ドラゴン、怒りのレベルアップ
第8部分 ドラゴン、怒りのレベルアップ
「スザンナ、鍛冶師になったんだろう、なんか変わったことないのか?」
「アイテム関連の作成スキルがレベルアップしたのと、”スキルカード結合”ができるようになりました」
それだ、俺は”スキルカード結合”のことが聞きたいんだ。
「”スキルカード結合”って何かしっているか?」
「魔獣が希にドロップする魔獣のスキルがカード化した物です。それを武器や盾に結合して、属性を付与できます」
「なんだ、カードバトルとか、カードトレードとかできないんだ」
なんかガッカリした。
「カードバトルって何です?カードトレードというのは、魔法ギルドで行う、スキルカードの交換や売買取引のことでしょうか?」
「うん、魔法ギルドって何?」
「魔法ギルドは、魔女が作る薬とか、魔道具、宝石やミスリル、オリハルコンのインゴットなどを扱うお店です。一般市民には手が出ないような高価な品ばかり扱っています」 ほう、今いる辺境の街には無いお店だな。都会にはあるのかもしれない。
「カードスキルの結合は品質が高い武器や、盾にしかできません。アイテム鑑定(大)で表示される"高品質”・”最高品質”・”レア”・”ユニーク”のグレードのみ結合が可能です」
どんなアイテムでもスキルを結合できる訳では無いらしい。
「スキルカードって相場はどのくらい、高価なのか?」
「Cランクの魔物を100回討伐して、1枚の割合と聞いたことがあります。種類にもよりますが金貨50~150枚ぐらいが相場のようです。ですので通常、あまり量産品のアイテムにスキルを付与することはありません。ドロップ率が上昇するスキルもあるらしいですが、詳しくは知りません」
そりゃそうだ、金貨1枚とかの鉄の剣にスキル付与しても不釣り合いだし、意味ないだろう。剣が折れでもしたらカードの金貨100枚の費用がパーだ。
あっ待てよ、マルチリペアで直せばよいか。
うーんやっぽりもったいないな。付与するとしたらミスリルやオリハルコンの装備なんかの高級品につけるべきだな。
「よーし、装備もグレードアップしたし、Dランクを中心に、Cランクにも挑戦してみるぞ、強くなって目的地に近づく為には、この街から進む必要がある」
「レン、道案内と索敵をたのんだぞ」
「了解、ニャ」スカウターのレンが答えた。
スカウターのジョブは偵察兵の役割だが、魔獣を探すことの出来る索敵スキルがとても便利だ。
戦いたい魔獣を探し、ゴブリンなどの面倒くさい魔獣を避けて狩りができる。
一日狩りをするとかなり効率が違ってくるだろう。
「Dランクのカボチャキングかも、2体、結構距離ある。あそこに見える倒木の辺りニャ」
カボチャキングか、たしかムチのようなツタ攻撃、種をとばして来るめんどくさいやつだな。
「ほかに魔獣もいないみたいだし、カボキンを狩ろう」
おれの中では、カボチャキング=カボキンである。
「じゃ、先行してくるニャ」と言うと、レンがカボキンのところに向かった。
先行とは、先にカボキンを遠くから弓で射って、わざと気づかせ追って来たところをさらに弓で撃ちつつおびき寄せて来ることだ、待ち受けていて運がよければ2方向、3方向からの挟み撃ちができる。
おっ来たな、レンが弓を手に持ちながら走って逃げてきた、引き離さないようわざと遅く走っている。
カボキンはレンを追いかけるのに夢中で、他が見えなくなっている様子だ。
俺たちは木の陰でかくれてカボキンを待っている。
「今だ!」ベンの声で、左右と後ろから一斉に攻撃をしかけた。
「ギャギャギー」カボキンが呻いた。スザンナの大斧で背中をザックリ切られ、もう一体はベンのロングソードで足を切り落とされた。
俺はその倒れたカボ金に何度も槍を突き刺してとどめを刺す。
”バシュ””バシュ”と音がして見ると。とかろうじて立っているカボキンにレンが2連続で矢が打ち込んでいた。
「”なぎ倒し”」と言いながらスザンナがスキルを使うと、立っているカボキンの胴体が真っ二つだ。
「カボキンはもう余裕だな」アイテムボックスにカボキンの素材を格納する。解体して得られたのは”カボキンの種”と”カボキンのツタ”だ。
野菜なんだから本体がおいしく食べられそうだが、苦くてまずいらしく、捨てるしかないらしい。
「どんどん、魔獣を狩ろう」
それから俺たちはレッサー・トロールや、スケルトンなどの魔獣を数回倒した。
「防具が軽くて動きやすいから、奇襲する時も動きが速くなるし、戦闘しても疲れにくい」ベンが新しい防具の感想を言った。
「早く走れるニャンよ、この手袋だと弓が撃ちやすくて楽ニャンね」弓を何度も軽く引いてみせている。その弓、Amazunのコンパウンドボウそんなに軽く引けるもんだっけ?
