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嫉妬の英雄

作者: 千手 幸村
掲載日:2021/02/01


 俺は『冒険者』になりたかった。

 幼い頃、父からよく聞かされた冒険譚をに出てくる主人公のような英雄みたいに。


 悪者に支配された国の王女と共に国を救う話。

 仲間が不死の病に倒れ、治すために万病に効く香草を採りに古代の迷宮都市に行き、植物兵器と戦う話。


 そんな心躍らせるような英雄譚を、父は何度も何度も話してくれた。


 俺は父が話す英雄に憧れていたのだ。

 父の話す物語の『主人公』。

 どんな逆行でも、絶対絶滅のピンチでも絶対に諦めなず最後には必ず勝つ英雄。


 そんな風になりたかった。

 俺はただ単に、そんな英雄への憧れを抑えられなかったのだ。


 だから母の反対を押し切って冒険者の養成所へと通った。父が母を説得するのを手伝ってくれたおかげで母も最終的には折れてくれた。


 引退した冒険者や支援者がお金を出し運営している養成所では冒険者になるための基礎や訓練を無償で実施している。


 実家は農家である、あまり裕福ではない俺にとっては無償で行ってくれるのはありがたい限りだった。


 養成所で訓練を始めた俺は体力が他の人よりも優れていると教官に褒められた。何でも初日からここまでついて来れる者は初めてだったらしい。


 養成所で一ヶ月ほどたった。基礎体力を鍛える訓練に加えて実戦の訓練も初まった。

 俺はまずは剣の訓練を受けることにした。

 

 【剣聖】と呼ばれる剣の使い手の頂点にいる人は一振りで竜の首を斬り落とすという。

 父からよく聞いた冒険譚の主人公も剣を使っていたことから自分も剣は大好きだった。

 自分も剣を持って竜と戦えるようになりたい。

 ーーーいや、絶対になってやる。

 そう思って一生懸命に剣を振った。


 だけど、俺には剣の才能は無かったみたいだ。


 同じくらいに訓練を受け出した人たちには剣の稽古で一度も勝ったことできなかった。

 基礎訓練の時は褒めてくれた教官には「努力は認める。だが人には向き不向きというものがある。剣を諦め違う道を行くのも一つの手だ」と言われた。


 だが諦めずに半年ほど教官に教わり、剣を振り続けたがそれでも一向に成長せずに後から入ってきた人たちにも一度も勝つことはなかった。


 とにかく絶望的なまでに剣の才能がなかった。


 それでも諦めずに剣を振るっていた俺に教官はある提案を進めてくる。


「たまには剣術以外の訓練も受けてこい。それで見えてくる物もあるだろう。貴様に足らない物を探してこい」


 どうしても諦めきれない俺は剣術の訓練を続けさせてもらうように教官に頼み込む。


「はっきりと言うと貴様に剣の才能は欠けらもない。だが他にも冒険者としての道はある。剣以外にも鈍器や弓のような飛び道具に魔法を使う冒険者だっている。そいつにあった道が必ずある、貴様にもな。それを見つけてこい」


 それでも納得のいかない俺に教官は訓練以外でも剣を振れば同じであろうと言われ、渋々と他の訓練を受けることにした。


 だが、俺には武器は向かないのかどの武器を扱う訓練をしても才能はなかった。


 メイスや斧、槍に短剣といろんな武器を使った訓練を受けても剣の訓練の時と結果は同じであった。

 弓といった飛び道具では的に一向に当たることはなかった。


 ここまで酷いとは自分自身でも思わなかった。


 もうすでに養成所に入って一年が経過していた。同じくらいに養成所に入って者でもう冒険者として活躍している者もで始めた。

 

 それに対して自分の才能の無さに悔しくてたまらなかった。

 

 近接系が駄目であれば残るは【魔法】しかない。だが魔法を使う源である魔力は生まれ持った素質が大半を占める。さらに魔法に対する知識や、鍛錬の積み重ね。

素質と知識と努力の全てが噛み合い初めて魔法となる。


 武器の扱いで才能の無さを思い知らされた俺はなかばヤケクソの状態で魔法の訓練を受ける。


 魔法の訓練を受けてみたが以外にも魔力は豊富にあるようだ。

 

 俺にも向いているものがあったと興奮した。

 

