01 少女×妹=勝ち組な未来……のはずが!?①【挿絵有】
一話 少女×妹=勝ち組な未来……のはずが!?①
突然なんだけどさ、霊を視えるオレ……加藤良樹が受けてきた過去と、今に至るまでの過程をちょっとだけ見てってくれよ。
ー 幼稚園時代 ー
『せんせー、かとうくんが、オバケみえたって、こわがらせてくるー!!』
『こら、ヨシキくん! 昨日もお友達を怖がらせちゃダメって言ったでしょ!』
『かとうくん、きらいー!!!』
え?
ー 小学生時代 ー
『あいつ前、学校の帰りに誰もいないところで一人で驚いて泣きながら逃げてたんだ。 気持ち悪いよな』
『呪われてんだって。 もう加藤と遊ぶのやめよーぜ』
『あいつと話したら呪われる……あ、目が合っちまった! はい、呪いタッチー!!』
『うわあああ!!! 呪われるー!!!』
ーー……。
ー 中学生時代 ー
『ねぇ、加藤くんってなんであんなに暗い……誰とも話さないの?』
『あー、お前小学校違ったから知らないのか。 幽霊が視えるとかなんとかで、おかしなやつなんだよ』
『え、それ可哀想……友達になってあげたら?』
『嫌だよ呪われたくないし、俺も変な目で見られるだろ。 だったらお前が友達になってやれよ』
『それはちょっと……』
『最近だと神社で一人で騒いでたの見たやつがいたらしいぜ』
『えええ、暗い上に中二病? ちょっと無理かも』
うるさいな。
あー、そうだよ中二病だよ。 なんかカッコよさそうだし除霊みたいなことをしようと思ったら成功したんだよ。
小学生の頃に体験したようなあんな怖い思いはもうたくさん……比較的危険そうな霊の少ないところ、神社で練習するのは当たり前だろ。
物心がついた時には霊なんて視えて当たり前の日常。
それを気持ち悪がられて否定され、オレは小学生高学年の頃には周りから完全に孤立していた。
だけどそんなオレにも、友達と呼べるような『霊』の友達は数人いたのだ。
『なぁ良樹、いいのか好き放題言わせておいて。 そうだ、俺がビビらせてきてやろうか?』
皆には視えない特別な友達が、オレの周りをぐるぐると周回しながら口角を上げて提案してくる。
「いや、いいよ。 中二病なのは本当だし」
『だから舐められるんだろ? ここは一言ガツンと言ってやれよ』
「構わないって。 どうせ中学だけの付き合い……将来別に関係ないんだから」
ちなみにそんな会話も、やはり教室内ということで周りにも多少は聞こえる訳で。
「ほら! 一人でなんか喋ってるだろ!! やばくね!?」
「えええー本当だ、確かにキモい」
「ーー……はぁ」
こうして中学生時代まで何の青春もなく終えたオレ。
高校もどうせ同じ……とりあえず今までの知り合いが少ない私立の高校に通わせてもらったのだが、やはりどこからボロが出るか分からないから注意しないとだよな。
オレは高校からは学校内でも霊の友達と話さないことを新たに決定。 それを守り通したおかげか、最初の一年間は無事過ごすことができ、残り二年間も続けて頑張ろうと思っていたのだが……
まさか孤独で一人っ子だったオレに、ある日急に妹が出来て、それで更に2人で暮らすことになって、それを機にオレの日常があんなに変わっていってしまうなんて……
◆◇
『おいおいまた一人で帰ってんのか!? 高校生にもなってまだ女の匂いがない……寂しいねぇ。 女の一人や二人、俺がそれくらいの歳の頃は余裕で引っ掛けてたぞ』
放課後。 オレが一人で校門から出てくるや否や、四方八方から肉体を持たない害のない霊たち……友達の浮遊霊がオレの周りに集まってくる。
「うるさいな」
