10 異国の銀髪少女①
十話 異国の銀髪少女①
先日の一件からオレは愛ちゃんの巫女になりたいという夢を本気で応援・お手伝いするように。
色々と試してみた結果、今日は面白い発見があったんだ。
「うわー! すごい、お兄ちゃんを触ってなくても私、フユーレイさんたちのこと視えるー!!!」
一つは愛ちゃんがオレなしで霊を視る方法。
昔の中二病的な発想で『お札みたいに切った半紙に力込めたら使えるんじゃね?』と考え実際に試してみたところ、まさかの成功しちゃったんだよね。
これだけでも大発見なのだが、もう一つの発見はかなり偶然……夕方にお札を持ってテンションの上がった愛ちゃんと外に探検しにいったのだが、その際に強風が吹いて愛ちゃんの持っていたお札が空に。 その先に偶然にも悪霊がいて、それにお札が触れたと同時……
『ーー……!?!?!? ギャアアアアアアアアアアア!!!!』
そう。 お札に込められたオレの力だけで、一回限定らしいのだが【強制除霊】と似たような力が発動。 お札に触れた悪霊が一瞬で塵になり空高く舞い上がっていったのだ。
「すごーーい!! お兄ちゃん、私これ持ってたら霊も視えて悪いのを退治も出来るんだー!!」
この結果に愛ちゃんは目をキラキラ輝かせながら大興奮。
いつでもどこでも持ち歩きたくなったんだろうな。 家に帰るなりオレの前に半紙を大量に積み、「お兄ちゃん、ここにいっぱい出してほしいな!」と、なんとも受け取り方によってはアウトな言い方で頼んできた。
「ーー……いっぱい出してほしいの?」
「うん、お兄ちゃんが良ければいっぱいほしい!」
「いっぱい出したの持って……どうするの?」
「えっとね、絶対に一つは大事に持ち歩くの!」
「持ち歩くんだ……グヘヘ」
「うん? どうしたのお兄ちゃん」
「あーいや、なんでもない、なんでもないんだ!!!」
ヤバいな。 あんな頼まれ方をされたらやる気が上がって……頑張っちゃうじゃないか。
その日の夜、オレはガチでいっぱい出した。
◆◇
翌日の朝はまさかの早朝特訓。
特訓時間は一時間で、オレは息を切らしながら愛ちゃんの後ろを必死に追いかけていた。
「待てーー!!」
愛ちゃんの視線の先には、先ほど偶然曲がり角で出会った悪さをする霊……といっても強さは最低ランク。
ちなみに補足しておくと、悪さをする霊には低級霊・中級霊・上級霊・悪霊・死霊とあり、文字通り低級だとゲームで言うところのイージーモード。 対して死霊はオレでも対処ができないほどの超絶ハードモードといった感じだ。
愛ちゃんに狙われている低級霊……あいつは愛ちゃんを見つけるなり急に近づこうとして、だけど愛ちゃんの持っていたお札の力を察知して逃げ出したってところだな。
それでオレはそんな低級霊を狙う愛ちゃんを必死に追いかけているのだが……
「や、やべぇ……!! 普段運動しないから流石にもう無理……さすがは小学生、ワンパクだぜ!!」
そうは格好つけて言っているものの、既にオレの目の届くところには愛ちゃんの姿はなし。
こういう時にかなり頼りになる浮遊霊たちのナビ通りに進みながら、愛ちゃんが走っていった道のりを息を切らしながら走っていた。
「ぐへっ……もう、無理だ……ちょっと休憩……!」
『いや頑張れや良樹!! 愛ちゃんならその先の公園に入った……もうすぐゴールだ!!』
「ゴール……、わ、分かった!! もうちょい頑張る!!!」
オレはなんとか気合いで公園まで走りきることに成功。
周囲を見渡してみると、公園の端……ちょうど愛ちゃんがお札を向けながら低級霊を追い詰めているところだった。
「お、おお……! 初めての挑戦で成功しそう……マジで巫女になれるんじゃねーか!?」
オレがそんな愛ちゃんの勇姿を見逃すまいと離れたところから見守っていると、何故か追い詰められていた低級霊とオレの目が合う。
すると何故だろう……低級霊はオレを見るなり不気味に微笑むと急に目の前の愛ちゃんを威嚇。 一瞬怯えた隙をついて勢いよく飛びかかった。
「きゃあっ!」
「愛ちゃん!!」
オレは強制除霊を施すため急いで手を霊にかざす。
おそらくは愛ちゃんに憑依して生命力……生気を奪おうとしているのだろうな。
低級霊は迷うことなくまっすぐ愛ちゃんの体へ。 ぶっちゃけ憑依したところでオレの強制除霊からは逃れられないのだが、憑依それすなわちそれが愛ちゃんの中に誰かが入った(意味深)ということに変わりはないんだ!!!