 魔法を極めた者、【賢聖】は天変地異をも引き起こすことが出来るという。

 千を超える魔法を扱い、傷ついた者を癒やし、標的を一掃するという。


 俺は意気込んで訓練を受けた。いつしか、俺にも魔法を使えると。


 魔法の訓練を受けて一年ほどたった頃、未だに魔法は使える気配はない。


 結論からいってしまえば俺には魔法の才能はなかった。


 魔力はある、魔法に対する知識も勉強して身につけている。だが魔力操作が壊滅的に下手くそだった。


 どれだけ魔力と知識があろうがそれを扱えないのであれば結局魔法は使えない。


 武器の扱いは駄目、魔法は駄目と戦闘はまるっきり才能がなかった。

 冒険者には戦闘に不向きな者が出来る依頼はあるし、冒険者としてやっていけないこともない。

 

 例えば薬草の採取や探し物、他の冒険者とチームを組みサポーターとして荷物持ちや戦闘以外の雑用などで生計を立てている人はいる。


 だが、俺が憧れ目指した『冒険者』はそうじゃない。

 

 気がつけば養成所に入って二年も時が過ぎていた。


 いくら努力しても実を結ばずに時間を無駄に過ごしたような気持ちになる。


 教官には当然、冒険者としての道を諦めるように言われた。


 冒険者は危険な仕事だ。

 教官の言うことは正しく、間違っていない。

 冒険者としてではなく、サポーターになった方が間違いなく良い選択なのだろう。


 ──俺には、才能がない。


 それがはっきりした。


 ──でも、それでも。


 物語の英雄ならば、絶対に諦めない。


 養成所は、基本的に引退した冒険者や支援者の支援でお金を賄っている。そのため、何年も養成所にいるのは迷惑だし、申し訳なくなるので養成所を辞めた。

 

 出来の悪い俺に最後まで丁寧に教えてくれた教官には本当に感謝の気持ちしかない。


 俺が町を出て行こうとすると教官に引き留められ町を出ていく前に合わせたい人がいるらしい。


 その人は魔法や武器を一切使わずに冒険者の頂点、『S級冒険者』になった凄い人だそうだ。

 今は冒険者を引退し、いろんなところを旅している最中にたまたまこの町に寄ったらしい。


 『S級冒険者』といえばこの世界に四人しかいない最強の冒険者の一人だ。

 

 S級は世界を救う偉業を成し遂げた者だけがなれる階級だ。


 引退したとはいえ、そのレベルの冒険者と会える機会なんか一生のうちにあるかどうかわからない。

 俺は断る理由もなく、むしろ有り難く教官に返事を返してその人に会いに行く。


 俺、アラン・マイトルは冒険者の頂点を目の前にし緊張していた。


 緊張して言葉が出ない俺に世界に4人しかいない元S級冒険者の一人、ガノン・フィストは獰猛な笑みを浮かべ俺に話しかけてくれた。


「黙りこくってどうした。俺様に何か用があったんじゃねーのか?」

「……どうすれば強くなれますか?」

「あ?」

「俺は毎日、どれだけ努力してもどんなに頑張っても一向に強くなれません。同じくらいに訓練所に入った奴らはもう冒険者として活躍し始めて後から入ってきた奴らは俺を追い抜いてどんどん成長していくんです。教えてください、俺はどうすれば強くなれますか?」


 俺は今まで溜まったものをあったばかりの人に吐き出してしまった。そうなるほど溜め込んでしまっていた。


「お前、暗いな」

「はい?」


 急に関係ないことを言われ、俺は思わず聞き返してしまった。


「いや、だから暗いんだよ。ぐだぐだ言ってるけど要はお前は養成所に通えば誰でも冒険者になれると思ってる頭の中に花が咲きまくってるおめでたい奴なんだよ」

「……っ!」


 反論したい気持ちもあるが図星であった。確かに訓練所で訓練すれば俺も冒険者になれると思ってた。


「才能がないとわかったならは早々に訓練所を辞めればいい。そいつにはそいつにあった仕事がある」


 そうだ。訓練所には冒険者になった者はごく一部だ。他は辞めたり、冒険者の支援者になったりギルドの受付の仕事をやったりしている。俺はそいつらを見て見ぬ振りをして夢ばかりを見ていた。


「例えばだ、一匹の鷹がいるそいつは空中では優秀だ。だけどな海の中では鷹の能力は発揮できない。これは人でも同じだ。お前が雀なのか鷹なのかは分かんねえ。けどなお前は今恐らく海の中にいる。環境が悪いなら自分の能力が発揮できる環境に行け」


 俺は今の環境では能力が発揮出来ない?なら俺は冒険者以外になって、冒険者の夢を諦めて違う仕事をするしかないのか?


