107 覚醒③
百七話 覚醒③
圧倒的な敵の数により憔悴してしまっていたメリッサと御白の眷属。
強制除霊を撃てないオレにはどうすることも出来ず、これはもう終わったと半ば諦めかけていたのだが……突然床一面に展開された光の円によって室内にいた霊が一瞬で消滅する。
『おっ……!!』
『この光って!!』
もちろんオレはすぐに気づいたぞ。
光の円……あれはマリアお得意の浄霊方法だからな。 マリアは部屋の中に入ってくるなり、『な、何があった?』と困惑しながら声を漏らした。
『あはーーん!! マリアーー!!!』
メリッサが大鎌を投げ捨て、喜びの涙を流しながらマリアに抱きつく。
『メリッサ苦しい。 それよりもマリア、今のこの状況を聞きたい』
『あ、そうだよね! 実は、いきなりね……』
メリッサは簡単に今置かれている状況を説明。
するとそれを一緒に聞いていた、マリアに憑いてたらしき別の御白の眷属が影から飛び出してきて衰弱している仲間のもとへ。 互いに無言で頷き合うと、衰弱していた眷属がマリアの影へと入り、元気いっぱいの眷属が強固な結界を貼り直した。
『ああーん!! ネコちゃんの眷属ちゃんまでありがとー!!』
『コーーン!!』
新たな霊の軍勢が壁から顔を出してきたのだが、眷属の『コン!!』の一声でメリッサは『もー、分かったよー』と渋々結界内に。 体力の温存・回復が目的なのだろう。 眷属に『じゃあちょっと間よろしくねー』と声をかけると、大きく息を吐きながらその場で座り込んだ。
『なぁメリッサ、大丈夫か?』
『あーうん、大丈夫ぅー。 ちょっと休憩したらすぐに元気になるはずだからねー』
『ほんとすまないな』
『いいって別にー。 私だってヨッシーにはお世話になってるしねー。 恩返しだよ恩返しー』
オレとメリッサが言葉を交わしている間にも、霊の軍勢は勢いを落とすことなくオレの身体目がけて向かってくる。
しかし今は、御白の眷属が張ってくれた結界の周りに、さらにマリアの展開させてくれている光の円があるからな。 それにより、そこまで強力ではない霊は全員マリアの力により消滅……それに耐え切った悪霊クラスの霊も、その先に待っていた眷属バリアーに触れると同時にその姿を消していった。
『まるでダブル結界だな。 これはすげぇ』
「良樹。 そんな悠長なこと言ってる場合じゃない。 早く身体に戻って」
マリアが静かに眠っているオレの手を握りながら不安そうに見上げてくる。
『いや……それができたら苦労しないんだけど、どうやったら戻れるかまったく分からないんだ』
「そう。 みぃは何か言ってた?」
『御白か? いや、ただ可能性を上げるために声に出して願えとしか……。 ていうか愛ちゃんは?』
「ーー……」
ん、どうしたんだ?
オレが愛ちゃんの話題を切り出した途端、マリアの顔が一瞬固まる。
しかし、その後返ってきた言葉は「良樹は今、気にしなくていい」だった。
『え、何で。 今愛ちゃんはどこに?』
「愛なら舞と一緒にお医者さんから話を聞いてる。 マリアも本当ならそこに一緒にいる予定だったんだけど、霊たちが一つの方向に飛んでいってたのが見えたから……気になって抜け出してきた」
いや、霊ってそんな離れたところからでも漏れ出てる霊力を察知出来るのかよ。 まるで大海原で少量の血にも反応するサメじゃねーか。
『それにしてもマリア、グッジョブすぎるぞ』
「気にしないでいい。 そう思うなら、早く生き返って」
『だからそれが出来ないんだって』
「龍神に頼む? そのためだったら、マリアのパンツを龍神にあげても構わない」
『ん、龍神?』
オレはいきなり出てきた『龍神』というワードに反応。
確かに龍神には最近食中毒を治してもらったことがあるし、もしかしたらこのオレの状況もなんとか出来る可能性があるかもしれないが……なんでそこでパンツが出てくる。
『いや、どこにパンツを引き換えに強制的に魂を身体に入れる神様がいると?』
オレは極めて冷静に、マリアに向けてツッコミを入れる。
