11 異国の銀髪少女②【挿絵有】
十一話 異国の銀髪少女②
教会入り口奥にある小さな茂みから出てきた日本人ではない顔立ちの美少女。
おそらくはあれが浮遊霊が教えてくれた周辺の霊を誰彼構わず攻撃している犯人なのだろう。
服装はサイズの合っていない大きめの紺色Tシャツにクリーム色の短パン。 年齢は愛ちゃんと同じくらい……結構幼めだな。
髪は肩に届くか届かないかほどの銀で青い瞳、色白の肌。 服装は別として、本当に『美人』という言葉が似合うといった印象だ。
「き、キミは……?」
またいつ近くにいる浮遊霊を襲ってくるか分からない。
オレがその力を相殺するため……強制除霊をいつでも打てる状態にして尋ねると、女の子は静かに歩みを進めてオレの前へ。 無表情のままオレを見上げてきた。
「なんであなたは、そこの霊を守る?」
「え」
女の子の瞳は純粋そのもの。
オレの背中に隠れて顔だけ出していた浮遊霊を指差しながら尋ねる。
「な、なんでって……そんなの決まってるだろ、友達だからだよ」
「友達?」
「うん、友達。 オレにとって、かーなーり大事な友達だ。 だからもうさっきみたいなことはやめてくれないかな」
「ーー……そう」
これは……理解してくれたってことでいいのか?
あまりにも単調な返答に困っていると、女の子はくるりと後ろにある教会を振り返り、「むぅ」と息を漏らす。
その後オレに視線を戻すと、謝罪……いや、言い訳か? 「ごめんなさい。 友達を消すつもりはなかった。 でもマリアの気持ちも分かって欲しい」と頭を下げた。
マリア……こいつの名前か。
「キミの気持ち? どういう意味だ?」
「ついてきて」
それだけ答えると女の子……マリアは教会の扉の方へ。
重たい扉を僅かに開けると、早く来いと言わんばかりにオレを見つめてくる。
「ーー……分かったよ」
「あ、それとお友達は来ない方がいい。 ここから先はお友達には危険……多分この人でも守りきれない」
『ヒィイイイ!!!!』
マリアの忠告を受けた浮遊霊とはここで解散。
オレはマリアとともに教会の中へ。 中を見渡すと外よりも酷い……それはそれはすごい光景だった。
「お救いくださいお救いください」
「どうか、どうか神の御心で……」
「私の人生に光を……」
十人くらいだろうか。 信者と思われる人たちが奥に祀られている神を象った石像に手を組んで跪坐き、各々ブツブツ呟きながらお祈りしている。
世間一般から見たらただ信仰心が強いだけの集まりに見えるだろう。 しかし霊の視えるオレからしたら異様な光景……おびただしい数の中級・上級・悪霊たちが信者たちを囲むように不気味に飛び回っていた。
ついでに言っておくと全員、憑依もされている。
「な、なんだこれは」
あまりのインパクトに思わず一歩下がる。
するとオレがかなり引いていることを察したのか、隣に立っていたマリアが「マリアにとって、霊はあんな存在。 分かってくれた?」と相変わらず表情を変えないままオレを見上げてくる。
「あ、あぁ……まぁ、少しはな」
「そう、よかった」
オレの理解が得られたことが嬉しかったのか、マリアは表情こそ変わらないがどこか柔らかくなった印象に。
オレはこの機を逃すまいと、気になっていたことをマリアに聞いてみることにした。
「なぁ、キミはここの子なのか?」
「ーー……微妙」
マリアは小さく首を左右に振る。
「は?」
「半分正解で、半分違う」
「ど、どういう意味だ?」
「マリア、本当のお家はアメリカ。 でも今は、パパの知り合いがいるここの教会で修行してる」
「しゅ、修行?」
マリアは小さく頷くと、「あなたなら見たら分かる。 じゃあ、行ってくる」とだけ伝えて静かにオレのもとを離れ、信者たちの前に立った。
「おお、マリアちゃん!!!」
「マリアちゃん!」
「マリア!!」
マリアが目の前に立つなり信者たちから歓声が起こる。
しかしマリアは相変わらずの無反応。 近くに置いてあったリュックから分厚い本を取り出すと、これまた感情のこもっていない声で「始める」と口にした。
