105 特別編・希望と絶望
百五話 特別編・希望と絶望
それはとある平日の夕方。
愛、マリアが学校から帰宅している時だった。
突然一緒にいたメリッサの前に、御白の眷属が現れる。
『あわわ!! いきなりだねネコちゃんの眷属ちゃん!! 今度は何の用なのー!?』
驚くメリッサに眷属は何やら耳打ち。
するとメリッサは急に表情を変え、眷属とバトンタッチをするような形でどこかへと飛んでいった。
「あれ、どうしたの眷属さん。 メリッサちゃん、どうしたの?」
「マリア、メリッサが焦ってるように見えた」
二人が尋ねるも、眷属は一切反応せず。
二人の前にスッと立つと、周囲を警戒しながら可愛い歩幅で自宅への道を歩き出す。
「そういやメリッサちゃんも、少し前から周り、気にしてるよね。 怖いなにか……悪霊でもいるのかな」
「愛、そういうことは考えなくていい。 もし出てきても、悪霊なら眷属に任せて、中級霊までならマリアがやっつける」
マリアが若干視線を泳がせながら愛に向けて親指を立てる。
愛はそんなマリアの僅かな違いに気づきつつも、ここは何も言わない方がマリアのためになると感じ、微笑みながら頷いた。
「うん、ありがとマリアちゃん」
「愛、帰ったらすぐに宿題して、マリアと一緒にグミ食べる」
「そうだね!! きっとグミ食べてる間にお兄ちゃんが帰ってきて……授業参観行けるかどうか教えてくれるよね!!」
「愛、あまり期待はしない方がいい……けど、帰る時に舞が嬉しそうにこっち見てたのが気になる」
「あ、だよね! 私もそれ思ってた! もしかして舞せんせー、お兄ちゃんが来れるって知ってたからかな!」
「もしそうだったら意地悪。 お風呂でくすぐりの刑」
「あはは、そうだね! でも、お兄ちゃんの口から言ってほしいから、黙ってくれてたとかないかな!」
幸せで平和な空気に包まれながら、愛とマリアは帰宅。
いつもなら御白が出迎えてくれるのだが……今日はなぜだか反応がない。 家の中がシンと静まり返っている。
「あれ、みーちゃん? いないのかな?」
「久しぶりに神社戻ってると予想」
「あ、そっか。 みーちゃん、御白神社の神様だもんね!!」
それから二人は部屋に戻って宿題からの、リビングでおやつタイム。
いつもなら後三十分も経たないくらいに良樹が帰ってくる……愛は時計の針を気にしながら期待に胸を膨らませていたのだが。
アニメを流しながらマリアとグミを頬張っていると、少し早いとは感じたが、玄関の鍵が開けられる音を愛たちの耳が捉える。
「お兄ちゃん帰ってきた!?」
「愛、マリアも一緒に聞きに行く」
二人は良樹を迎えるべく揃って玄関へ。 しかし扉の向こうから現れたのは、待ちわびていた良樹ではなく高槻舞の姿。 何故かその表情はいつもと違っていて、優しさとは真逆……緊張感が伝わってきた。
「あれ、舞せんせー? どうしたの、早いね」
「仕事、サボった?」
二人の言葉を受けた舞は、小さく深呼吸。
その後、「愛ちゃんマリアちゃん、今から先生が言うこと……落ち着いて聞いてね」と二人の手をそれぞれ握りしめた。
「うん?」
「何かあった?」
意味の分からなかった愛とマリアが舞を見上げると、舞はゆっくりと口を開く。
そしてその内容は、愛とマリアにとって授業参観どころではない……かなり衝撃的な話となっていた。
「先生もいきなり電話がかかってきて、まだ詳しいことは分からないんだけど……」
「「?」」
「実は良樹くんがその、学校の前で事故に遭っちゃったらしくて……」
「「!!」」
そのことを聞いた途端、二人とも足の力が抜けてその場で崩れ落ちる。
「え、嘘……お兄ちゃんが?」
「よ、良樹……」
愛の脳に両親のトラウマが強烈に蘇る。
「お兄ちゃん……、やだ、やだ……お兄ちゃん!」
愛は身体をガクガクと震わせ、息が次第に荒れ始める。
それに気づいたマリアが「愛……?」と心配そうに腕を掴んだのだが、愛はその手を払い除け、自らの髪をワシャワシャと掻きむしりだした。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……!!! うわああああああああああ!!!!!」
それは未だかつて、誰も見たことのない愛の絶叫。
初めこそマリアも舞も、そんな愛の姿に驚いていたのだが、二人は顔を合わせて必死に愛を介抱。 しばらくすると御白が現れ、全てを知っている様子で話しだした。
『先ほど、良樹が病院へと無事運ばれた。 正直今後どうなるかは妾にも分かりかねるのじゃが……少しでも良樹に希望を持たせてやりたい。 準備が出来次第、応援しに向かうぞ』
病院へと向かうタクシーの中。 マリアの腕に抱かれた愛は、今この現実が夢であってくれと心の中で何度も祈っていた。
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