『えー、何ですかぁー、聞こえませんねー! もうちょっと大きな声で喋ってもらっていいですかぁー!?』
「無茶言うな。 周りに人がいるんだ……変な奴って思われたくないだろ」
『イヤイヤもう慣れっこ、大丈夫でしょー! だって良樹お前……いっつも一人ぼっちじゃねえかーー!!』
「うぐぐっ……」
言葉は凶器になるとはよく言ったもので、先ほどの浮遊霊の一言がオレの胸に深く貫通。 精神的大ダメージを負いバランスを崩しかけていると、別の浮遊霊が前方を指差しながらオレの耳元に顔を近づけてきた。
『良樹ー。 あの前から来てるトラック注意しろー。 なんか嫌な気配がするぞー』
「ん」
指差した先へ視線を向けると、確かにオレの目の前からは大型トラックがこちらに向かって走ってきている。
速度は少し早めだろうか。 水溜まりがあれば、完全にオレの全身が水浸しになるくらいのスピードだ。
「ーー……ほんとだ。 前輪のタイヤに黒い靄がある……あれは憑いてるな、悪霊が」
悪霊……それは名前の通り『悪』な存在で、己の欲望を満たすために生者や極たまに害のない浮遊霊たちにまで災いをもたらすまさに外道だ。
その存在に例外はなく、実際に今オレに狙いを定めたのであろうそれも、こうしてトラックがオレに近づくに連れて靄がだんだんと巨大化していき大きな手の形に変化。 そしてトラックがオレの隣を横切ったと同時……まるでタイヤに引き込もうとするかのように、勢いよく手を開かせてオレに掴みかかってきた。
『おわわ!! ほんとに悪霊だ!!!』
『良樹! それじゃ頼むわ!!!』
悪霊の手が飛び出してきたタイミングで危険を感じた浮遊霊たちが一気に四散する。
「ったく。 こんな時はビビるくせに、なんで普段はあんなにつっかかってくるんだアイツらは」
まぁ浮遊霊たちが離れていく理由は、主にオレの力にあるのだがな。
ため息をつきながら、迫り来る悪霊の手に向けてオレも手をかざす。
するとどうだろう、悪霊の手がオレの指先に触れるか触れないかの距離……それはまるで光に当てられた影のように、灰になって散っていった。
『アアア……アアアアアア』
実体のなくなった悪霊の掠れた声だけが、周囲に力なく木霊する。
存在が消えたことを確認したオレは小さくガッツポーズ。 自分の手のひらを満足げに見つめた。
「やっぱりすげぇぜ、この力は」
そう、これこそ独学で身につけた必殺技・【強制除霊】。
悪霊程度の力を持つ相手までなら否応なく除霊させることが出来るという、まさにオレが中二病真っ盛りの中学二年生の頃に開発し編み出した、なんともかっこいい能力なのだ。
こうして難なく危機を逃れたオレは再び浮遊霊に囲まれながら自宅へと帰宅。
オレが素の自分で居られるの空間はもはや自宅しかない。 早く部屋に籠って最近購入した妹恋愛シミュレーションゲームでも癒されよう……そんなことを考えながらも一旦乾いた喉を潤すために一度リビングへと向かったのだが……
「ただいまー……って、え?」
扉を開けまず視界に映ったものに、オレは言葉を失う。
「ーー……ん、あれ?」
オレの目の前に立っていたのは黒く長い髪を持つ、小学生低学年くらいだろうか……幼さの残る少女。
少女は目が合うや否やすぐに怯えた態度をとってきたため、瞬時に霊だと判断したオレは強制除霊を執行。 しかしどうだろう……結果、少女は姿を消すどころか、不思議そうな表情でゆっくりとオレを見上げてきた。
え? 霊体じゃ……ない?
そう言われてみれば全然身体とか透けてるところはないし、若干ではあるが女の子らしい甘い香りもする。
これは……一体どういうことなんだ?