と思った。
「レン、そのコンパウンドボウだけど、威力が好みで調整できるんだぞ、宿に帰ったら調整しよう」
「えっ、これよりもっと威力が上がるのかニャン」
「たしか今は俺の好みで、40ポンドに調整していたと思う、最大80ポンドだから最大で2倍にはなる。でもそのぶん強い力がいるしコントロールがむずかしくなる」
「ふーん、今の引きよりもう少し強めでよいかもニャ」
弓は上達するにつれ、威力を段階的に上げてゆく武器のようだ。通常は上位のものに買い換えるのだが、現代から持ってきた弓は調整可能だ。
「調整は無段階だから、丁度よい強さにあとで調整しよう」
たしかリュックの中に調整するレンチがあったはずだ、説明書は携帯端末の中にPDFで保存しておいた。俺でも調整できる。
「あっ今あそこの木の根元にライトメタル・スライムが見えた気がするニャン」
ライトメタル・スライムは溶けた鉛のような外見で、素早くてすぐ逃げる魔獣だ。
「作戦がある、いつも逃げられてばかりだ」
「まず、レンの弓で攻撃な、俺が譲った金属製の矢を使おう」
「ああ、あれピカピカで綺麗だから大切にしまってあるニャンよ、使うなら今ニャンね」
「矢が当たれば、動作は鈍る。そこをガツンと仕留めようぜ」
「よい作戦だな、それでいこう」とベン、
距離を取って回り込んだ、みんなで4方向っから取り囲んだ。
徐々に円を狭めてゆく。
「じゃ、行ってくるニャン」弓に金属製の矢をつがえたレンがゆっくりと足音を消して近づいてゆく。
歩みを止めて、弓を引き絞った。その姿勢がさまになっている。綺麗で格好いい。
あいつもなんか上達したなあ。
レンの口が少し動いた「”狙撃”」のスキルを使ったな。”バッシュ”と弓の音がした。
「当たった、当たったニャン、ベンの方に逃げてるニャンよ」
「見えた!」とベンの声、俺の場所からは見えない。
「”ダッシュ”」ベンがスキルを発動した声がした。ほぼ同時に”ガキッ”と言う金属音が聞こえた。
「倒したぞ~」のベンの声だ。
一発で倒せたのか、ベンの声の方に走って向かう。
真ん中に矢が刺さっていて、その矢を避けるようにスライムが真っ二つになっている。肉まんを2つに割ったようになったライトメタル・スライムだ。
「おお、さすがレン、ベンだな」
「矢もまた使えるニャンね」と言いながら矢をひっこ抜いている。
「こいつ、血出なくていいな」とベンが言いながらロングソードを布で拭っている。
「真っ二つになっていても買い取り金額は高いのでしょうか」と変な心配を口にしたのは鍛冶師のスザンナだ。
「ライトメタル・スライムはこのパターンで倒すのが良さそうだな」
と俺が言うと、
「ライトメタル・スライムをもう少し狩ろう」とベンが言った。
「じゃ探すニャン」とレン、
その後、ライトメタル・スライムは数が少ないみたいでなかなか見つからなかった。結局4匹しか狩ることができたなかった。
「よし今日はここまでだ」
森を出ることにした。みんなで歩く、森の出口にさしかかり、少し明るく開けたところまで来た。
「後ろから魔獣がつけてきている、おそらくレッサー・ドラゴンだニャ」とレン、
なにか気配を感じ取ったみたいだ。
俺は後ろを振り向いた、なにも見えない。
「ほんとか?、どうする」
「ここなら街まで逃げれるし、好都合だ、ヤロウぜ」とベン、基本ベンは”ヤロウ派”で、俺とスザンナは”考えヨウ派”だ、レンは”何でもイイ派”だな。変なバランスがある。
「リュックをあの木の陰に隠して身軽になろう。それとレンは木の上が良くないか」
「そうだな。ではあの高い木の上からレッサー・ドラゴンの目ん玉を狙って撃ってくれ?」とベン、
魔獣相手では容赦ない卑怯で姑息な作戦に好感が持てた。
「OKニャ」とレンがスルスルと木を上って行く。
「後ろ足、前足、尾っぽの順で潰して動き封じてから、白い腹側から心臓を狙うのがセオリーだと思う」とベン、たしかにそれで良い気がする。
「なるほど、その作戦でやってみよう」と俺、
「レンの場所から狙撃がやりやすくて、木から少し離れている平坦な場所で待ち構えよう、あそこがいいな」とベンが指さした。
「よし、移動しよう」
平坦な場所に移動したところで、音も無く”ノッシ””ノッシ”とレッサードラゴンが歩いてきた。俺たちを餌だとでも思っているようだ。
