戦闘訓練
第6部分 戦闘訓練
俺だけ先に朝早く目が覚めた。
みんなまだ寝ている。レンは隣のベットの上で丸まり、寝ているにもかかわらず尻尾だけはヒクヒクと動いていた。
この2、3日なんか忙しかった。
窓の外をみた。道がみえるだけで景色は良くない。
もっとよく観察してこの世界のことを知らなくてはいけないと思う。
リュックの中を整理していると、一人、また一人とベットから這い出してきた。
「ミチル、おはよう」
とベン、自称19歳のエルフ、実は30歳。
「おはようございます」
とスザンナ、15歳のドワーフ。
「おはニャン」
はレンだ。猫耳族の16歳だ。
俺を含めて、4人のパーティで冒険を始めたばかり、最初の町だ。
ここでレベル1からスタートをしている。
まあ、レベル1で始めたのは俺だけだ。
「スザンナ、ステータスを見てみろ!」
ベンが、何か驚いた様子でスザンナに話しかける。
「な、なんですかコレ、レベルが昨日だけで4つも上がっています」
なんかとても驚いているようだ。
俺が遊んでいたRPGゲームだと初日でレベルは5つぐらいは普通に上昇したけどな、
「レベル4っ上がったって、それなんかすごいことか?」と俺、
「普通1年でLV2つぐらいしか上がらないはずです」とスザンナ、
「その通り、ミチル、私なんか1年に1つ上がるかどうかだ」
「お父さんの手伝いで12歳から狩人初めて、4年でレベル5だったニャ、昨日転職したから、レベル1に戻ったニャンよ」
と言いながら、自分のステータスを広げた。
「うニャー!!、スカウタージョブでレベル3になってるニャー」
耳の毛が逆立ち、尻尾がバタバタと動いた。
ああ、あれの影響かな。
「みんな、たぶんだけど俺のスキルに”節約レベルアップ(中)”と言うパッシブスキルがある。俺にしか有効にならないだろうと思っていたけど、パーティ全員に有効になるみたいだな」
「なんですかそのスキル、聞いたことないです、まさか”ユニークスキル”ですか?」
「ミチル、それ本当なのか!」
「ミチル、すごいニャンよ」
「ああ本当だ、俺のステータスを見せることができないので残念だ。まっ、このことは内緒な」
あんまし、広められても困る。
「すごいです、すごすぎます。これは本当に内緒にしておきましょう」
なんかスザンナは不安になったみたいだ。
「フフフ、やっと私にも運が向いてきたぞ。キタ、キタゾーこれはすごい、クラスアップで聖騎士になるのも夢じゃないな、うん、うん」と正反対にうれしそうなベン。
レンは自分のシッポを指でくるくるいじっている。レベルのことにはなんだか興味がないみたいだ。無関心かよ。
「まあ、俺は少し変わったスキルを持っている、みんなも自分のスキルは持っているだろう、それぞれのスキルを活かせばこのパーティはもっと強くなるということだ」
なんか、テキトーにごまかしとく。
「ちなみに俺は、アイテムや生き物なんかの鑑定と、修理や治療、物を綺麗にするスキルをもっている。あとはさっきのレベルアップが早くなるやつ、あとアイテムボックスだな。戦闘関連のスキルはゼロだ、戦闘では俺に期待できんな」
問題ない程度にゆるく説明しといた。他人のステータスを全部見ることができる”目利き”とか詳しく説明すると自分の首をしめるだけだ。
「私は、アイテム作成(小)、アイテム修理、アイテム鑑定(中)、攻撃時は”なぎ倒し(小)”と言うのが使えるみたいです。アイテム作成や修理のスキルは”鍛冶師のマット”と”鍛冶師のハンマー”を持っていないので使えません、アイテム作成のスキルを使うと全部失敗してしまいます。」
そのマットとか、ハンマーとかってなに?
スザンナは攻撃スキルもあるので戦闘時有利だろう。俺は攻撃スキルが無いし。
「アイテム作るスキルに道具必要か、必要なら買うぞ?」
「あっ、とても高価な魔道具なんです、現状だと難しいと思います。”鍛冶師見習い”なのでお金があれば欲しいのですけど…」
なんか申し訳なさそうな感じだ。
「ふーんそうか、まあ攻撃スキルがあって便利そうだ」
「私のアクティブスキルは、ダッシュと回避だ、正直あまり便利ではない」
とベン。
「ベンはうちのパーティで一番の戦力だ、もうそれで十分だろう」
「そう言われてもなあ、騎士というジョブは何と言うか地味で、スキルも普通で面白くない」
「スカウターは狙撃とヒットアンドウェイ、投げナイフができるみたいなのニャ、使い方はよく分からんニャハハハ」
そうね、レンはそうだろうね。今日は冒険者ギルドでスカウターの訓練受けてくれ。
「さあ、もうそろそろ朝飯の時間だ、準備しよう」
準備を整え、移動することにする。
パンとスープだけのシンプルな朝食を速攻で食べ、冒険者ギルトに向かった。
受付でスカウター訓練を申し込む。訓練を受けるレンがギルドカードを提示した。料金は1日で銀貨5枚だ。
「じゃレン、頑張れよ。これ昼飯代とこずかいな」
と言いながら、銀貨5枚を手に握らせた。
「ミチル、ありがとニャン、ミチルはやさしいニャンなあ」
なんか手を握ってくる。
レンがギルドの人に案内され中庭に向かっていった。
「そうだ、ベンとスザンナにも後で報酬と言うかおこずかい渡すな、俺はみんなにタダ働きさせるつもりはない。まあ、今は俺の財布事情で少ししか渡せないが、これは今後改善していくつもりだ、俺自身だけ贅沢をするつもりもないし、約束する」
と言っておく。
