110 覚醒⑤
百十話 覚醒⑤
突然の登場と共に始まった【愛ちゃん無双】。
意外な展開を目の前にオレやメリッサは棒立ちで、御白の眷属でさえも驚きのあまり結界を解除……静かに愛ちゃんを見つめていた。
『あ、愛ちゃん?』
オレが声をかけるも愛ちゃんには聞こえていないのか、霊体のオレの隣を通り過ぎて窓の方へ。
ゆっくりと窓をスライドして開けると、外に漂う低級・中級・上級霊をギラリを睨みつける。
「お兄ちゃんに近づかないで」
本当に何が起こっているんだ?
愛ちゃんがそう口にすると、目には見えない謎の波動が愛ちゃんから発せられ、それと同時に周囲を漂っていた低級霊たちが一斉に破裂していく。
『お、おおおおいメリッサ!! これは何が起こってんだよ!! 愛ちゃん何もしてないのに低級霊たち消滅したぞ!!』
『私にも分からないよおおおお!!! ていうかなにこのオーラ!! ほら見て! 私の全身の毛穴が逆立ってる!!!』
オレとメリッサが目を大きく見開きながら動揺していると、突風とともに身を隠していた御白が登場。 かなり焦った様子で周囲を見渡しだした。
『あれ、御白? どうした、メリッサから病院周辺を守ってくれてるって聞いたんだけど……』
『ーー……!! そこにおったか!! 愛、落ち着くのじゃ!!!』
御白の目的は愛ちゃんだったようだな。
御白にはオレの言葉など耳に入ってきていないようで、すぐに愛ちゃんのもとへと詰め寄る。
しかしこれは……また新たな一難なのか?
御白が愛ちゃんの前に回り込もうとした途端に、見えない何かが御白を襲った。
『っ!!』
御白はそれを敏感に察知して大きく後方へ飛び退く。
オレから見たら何も起きていないのだが、その頬には一本の切り傷が走っていた。
『なぁメリッサ……今何が起こった? そもそも見えたか?』
『ううん、全然』
『だ、だよな』
『ていうかもしかして私、さっき愛ちゃんを見かけた瞬間に抱きつこうかと思ってたんだけど……もしそれしてたら消されちゃってたのかな』
メリッサが全身を震わせながら愛ちゃんを見つめる。
確かに今の愛ちゃんは、普段オの見慣れている素直で明るい愛ちゃんではない。 例えるならそう……
『闇・進藤さんに似てるな』
思わず口に出した内容に、御白が『まさしくそれじゃ』と額から冷や汗を垂らしながら頷く。
『え』
続けて御白が発した言葉に、オレは霊体ながら背筋が凍りつく感覚を覚えた。
『まさしく今の愛はあの時の進藤と同じ。 良樹が車事故に巻き込まれたということで、愛はその犯人を強く憎んだのじゃ。 そしてその憎悪は常人がするそれよりも遥かに強大で、それにより愛の心に大きな負荷が……。 その負荷が起因となり、愛の心の奥底に眠っていた【陰陽の力】が覚醒……いや、暴走したんじゃな』
暴走……。
御白曰く、愛ちゃんの【陰陽の力】は本来であれば愛ちゃんが自分に正直に……己の弱さ等、裏の部分をちゃんと理解しないと目覚めることのなかったもの。
しかしそれがまさかの強大な憎悪により強制的に覚醒。 通常とは違う覚醒の仕方をしてしまったため、力が暴走して心にまで侵食しだしているとのことだった。
『えええ! じゃあ愛ちゃんはどうなるんだ!?』
『じゃから今、それを止めようとしておるのじゃ!!』
『御白直々にか!』
『あぁ! 愛に憑けておった……妾の眷属はすぐにやられてしもうたからな!』
『なっ……! ええええええええ!?!?!? 御白の眷属さんを一瞬でかあああ!?!?!?』
どうやら眷属はそもそもが御白の力によって作られたもので、例えやられてもその魂は御白のもとへ回帰するため問題ないということなのだが……それにしても神の眷属を一瞬で倒してしまうなんて、どんだけ強い力なんだよ。
オレが、にわかには信じられないような顔をしていると、御白は『見ておれ』と眷属を五体ほど召喚して愛ちゃんに飛びかからせる。 しかしやはり御白の言葉は本当だったんだな。 眷属たちは愛ちゃんに触れる寸前で一瞬にして消滅……気づいた愛ちゃんがゆっくりと御白の方へ振り返った。
「みーちゃん……なにしてるの?」
暗く感情のこもっていない声。 冷徹な瞳が御白を捉える。
『それはこちらの台詞じゃ。 愛、何を無差別に除霊……いや、魂を破壊しておるのじゃ。 普段のお主はどこへ行った』
「普段の……私?」
『あぁ。 お主は何を目的にここへきた』
「それはお兄ちゃんが心配で。 そしたらお兄ちゃんを襲ってる霊がいたから」
『それだけか?』
御白の確認に、愛ちゃんの口が一旦止まる。
ここで話が終わっていたらどれだけ楽だっただろう。 その後愛ちゃんの口から出された言葉は、愛ちゃんらしくない……小学生では到底思いつかないであろう内容だった。
「お兄ちゃんを轢いた人が、どんな顔だったのか聞きにきたの。 それを偶然見てた浮遊霊さんから、その人が今どこにいるのかは聞いてるから……確認のために」
『それを知ってどうする?』
「決まってるでしょ? お兄ちゃんに酷いことをしたんだよ? その人だけじゃなくて、家族とかいるんだったら……全員の守護霊さんやご先祖様たちの魂も壊すの」
『何故そこまで』
「お兄ちゃんに酷いことしたからだよ。 私にはもうお兄ちゃんしかいないのに……二度も私から家族を奪おうとするなんて、我慢できない」
『愛、お主……』
愛ちゃんは御白との会話を途中で止めると、視線をゆっくりとオレへと移動。「それでお兄ちゃん、お兄ちゃんを轢いた人……どんな顔だった?」と静かな圧をかけながら尋ねてくる。
『いや、愛ちゃん待って。 気持ちは嬉しいけど、それは流石に危険だよ?』
「なんで」
『だって愛ちゃんはまだ子供……相手は大人なんだし、そもそも家の中にいたら入れないでしょ!』
「大丈夫だよ。 今の私なら、家の外からでも魂壊せるから」
え。
『ええええ!? そうなの!?!?』
「それで……どんな顔だった?」
うわあああ、どうしよう!!!
このままじゃ愛ちゃんが悪い方向に進んで……最悪取り返しのつかない事態になりかねないぞおおおお!?!?!?
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