オレが少女に見つめられながらたじろいでいると、キッチンの方からスリッパの足音とともに母親が参上。 背後から少女を優しく抱きしめながら、とんでもないことを口にしてきた。
「良樹、おかえり」
「た、ただいま。 ねぇ母さん、この子……」
「あー。 この子ね、愛ちゃん。 ほら、覚えてないかな? 桜井さんのところの……」
桜井さん……。 確か、母さんの大学時代の親友だったっけ。
そういえば数年前に一度会ったことがあったけどーー……
「え、あの時抱きかかえられてた赤ちゃん?」
そう問い返すと母親は大きく頷き、少女・愛ちゃんの背中を押しながらゆっくりとオレの方へ。「色々あって今日からしばらく一緒に住むことになったから、妹だと思って可愛がってやりなさい」と微笑みかけてくる。
「え……えええええええええええええええ!?!?!?!?」
「あんたよく『妹』ってタイトルがつくアニメとか漫画とか読んでるじゃない? だったら扱いも完璧よね?」
「そ、それは確かにそう……だけど」
言えない。
一般人が『犬が好きだから犬の動画を見てる』ような感覚じゃなくてこう、普段から表に出せない感情を……性癖をそこで満たしているだなんて口が裂けても言えない。
「じゃあ愛ちゃん、このお兄ちゃんは良樹っていうから、暇な時は一緒に遊んでもらってね」
「お兄……ちゃん」
!!!!!!!!
お兄ちゃん
なんて魅力的かつ破壊的な言葉なんだ。
この少女……愛ちゃんの一言によりオレは一瞬で陥落。 口角が上がっていくのを必死に我慢しながら、何とかその場を乗り切ることに成功したのだった。
なんという唐突な妹イベント……オレ、勝ち組じゃね?
学校生活の影響で霞みがかっていた心に、一筋の光が差し込んでくる。
「桜井、愛……です」
「あ、はい。 えっと……はじめまして?」
可愛い。 可愛すぎる。
急遽ではあるが、一人ぼっちだったオレは期間限定とはいえ可愛い妹をゲット。
『期間限定』ということで、多少の選択ミスをしたところでその先ずっと悩むというデメリットもない。 漫画やアニメで見たようなシチュエーションを味わえるチャンスじゃないか!!
週末とか楽しくなりそうだぜ。
部屋に戻ったオレは声を殺して静かに大盛り上がり。
まずは何からしよう……やはりお買い物デートか?
予定を考えながらニヤついていたその日の夜、ベッドの上で横になっていると母親が扉を小さくノックして入ってきた。
◆◇
「ど、どうしたの母さん!」
母親がオレの部屋に入ってくるなんて珍しい。
母親は一旦後ろを振り返って誰もいないことを確認し、その後静かに扉を閉めると神妙な面持ちでオレの前に座る。
「母さん?」
「愛ちゃんのことでちょっと言っておきたいことがあってね」
「愛ちゃんのこと?」
ん、なんだ? 真面目な話か?
母親の表情的に、他愛ない話ではなさそうだ。 オレガがベッドから起き上がり母親に向かい合うように座ると、母親がゆっくりと口を開く。
そしてその内容を聞いたオレは、あまりの衝撃的内容に言葉を失った。
「今日はまだ愛ちゃん、緊張しちゃってあんまり話してなかったから言ってなかったんだけどさ。 明日からもしお話出来るようになっても、あの子のパパとママ……桜井さん夫婦の話が出さないでね」
「え。 なんで?」
「実は桜井さんたち……2人とも事故に合ってて今入院中、意識不明の重体なのよ。 一応お母さんは明日も愛ちゃんと一緒に様子を見には行くけど……家の中だけでもあまり悲しいことは思い出させないで頂戴ね」
なん……だと。
お読みいただきましてありがとうございます!!
頑張って更新していきますので、一緒に楽しめられたらなと思います!!