そこでオレが目にしたのはマリア式……とでもいうのだろうか。
オレの強制除霊とはまったく違った独特の方法。 マリアが本を開いて大きく十字を切ると、手前……信者たちの足下に今朝、そして数分前にも目にしたあの白い光の円が出現。 それを察知した周囲の悪霊たちは即座にそこから距離をとり、その光を浴びた信者に取り憑いていた霊は激しく奇声をあげながら姿を消していく。
「あぁ……マリアちゃんありがとうございます。 肩が腰が……全てが軽くなったような気がします」
「そう」
「はい。 またお礼に来させて頂きますね」
「ううん、大丈夫。 来なくて平気」
「そんなわけには参りません。 ここのシスターにもお礼を言わないと私の気が収まりませんから」
「ーー……」
マリアは少し寂しそうな顔をするも、一人目の信者が帰ったのを確認するとすぐに二人目へ。
先ほどと同様の力を使って取り憑いていた悪霊たちを取り除いていき、気づけば四人目……マリアの額からは大量の汗が噴き出ていた。
「それでは今度は私の番ですね。 マリアさん、よろしくお願いします」
「ーー……わ、わかった。 今、やる」
マリアは目を瞑り大きく深呼吸。
よく見ると顔色もかなり悪い。 脚も笑っていて息も荒いような……。
これは……やべーな。
オレがマリアのもとへ駆け寄ると、マリアは気が緩んだのか脚の力が抜けてオレの方へよろよろともたれかかってくる。
「お、おい大丈夫か?」
「霊力……使いすぎた」
霊力……か。 おそらくはオレで言うところの『力』……でもかっこいい響きだから、オレも今後は『霊力』と呼ぶことにしよう。
そして話は戻るがさっきマリアが言ってた『霊力を使いすぎた』発言、なんとなくだけど分かるぞ。 オレも中学生の頃、調子に乗って強制除霊ばっかりしてたら身体が怠くなってきて……あまりの疲労で翌日熱出して寝込んだっけ。
中学生のオレでそんなだったんだ。 小学生の女の子だとその負担も比べ物にならないのだろうな。
「そうか。 じゃあもうやめとけ」
「ううん、まだ困ってる信者さんがいる。 だからマリアが……やらないと」
マリアは大きく震える脚を叩いて喝を入れると、「もう大丈夫、ありがとう」とオレから離れて本を開く。
しかしこれ以上はオレも見ていられない。
だってオレには今マリアがもたれかかってきた時……病弱設定の妹キャラに見えてしまったのだから!!!
オレの妹センサーが激しく反応。 妹属性は何としても守れとオレの魂が激しく叫ぶ。
「ちょい待ち」
オレはマリアから本を取り上げると、愛ちゃんで慣れたお姫様抱っこを用いてマリアを近くの長椅子に座らせた。
「な、なんで……マリアは、まだ」
「黙って休んでろ。 残りはオレがやってやるから」
「え」
オレはそう言い残すと信者たちに「んじゃ、ちょっと今からオレが代わりますね」と断りを入れてから強制除霊を開始。
一人一人なんて面倒だ。 オレは残り約六名の信者に憑いていた悪霊たちに向かって一斉に力……霊力をぶつけた。
『ギャアアアアアアアア!!!』
『アアアアアアアア!!!』
教会内に大量の悪霊たちの断末魔の叫びが響き渡り、ものの数秒でオレは信者たちに憑いていた者たちをまとめて除霊。 どうせならついでにと、周囲を飛び回る中級・上級の霊たちにも強制除霊を施していった。
そういえばあれだな。 マリアは三人くらいで息を切らしてたのに対してオレにはまだまだ余力がある……今まで比較する人がいなかったけど、これはマリアが普通でオレが異常なのか、逆にオレが普通でマリアが未熟すぎるのか、どっちなのだろう。
霊力に関することを考えながら強制除霊を打ち続けていると、気づけば教会内の悪霊の姿はぱったりと消えて体が軽くなった信者たちは次々とオレやマリアにお礼を言いながら帰宅。 誰もいなくなったのを確認したマリアは緊張の糸が解れたのか、長椅子の上でゆっくりと横になった。
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