木の上を見るとレンがOKのサインを出した。
「少し前に出て誘導すると確実だな」とベンが言うので、3人で前進した。
すると、”ノッシ””ノッシ”が””サササー””に変わり、かなりのスピードで突進してきた。結構速く動けるんだな。
「回避!!」とベンが叫ぶと、ベンが右、俺とスザンナが左に分かれて回避した。
体当たりをかわされてレッサードラゴンが一瞬止まった。
後ろの上の方から”シュッ”小さな音が聞こえた。
矢が魔獣の片方の目に突き刺さるのが見えた。俺たち側だレンがやってくれた。
でももう片方の目が残っている。ベンがいる方だ。
「スザンナ、俺たちが先だ」というと2人で後ろ足を攻撃する為に前進した。
「”なぎ倒し”」スザンナが魔獣の死角から攻撃し、後ろ足を切断したのが見えた。
レッサードラゴンは後ろ足の1本を切り落とされると、太い尻尾を無茶苦茶に振り回した。
”バスバス””バッキ、バキ”辺りの木々にぶち当たる。
「危ない、少し離れよう、近づけない」左手の盾を前面につきだし、スザンナと一緒に後ろに下がる。
レッサードラゴンは痛みなのか、暴れまくるので手がつけられない。
片目もレンの矢でつぶされ、半分見えていないしな。
「スザンナ、あの片目に刺さった矢をその大斧の横の広いところでぶん殴れないかな?そしたらもっと深くに矢が刺さりそうだ。かなりのダメージになるぞ」
「なんかできそうです。やりましょう」
「じゃおれが正面から槍でつついてけん制するからよろしくな」
俺は走って近づくと、魔獣の死角から槍で、ワニのように開いた口の中や目の付近をつつく、
「どうだ、ほれほれウザいだろ」といいながら槍でつつく、こればウザい。
俺に気を取られたのか、無事な方の目で俺を確認しようと体をこちらの方に向けて”くの字”にした時に大きな隙ができた。
無音でベンが前足の後ろ側で皮が白い部分にロングソードの刃が全部見えなくなるくらいまで深々と突き刺すのが見えた。あれは強烈な一撃だ。
剣が抜けないのか、抜くのをあきらめそのままにして下がった。
ほぼ同時に、スザンナがレンが片目に突き刺した矢をぶったたいてくれた。
「ギャギャギャー」とレッサードラゴンがうめいた。これは魔獣と言えども痛いハズだ。
ナイスな連携だった。
ベンが遠回りして俺達に近づいてきた。
「ミチル、ショートソード貸して」とベン、
「このままで死んでくれないかなあ」と大きな声で言いながら剣を渡した。
「もう少しなんだけど」とスザンナ、
「私とミチルで、こっち側の前足いくよ、スザンナはスキルで尻尾をぶった切ってみて」
そうだ、まだ作戦は生きている。
俺は再度魔獣に近づくと、槍で前足の柔らかそうな白い部分を攻撃した。
後ろから”シュッ”とまた音がすると魔獣の目の少し上に矢が刺さった
「レン、おしい、もう少し下だあ」思わず声が出た。
「これはチャンスかも、もう少しで血が目に入る。するともう片方の目も見えにくくなるはずだぞ」とベンが言った。
「ミチル、ミチルの槍を2人で持って前足の後ろの白いところに突っ込めば、かなり深くまで槍が刺さる。運が良ければとどめになるかも」
たしかに魔獣は弱ってきていて、動きにキレが無い。
「”なぎ倒し”」横の方でタイミングを見ていたスザンナが尻尾を切り落とそうとしてスキルを起動させた。
”ガッツ”と肉が裂ける音がし、斧で尻尾を直径の半分ほど切り裂いたように見えた。
すると、魔獣がブルブルと震え、尻尾がブチンと切れた。
尻尾だけがウネウネ動き回る。
「あっトカゲと同じだ」と言ったが、周りにうまく伝わったかどうかはわからない。
とにかく、もう尻尾での攻撃は気にしなくて良くなった。
「ミチル、槍で突撃するよ」とベン、槍を2人で左右からつかみ、レッサードラゴンの脇腹めがけて突っ込む。
”ブスッ、ズズズ”と槍がものすごく深くまでつきささった。
「このままにして放れる」と、ベンの指示、俺がさきに離れるのを待って、ベンがやりの持ち手側にある”石突き”という部分に靴の裏で蹴りを入れさらに深く突き刺そうとしていた。
ベンが戻ってきた。
「あいつしぶといぞ、あれだけ攻撃してもまだ死なん、さあどうする」とベンが言った。