するとマリアは身につけていたワンピースを捲りあげて、今履いているパンツを確認。 しかしその柄を見るなり、「あ、これお気に入りじゃないやつ」と残念そうに呟いた。
なんだ……まったく分からねぇぞ。
パンツを見れたことは嬉しいけどよ。
我慢ならなかったオレは、どうしてそこでパンツが必要なかをマリアに確認。
それを聞いたマリアは、ゆっくりとオレに視線を戻しながら口を開いた。
「龍神が、ごく稀に……だけど、何かと引き換えにやってくれる神様もいるって言ってた。 てことは、お願いすれば龍神もやってくれるかもしれない」
『それいつ聞いたの』
「良樹のお腹痛いのを、治してもらった夜」
『ーー……なるほど』
まぁあの龍神は、御白のことが好きなくらいにはロリコンだしな。 最終手段として残しておくのもありかもしれない。
『ありがとなマリア。 後で御白に、龍神に伝えてもらえるかお願いしてみるよ』
「分かった。 じゃあマリア、今日帰ったらお気に入りのパンツ、用意しておく」
マリアが若干名残惜しそうな表情でオレに親指を立てる。
しかしマリア……やっぱり女の子なんだな。 そうじゃない、そうじゃないんだ。
『違うんだよなー。 多分だけどあの龍神、別にマリアのお気に入りのパンツとかじゃなくて、マリアが今履いてるパンツがいいと思うぞ?』
オレのこの発言に、マリアの頭上にはてなマークが出現。
「どうして?」
『どうしてって……いや、なんでもない。 すまん』
「?」
マリアは首を傾げながらも、「とりあえず分かった」と小さく頷く。
その後ゆっくりと前に視線を戻して浄霊の光に集中してくれていたのだが……まさか、この短期間でまた遭遇することになるとはな。
「ーー……っ! なに、あれ」
マリアの驚いた声を聞いて、オレはマリアの視線の先を急いで追う。
『なっ……!』
するとマリアの視線の先にいたのは、かろうじて人の形を留めた……腕が異様に長く、左右に大きく揺れながら歩いてきている霊。 明らかに周りとは格の違う雰囲気を纏わせている。
「良樹、あれ、知ってる? マリア……怖い」
『いやっ……これ危険だぞマリア! 急いで逃げろ!』
「な、なんで?」
『あいつ死霊だ!!』
「死霊?」
『あぁ! 悪霊なんかとは比べ物にならないくらいの強さ……オレでも歯が立たない最悪の相手なんだよ!!』
「良樹でも? ていうか、逃げるって言ってもどうやって? 出口、一個しかない」
『ーー……あ』
それは眩い光の円の上を何なく通り抜けると、余裕の笑みを浮かべながら眷属の展開させていた結界の前へ。 その長い腕を大きく振り上げて、結界目がけて勢いよく振り下ろした。
『わわっ! マジかこいつ!!』
「ーー……っ!!」
衰弱していたあの眷属の結界だったら簡単に破られていたんだろうな。
強固な結界なのにも関わらず、結界表面に大きな亀裂が一本走る。 しかし眷属も負けていられないのだろう。 亀裂の入った結界の内側に新たな結界を展開させ、さらに防御力を増していく。
『うわわーすごいね眷属ちゃん。 やばかったら私が相手しよっか? といっても死霊は私には無理だし、援護しか出来ないと思うけどー』
『コンコーーン!!』
『むーっ! はいはい、わかりましたよーだ!! 体力が最低でも半分は回復するまでじっとしておきますよーだ!』
死霊までもがオレの霊力を……まったく、一体どれだけ魅力的なんだよオレの力は。
そこからは死霊の苛烈な攻撃と、眷属の防御の繰り返し。
どちらかの力が切れるまで続けるものだと思ってたのだが、これも何というタイミングなのだろうか。 眠っているオレの身体に繋がれていた機械が、突然異常音を発しだす。
それからしばらくして、医者と看護師さん数人が病室内へと駆け込んできたのだった。
「まずい!! このままでは危険だ!! 早く××と××を!!」
「「はい!!」」
えええええ!! 一難去らずにまたまた一難だよ!!
助かりますように、助かりますように、助かりますように!!
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