愛ちゃんの神聖な身体を汚すわけにはいかねええええええええ!!!!
オレは全力で力を低級霊に向けて放つ。
しかしそれよりも少し先……何が起こったというのだろうか。 突然低級霊の動きがまるで時が止まったかのように動かなくなった。
「ーー……え?」
あまりにも突然のことに動けないでいると、続けて低級霊の足下に白く発光する円が出現。 それは下から更に輝きを増していき、その光を当てられた霊は一瞬で消滅……内側から弾け飛び、跡形もなく消えてしまった。
「い、今のって……お兄ちゃんがやってくれたの?」
愛ちゃんが驚いた様子でオレに尋ねてくるも、もちろんオレがやったわけではないので全力で否定する。
「じゃ、じゃあ誰がやったの?」
「分からない……」
白い円が出現した箇所を調べてみるも、特に何も変わったところは見受けられず。
オレたちは首を傾げながら帰宅したのだが、その正体はすぐに分かることとなる。 それは一旦帰宅してシャワー等を済ませ、仲のいい浮遊霊たちと雑談しながら学校へと向かっている時だった。
『あー、海外の女の子だろ? 最近俺ら界隈でも有名だぜ』
早朝練習には来ていなかった浮遊霊が『いなくて良かったぁ』と身震いしながら答える。
「えええ、知ってんのか」
『いや逆になんで知らないんだ? 霊能力を使える人間なんてごく一部……良樹には当然情報が行ってるものとばかり思ってたぜ』
その後話を聞いてみたのだが、どうやらその女の子、この辺一帯で手当たり次第に霊たちを攻撃しているらしい。
たとえそれが全く害のない霊……浮遊霊だろうとも。
「おいおいマジか。 なんだか物騒だな」
『俺はまだ直接みたわけじゃないんだけどよ、聞くところによるとすっごい美人さんらしいぜ』
「そ、そうなのか」
『あぁ、でもそんな見た目してやることは容赦ない……お祓いとは違った見たこともない方法で追い詰めてくるんだとよ』
海外出身の女の子で追い詰め方が見たこともない方法……てことはあの白い円のことなのだろうか。
オレは一応その円のことを浮遊霊に報告。 見かけたら全力でその場から離れるよう注意をして校舎へと入った。
◆◇
「しかし謎だな……あれはどうやってたんだ?」
独り言を呟きつつ教室へと向かう。
すると何故だろう、今日は何故か教室内に結構な量の低級・中級霊が飛んでいたのでオレはさりげなく強制除霊を施しながら自分の席へ。 やることが特にないのでそのままボーッとしていると、教室後方からクラスのヤンキー女子グループの会話が耳に入ってきた。
「石井いるじゃん? アタシ見ちゃったんだけどさ」
「なに? 彼氏でもいた?」
「違う違う。 アタシん家の近くにマジで古くて不気味な教会があるんだけどさ、昨日石井がそこに今にも死にそうな顔して入ってったんだよね」
「えー!? 何それ怖っ!!」
今のは実話なのか、それとも話のネタにするための悪意ある作り話なのか。
ともあれ石井さんがまだ来ていないようで助かったよ。 それからしばらくして石井さんはチャイムギリギリで教室へ。 何故か大量の中級霊を周囲に纏わせながらオレの隣を横切って席についた。
おいおいなんだ、あの量は。
とりあえず全部強制除霊したのだが、まだ何かあるのだろうか。 初日にも感じた謎の気配をオレは感じ取っていた。
そういや教会が何とかって言ってたし、もしかしたらこの気配と何か関係があるのかもしれない。
