表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/132

109 特別編・覚悟


 百九話  特別編・覚悟



 病室の外。

 中から聞こえてくる医者・看護師たちの声に不安感を抱きながら、マリアは静かに息を吐いた。



「マリアは助かったけど……良樹、メリッサも、無事でいて」



 正直看護師さんに外へ連れ出される時、マリアは生きた心地がしなかった。

 何故なら目の前には死霊。 そんな巨悪な相手がいるのにも関わらず、御白の眷属が展開して守ってくれていた結界から出なければならなかったからだ。



「あの時マリアに標的を変えられてたら、マリア、死んでた」



 どうして良樹を狙っているのかは分からない。

 だけど結界からわざわざ出てきた自分を狙わなかったのには、何か理由があるはずだ。



「今マリアに出来ることは……少しでも、良樹の体を霊や死霊から守ることだけ」



 ずっと部屋の前にいても迷惑だと考えたマリアは、少し離れたところに移動して浄霊の光を良樹の病室内で再発動。 医師たちが病室から出てきたら様子を見に行ってみよう……そう考えていたのだが、この後、マリアにとって想定外の事態が起こった。



 ◆◇



 浄霊を続けてしばらく経つと、医師たちが安堵の表情を浮かべながら病室から出てくる。



「ちょっと休憩を取ってくる。 何かあったら連絡するように」

「はい。 先生お疲れ様でした」



 この様子から見るに、良樹の体は一命をとりとめたのだろう。

 マリアはホッと胸を撫で下ろしながら良樹のもとへ向かうべく立ち上がったのだが……とある光景がマリアの瞳に映った。



「え」



 良樹の病室へと押し寄せていた霊たちが、急に散り散りに四方八方へ飛んでいく。 それ自体は脅威が少しでも去って喜ばしいことなのだが、おそらくはそんな多くの霊の気配に誘き寄せられてきたのだろう。



 先ほど感じた死霊級のオーラを漂わせた霊が、数体良樹のいる病室へと向かってきていたのだ。



「いち、に、さん……三体」



 マリアは横目で数えながら、良樹が言っていた言葉を思い出す。



『急いで逃げろ、あいつは死霊だ!! 悪霊なんかとは比べ物にならないくらいの強さ……オレでも歯が立たない最悪の相手なんだよ!!』



 もしこのまま何もしないで……視えないフリをしていれば、自分は十中八九無害だろう。

 しかしそうなればあの死霊たちは良樹の部屋に入っていき、良樹に更なる脅威が降り注ぐことになる。

 


「マリアが……なんとかしなくちゃ」



 今の自分があるのは良樹のおかげ。 教会でおばさんたちの手から、救い出してくれたから。

 だったら、もしかしたら終わってしまっていたかもしれないこの命は彼のために。



「ーー……」



 マリアは深く息を吐いて気合を入れると、返り討ちにされること覚悟で死霊数体の足元に浄霊の光を展開。 一気に決着をつけるべくフルパワーで臨んだのだが、結果は良樹の言った通りに。



『『『ーー……』』』


「むぅ、やっぱり強い」



 マリアの攻撃など微塵も効いていない死霊たちは、その視線を病室からマリアの方へ。

 まるで格好のおもちゃを見つけたような表情で薄気味悪く口角を上げると、視線だけでなく体の向きも変更。 吐き気をもよおすほどの瘴気を撒き散らしながら、こちらへと進路を変更してくる。



 まさか全く効かないというのは予想外だったけど、標的が移ったことに関しては期待通り。



「死霊、こっち」



 マリアは少しでも良樹から死霊を遠ざけるべく、浄霊の光を度々発動させながら遠くへ駆け出す。



「このまま外まで逃げて、どこかに隠れる。 それか、みぃに見つけてもらって、代わりに倒してもらう」



 声に出して自らのこれからの行動を確認したマリアは全力で病院の出口を目指す。

 しかしそんな予定も、逃げ出してからものの数秒で打ち砕かれることになるのだが。



「えっ……」



 それは今まで体験したことのない感覚。



 いきなり両脚の力が抜けたマリアはその場で転倒……前から倒れ込む。 何事かと確認してみると、死霊から発せられていた黒い瘴気がまるで触手のように伸びて両脚に絡みついているではないか。


 力が抜けたのは、この触手が原因なのだろう。


 原因が分かったとしても、もちろんそれは触ろうとしても触れることは出来ず、自身を中心に浄霊の光を展開させたとしても、その瘴気が消えることもない。



「もう、どしようもない。 悪霊より強いの、マリア、はじめて」



 その時マリアの心にあったのは、『恐怖』というよりも『諦め』と『満足』。

 この死霊たちから逃げることは出来ない、しかし良樹のところから多少なりとも注意を逸らせる事はできた。



 ゆっくりと迫り来る死霊を前に、マリアは静かに瞳を閉じる。

 


 悪魔に殺される場合は内側から心を侵食されていき、徐々に精神を衰弱させられていくと父親に教えられたが、死霊の場合はどうなるのだろうか。 

 出来ればあまり痛くない方法が望ましいのだが……



 マリアは脳内に浮かび上がってきた良樹や愛、舞、御白、メリッサ、そしてもちろんではあるが、産みの両親にも感謝。 ここで人生が終わってしまうことを謝罪してその時を待ったのだが……なんだろう、死を覚悟したマリアの近くで、何やら嗅ぎなれた……甘い香りがふんわりと香った。



 この臭いは……



 記憶を辿っていると、突然両脚に力が戻る。

 思わず目を開けてしまったマリアだったのだが、目の前に映る光景に思わず口を開いた。



「え」



 それもそのはず。

 マリアの目の前には愛の姿。 その奥には死霊もいたにはいたのだが、何かに噛み殺されたように全身に穴が空いており、その数秒後には風船のように破裂して消えてしまったのだった。

 


お読みいただきましてありがとうございます!!!

励みになりますので評価や感想、ブクマ、レビュー、いいね等、お待ちしております!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