「俺たちもう武器ないぜ」俺が、両手をぷらぷらさせながら言った、
「”なぎ倒し”」スザンナが前足を切り離した。
スザンナどおした、いままでにないパワーと体力だな。
すると、
手前側の前足、後ろ足を切り離されたレッサードラゴンが手前に転がってきた。
「回避!!」ベンが叫んだ、後ろに飛び跳ねるように回避した。レッサードラゴンの体の一部が木に当たっている。
レッサーデーモンは白い腹を上にしてピクピクと痙攣している。
「ヨッシャー」と言いながらベンが自分のロングソードを魔獣の腹を蹴りながら引き抜いた。血がドローと流れ出てくる。
ベンが後ろに下がり、助走をつけてジャンプするのが見えた、腹のど真ん中に剣を突き刺すつもりのようだ。
”グサッ”とベンが剣を突き刺すが、魔獣はまだ死なない。腹は滑るのか尻餅をついて四つん這いで首の辺りまで這って移動した。
再度ジャンプし剣を首に深く突き刺した。
”ブスゥ”と剣がゆっくり刺さってゆく、レッサードラゴンの目から生気がなくなるのが分かった。
俺たちはCランクのレッサードラゴンを討伐したんだ。
「やったぜ、ハハハ」思わず笑ってしまう。
「やりました」とスザンナ、
鍛冶師になったおかげで持久力がかなり向上したな。
「気合いだよ、押し切ってやったな」とベン、顔が汗だくで湯気が出ているように見える、おまえはすごい。
「トカゲのバケもんやっつけたニャ、ニャハハハ」とレンが木を降りてきた。
「いや、スザンナのパワーがすごい、ベンの容赦ない攻撃が良かった」
「暗くなる、急いで解体してボックスに入れるぞ」と俺が言うと、解体して竜皮とドラゴンの肉、ドラゴンの牙などを入手した。
冒険者ギルドでその日討伐した魔獣を買い取ってもらうと、金貨15枚ほどになった。
なかなかの成果だな。
宿屋に帰るとすぐ夕飯の時間になっていた。
受付で鍵を受け取ると、奴隷商人から連絡がきていた。
”馬車とお金の準備できました。明日の14時に手前の店にてよろしくお願いします。”と書いてあった。
「よーし、馬車と金貨ゲットだぜ」思わず叫んだ。
ポーションとか白い布とか医者らしくする必要あるかもな。
普通のポーションをエリクサーに偽装する為だ。
「明日は休みにして明後日はこの町を出発しよう」
次の街に行けばもう目的地まで残り半分だ、順調順調。
「レン、弓の調整しよう」
「はいニャ」レンからAmazunのコンパウンドボウを受け取る。
マニュアルを見ながら、40ポンドから65ポンドに強くしてみる。
「こんな感じでどう?」レンに調子を見てもらう。
「うーん、もう少し弱めかニャ」
次は、65ポンドから60ポンドに弱める。
「どう?」
「うん、これでばっちしニャ」
「レン、これだけ強くすると、小さい魔獣では貫通して矢の攻撃効果が減る可能性がある。小さい敵や貫通しやすい敵は加減したほうが良いな」
「なるほどニャ、了解ニャ」
弓の調整が終わった。
体をお湯で拭いて寝ることにする。この世界に風呂は無いようだ。
そうだ、
「みんな明日、休みな。明後日はこの町を出発するから準備しておいてくれ」と言うと寝ることにした。
「あっ私、竜騎士になれるみたい」ベンのうれしそうな声だ、なっなにい”竜騎士”だとう!!
そんな格好いいジョブあんのか。竜騎士といえば、黒いプレートメイルを着て、槍を持っている姿をイメージした。
「”目利き”」で早速、ベンのステータスを内緒で見てみた。
おー、転職可能なジョブの項目に、”竜騎士”の文字が間違いなくある。やったな。
きっと夕方に倒したレッサードラゴンで、なんかしらの条件をクリアできたにちがいない。
そうだ!全員のステータスを”目利き”で確認してみた。
残念だが、ベン以外は竜騎士のJOBは得ていなかった。
と言うことは、レベル20以上の騎士であることが条件の1つになるに違いない。
そう言えば、最後はベンがとどめをさしていた。それも関係あるのか?
「ベン、明日は竜騎士に転職だ。おめでとう、よくやった」さすがベン、おまえの好戦的な性格はまさにドラゴンで肉食だ、聖騎士なんかの草食系はお前に似合わない。
「ベン、おめでとう」とスザンナも言う、
レンはもう丸まって尻尾をプラプラさせ寝ているみたいだ。
仲間のジョブなんかには興味無いかあ、さすが大物だ。