 自分の中で自問自答しているとガノンから声をかけられる。


「だから暗いって言ってんだろ。答えは簡単だろ。冒険者をやりてえのか冒険者を諦めるかの二択だろ。悩んでたって仕方ねえだろ。男なら即決断しろ」

「でも、ガノンさんは俺は冒険者に向いていないって……」

「向いてねえとは言ってねえ。ただ環境が合ってないとは言ったが」

「どういうことですか?」

「めんどくせえな。強くなりてえのか、そのまま弱いままでいいのかどっちだ。これ以上は待てねえ」

「……強くなりたい……誰よりも、誰にも負けないぐらいに!」

「そうだ、それでいい」


 ガランは獰猛な笑みをより一層深め立ち上がる。


「今日から俺が指導してやる。覚悟はいいか、ガキぃ?」

「はい、よろしくお願いします!」


 俺たちのやり取りに教官は驚いていたが俺たちを心よく送り出してくれた。



 ◇◇◇


 この世界には魔王と呼ばれる存在が世界を滅ぼそうとしていた。そこに現れたのが勇者だった。勇者は三人のケンセイを仲間にして魔王と戦ったそうだ。


 一人は剣を極めた【剣聖】

 一人は魔法を極めた【賢聖】

 

 そして最後の一人は拳を極めた


 ーーー【拳聖】


 この三人と勇者は魔王と戦い、この世界を救ってそうだ。


 ガランはこの【拳聖】だ。

 まさしく世界を救った英雄の一人である。


 そしてその英雄に修行をつけて貰えることになったんだが、想像以上に過酷だった。というか死ぬ。


「逃げんな、戦え!」

「いや、無理ぃっっ!」


 いきなり森の中に連れて行かれたかと思えばここは一般人は立ち入り禁止になっている危険区域だそうた。そこで俺は放り出され、自分よりも何十倍もの大きさの魔物に追われている。


「死ぬ、死ぬ、死ぬう!」

「回避は上手いな」


 何とか魔物の死角に入り逃げ延びることに成功した。


「とりあえず、俺様は一ヶ月したら迎えにくるからそれまで生き延びろ」

「はっ?」


 あんな凶悪な魔物が生息しているこの森で一ヶ月、時給自足のサバイバル?


「いや、無理」

「甘えんな。人生は突然の連続だ。その突然が来たら今持ち合わせている手札で戦うしかねえ」

「いや、意味がわかりません。こんな所にいたら一日でも死んじゃいます」

「そうか、じゃあ死ね」


 そう言うとガランはその場から姿を消した。恐らく目に見えない速度で移動したのだろう。


「てか、本当に置いていったわけじゃないよな。どこかで見守ってくれてるんだよな」


 そう信じたいがあの人なら本気で俺を置いていきそうだな。


「……っ!」


 目の前の木々が薙ぎ倒され、その先には巨大で鋭い爪と牙を持った魔物がいた。狐のような見た目であるが大きさが桁違いであり、尾は九つもあった。

 その見た目はかつて父から聞いた英雄譚に出てきた魔物に酷似していた。


 Aランク級の魔物、その名はーーーキュウビ。



 ◇◇◇



 冒険者になりたい。


 そんな自分の身の丈に合わない夢を抱いたのが間違いだったのかも知れない。

 冒険者になりたいなんて思わなければこんな痛い思いをしないでもよかった。こんな辛い思いをしなくてもすんだ。


 訓練所にいたころからそうだ。何度も辞めたいと思った。でも諦められなかった。そんな簡単に諦められるものならそもそも目指しはしない。


 キュウビに追いつめられ死にかけの状態の俺は走馬灯のようなものを見ていた。


 そもそもなんで俺は冒険者を目指したのだろうか?


 目の前にいるキュウビは俺に向かい咆哮をあげる。その思わず耳を塞ぎたくなるような轟音を聴いて俺は思った。


「むかつく。俺よりも強い奴が……何より誰よりも弱い俺自身が……」


 そうだ。思い出した。俺が冒険者を目指した理由。それは……。


 俺の身体から黒い瘴気のような魔力が溢れでる。

 

