次からは死にかけるなよ』
「す、すみません」
ちなみに愛ちゃんからはあの狛犬の気配はもちろん、心をほぼほぼ侵食しかけていた闇・愛ちゃんの気配も無くなっていたらしい。
一先ず安心したオレは、次に気になっている話題を御白に早速振ることにした。
「なな、話変わるけどさ、オレを轢いた奴の場所がわかったら教えてくれ。 オレが直々に警察に連絡する」
『あぁ、そのことならお主はもう気にしないで良いぞ。 その愚か者なら今頃……いや、なんでもない』
御白は途中で口を紡ぎ、窓の外へと視線を逸らす。
な、なんだ?
「なぁ御白、今頃……どうしたんだ?」
『月が綺麗じゃのう』
詳しく聞いてみようにも、御白はそれ以上話してくれず。
その後すぐに消えてしまったため、オレはモヤモヤした夜を過ごすことになってしまった。
「暇すぎる。 ていうか今何時……ん、メール来てるな。 やることないし返信しとくか」
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