他にもその教会に通ってる人がいたとしたら……石井さんみたいな霊を纏った奴が多いのも困りものだからな。 いつオレの可愛い妹・愛ちゃんに危険が及ぶかも分からないし、オレがなんとかしないと。
オレは早速その日の放課後、今朝耳にした教会を探すことに。
世の中は便利になったものだ。 スマートフォンで検索すると一件ヒット。 地図アプリを起動しながら難なくそこへと辿り着くことに成功したのであった。
「ーー……うわ」
教会の周囲を見て回ろうとすると、あまりの異常さを目にして思わず声が漏れる。
何が教会だ……教会とは名ばかり。 見て回るまでもない、数え切れないほどの大量の悪霊たちが教会を中心に渦を巻いているではないか。
「言い方は悪いけど、まるで呪いの館だな。 ガチでこんなところに出入りしてるんなら、そりゃあ一瞬で取り憑かれて性格やら顔つきやら……下手したら人生までもがマイナスになっちまうわ」
可愛く例えるならば周囲に蚊の大群。
近づいたら確実に血を吸いにくることが分かりきっているためその教会に入ることを躊躇していると、後ろから聞き馴染みのある声。 今朝一緒に登校してくれた浮遊霊が『おぉ良樹ー! 偶然じゃないか丁度良かったぜー』と陽気なテンションで飛んできた。
「ん、どうしたんだ?」
『実はさっき仲間に聞いたんだけどさ、今朝話した海外の美人さん……どうやらこの教会かその周辺でよく見かけるらしいぜ』
浮遊霊が自信満々に……しかしやはり悪霊が蠢く教会に近づきたくないのか、安全な距離を保ちながらオレに教えてくる。
「ここで?」
『あぁ。 だから良樹が言ってた白い円も、もしかしたらここで張ってたら見れるかもな』
ここらへんで見かけるってことはその美人すらも、石井さんとも関係があるのだろうか。
そんなことを考えているとそれは突然……オレの足下に今朝見た白く光る円が出現した。
「なっ!」
『え、良樹……これって!!』
「危ない!! 早くここから離れろ!!!!」
『!!!』
いきなりのことで仲間を守ることに必死だったオレは、何の考えもなしにその円に向かって力……強制除霊をぶつける。
すると運が良かったのだろうか。 白い円はまるで電球が切れた時のような感覚で消滅し、浮遊霊の命を文字通り間一髪で救うことに成功した。
『い、いいい、今の光やべえええええ!!!』
狙われた浮遊霊がオレの背中に隠れながら恐怖のあまり泣き叫ぶ。
『な、なぁ良樹! あの力は何の力だ!?』
「分からない。 ただあの光を浴びせられたらこの世から消えるのは確かだ」
『た、助かった……! でも何ていうのかな。 足下がほんのり温かかったような』
「いやなんだよそれ。 めっちゃ成仏する一歩手前みたいじゃねーか」
『やめろよ縁起でもねぇ!! 成仏ならとっくの昔にしてるし、ただ現世で愉快に過ごしてるだけだっての!!』
オレは浮遊霊と会話を交わしながらも周囲を注意深く見渡す。
「ーー……ん、なんだ?」
教会の入り口奥にある小さな茂みから音がしたので視線を向けてみると、一人の明らかに日本人ではない顔立ちの美しい女の子が登場。 その子は何かスッキリしない表情でオレを見つめると、小さく首を傾げた。
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