「確か教官によれば俺は魔力量は人よりもかなり多いんだったな」


 黒い瘴気のような魔力はさらに出力をあげ溢れ出る。それを身に纏い、俺はキュウビに向かって拳を振り上げる。


「うおらぁぁぁっっっ!!」


 ーーー<<黒瘴拳>>ーーー


 キュウビの顔面を捉えた黒い拳はキュウビを数十メートルも殴り飛ばす。その威力に大地はヒビ割れ、周りは衝撃の余波で森の木々が揺れている。


「はあ、はあ、俺が魔物をぶっ飛ばした?」


 あまりの疲労感に俺は膝をついて地面にへたり込む。


「俺もやればでるじゃんか」


 キュウビを倒して安心感が来る前に少し離れたところからズシンという物音が聞こえた。それは先ほど殴り飛ばしたキュウビの方向から聞こえた。


「まじ?」


 目の前にはキュウビがいた。倒したどころか思ったよりもダメージが入ってないのか元気そうだ。

 キュウビが大きく鋭い爪を振り下ろす。もう死んだと思ってが間一髪のところで伝説の英雄が割り込んできた。


「ピンチになるの思ったより早くね?まあ、一応こいつ吹っ飛ばしたし及第点をやるか」


ーーー<<右ストレート100%>>ーーー


 ガノンの右拳が放たれた威力は俺のとは比べ物にならないぐらいの威力があった。それこそ地形が変わるほどの威力。


「よく目に焼き付けとけ。これがてっぺんだ」




 ◇◇◇



 危険区域の森を少し離れたところに俺たちはいる。

 気がつけば辺りはもう真っ暗になっており、焚き火の火で晩飯のシチューを作っている。


「どうだ、あの狐を吹っ飛ばせたんなら冒険者にはなれると思うが俺の元でまだまだ修行続けるか?」

「はい、お願いします!」

「なんか、少し明るくなったなお前」


 明るくなったのだろうか。自分だとあまりわからないが他人から見てそう見えるならそうなのだろう。


「自分の中で迷いがなくたったからかもしれません」

「迷い?」

「俺、自分が冒険者になりたかった理由を忘れていてそれを思い出せたんです。忘れていたといか目指していた英雄像には似つかないので心のどこかで封印していたんです。自分でも知らないうちに」

「ふーん。で、その理由ってのは?」

「俺が冒険者になりたかい理由は怒りです。自分より強い奴が、能力がある奴が許せない。その許せない怒りこそが俺の原動力であり、理由です」


 自分より活躍してる人が羨ましくて、妬ましくて仕方がない。英雄になりたいのにその英雄になる能力が自分よりも高い奴らが許せない。ようはただの嫉妬だ。嫉妬しすぎて拗らせすぎたのが俺だ。英雄には似つかない原動力のために自ら見て見ぬ振りをしてきた俺の浅ましい心の闇だ。


 ガノンの方を見ると凄く変な顔をしてこちらを見ていた。


「やっぱお前、暗いわ。それにあの黒い瘴気みたいな魔力もそうだけどよ、普通はあんな色にならねえし、よっぽどの根暗だなお前」


 そうだ、俺は暗い奴だ。目の前にいる英雄には俺の気持ちはわからないだろう。わからないから英雄なのだろう。

 俺が目指すのは英雄だ。嫉妬深い英雄がいてもいいじゃないか。


 ーーー嫉妬の英雄として


 そう思えば気が楽になった。


「まあ、いいんじゃね。お前らしい感じでよ」

「ええ、それが俺ですから」


 ガノンは獰猛な笑みで俺を見て笑った。


「お前もしかて、雀でも鷹でもなく竜かもな」


 伝説の英雄が初めて俺を認めてくれた気がした。


「ところで今更なんですけど何で俺に修行をつけてくれたんですか?」

「ああ、強い奴を探してるんだよ。俺とタイマン張れるような」

「ガノンさんとですか?」


 先程の戦いを思い出して思った。そんな奴いないだろと。


「そうなんだけどよ、見つからねえんだ。だから自分で育てよーと思ってな」

「.俺もその一人ですか?」

「そうだ、あの村に寄ったのはたまたまだったけどお前を見て強くなると思った。なのにお前はあんな訓練所にいても強くならないと思った。お前はな」

「俺だけですか?」

「ああ、お前は実践で強くなるタイプの奴だ。ていうか大抵そうだけど特にお前は土壇場にならないと力が発揮出来ないのが極端なんだよ。現にあの狐に命の危険に晒されるまで力だせてなかっただろ」

「そういうのって見た目でわかるものなんですか?」

「俺は今までいろんな奴を見てきたから経験則でわかんだよ。だから俺は訓練所にいても強くなれないお前をあの森にぶち込むことで環境を変えたんだよ」


 そういえば出会った時にもそんな事言っていたな。あれはそういう意味だったのか。


 そこまで話を聞いて俺はある疑問が浮かんだのでガノンに問いかけてみる。


「何でガノンさんは他のケンセイとか勇者とは戦わないですか?」


 同じ世界を救った英雄ならタイマン張れそうだしな。


「ああ、全員俺がフルボッコにしてそっから縁切られた。強すぎると戦う相手に困るだよ」


 衝撃の事実だった。


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