ブラックなアルバイトでタダ働きを経験したことがあるが、あれは双方にデメリットしかないな。
バイト達はお金をもらえずやる気ゼロでサービスが低下し現場が荒れる。雇う側は短期的な利益は上がるが、すぐに悪い噂が人から人に拡散し、バイトも社員も集まらなくなる上に辞めてゆく。
ブラックな部分は隠すことが難しく悪い噂はなかなか消えない。すぐに客も寄り付かなくなる。俺が速攻で辞めた後、経営者が自ら現場に出てきてなんとかやっていたが、精神的にも金銭的にもダメになって、すぐにつぶれたと聞いたお店や会社も多かった。
あれは経営を理解していなバカがやることだ。社員やバイト、お客、その全てから信頼が得られないと、商売なんてうまく回らないだろう。
「これからどこで訓練しようか、場所はどこが良いかな?」
「街の入り口の脇に弓の練習場があったよ。あそこの隣でいいんじゃない」
ベンが言ってきた。
ああ、たしかに、あそこは衛兵が使う訓練所じゃないのかな。
「あそこって、衛兵なんかの訓練場所かもね。勝手に使うとまずいな、衛兵に許可をもらってからだ」
俺たちは、街の入り口に移動し、衛兵に声をかけた。
「衛兵さん、すいません、あそこの空き地で訓練したいのですけど大丈夫ですか?」
「ああ、君たちはこないだ盗賊を倒した旅人だな。誰も使わないからご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
と言って、歩こうとすると、衛兵が走り寄ってきた。
僕の耳に小さい声で、
「こないだの盗賊の報奨金、衛兵事務所に取りに来ないと、無効になっちまうぜ」
あっそうだ、忘れていた。
「ありがとうございます」
「じゃあな」
いいやつだ、衛兵の顔をもう一度見て、覚えておいた。兜で顔の半分が隠れているから分かりにくいと思った。
それから訓練場所に移動した俺達は、鬼教官と化したベンによる熱血スポーツアニメ並みの厳しい訓練を受けたのだった。
「ベン、もう無理だ、体が動かない、今日はもう止めにしよう!」
隣のスザンナを見ると、死んだ魚のような目で意識を半ば失いかけていた。
「なにい!まだ昼だぞ、これしきのことで、剣士になれると思っているのかあ!」
と言ってきた。元気すぎる。
俺べつに剣士になりたくないし、と思った。
もう、朝から5時間くらいはやっているだろう、基本の”足さばき”から始まり、”受け流し”、”回避”、”攻めの型”、とその”素振り”をやらされ、なぜか”腕立て”と”スクワット”を歌いながらやらされた。
身も心も疲れはてているそんな状況だ。
「じゃ、ラストは、ランニングで締めるか」
と言い出した。
それを聞いた俺はつかれていたのだろう、ベンが言った”締める”が”絞める”に聞こえて無性に腹が立った。
「ふざけんな、もう終わりだ、体が動かん、こんなんじゃ明日は筋肉痛で休みになりかねんぞ」
切れ気味に言うと、鬼教官のベンもあきらめてくれたようだ。
「そうか。じゃ終わりにしよう」
あれ、ベン教官がなんか元気なくなったみたい。
めんどくせえヤツだな。
「今日の訓練はとても有益だった、ベン教官ありがとうございましたあ!!」
と大きな声で礼を言うと。
「ありがとゃしたあー」
とスザンナも大きな声を出した。なんかの部活だこれは。
スザンナの目が死んだ魚の目から復活していた。
「お疲れさまでした」とベンが言うと、今回の訓練は完了した。
もう、訓練は2度とやらないかもしれないと思った。
宿に帰って、宿の食堂で昼飯を食べることにする。
「疲れすぎた、食べたら俺少し横になるからな。2人は夕飯まで自由行動だ、逃亡とかするなよ、面倒だから」と言っておく。
2人は逃げたりしないとは思うが、未だ奴隷の身分なのだ。
食事代を支払ったついでに、
「じゃこれ今朝約束したやつな。報酬だ」と言いながら、1人銀貨5枚づつ手渡した。
銀貨1枚で1000円くらいの感覚を得た。
金貨1枚で1万円だ、初期装備は1人あたり金貨5枚~10枚が必要と言う物価だった。おそらくこの金銭感覚で間違いない。
「おお、ありがとう」とベンが喜んだ、
「ありがとうございます。これで久しぶりにお酒が飲めます」とスザンナ、泣きそうだ。
「その金は使わずに貯めても良いし、何買っても、食べても良い、各自自由だからな」
昼飯を口に入れながら説明しておく。
食事を終えると部屋に帰り少し眠ることにした。
2時間ほど眠ったと思う。
カギを開ける”ガチャガチャ”と言う音で目が覚めた。
ドアが開く音がして、2人が入ってきたみたいだ。
「ミチルまだ寝てるみたい、静かにしよう」
そんなスザンナの声が聞こえて、なんか安心した。
逃亡はしなかったな。
「スザンナ、あそこの店、服や下着安く買えて良かったね」ベンのようだ、
「早速、着替えてみる?」とスザンナの声、”カサゴソ”と着替える音が聞こえた。
くっ、着替えているところ見たいが、バレたらやばい。
「うっ、うん」
と中断するように声を上げた。
「帰ってきたのか?」
と目を閉じたまま、声をかけた。”ガサガサ”と慌てている音がした。
「起きたの?」
とベンの声だ。
「ああ寝てばかりもいられん、衛兵事務所に行って報奨金をもらってくる」
ベットに座り、ブーツを履いた。ああ、全身が痛い気がする。
ゆっくり立ち上がる。2人はあたらしい服に着替えていた。こういう時は、言うことが決まっている。
「それ、新しい服だね、2人ともとてもよく似合っている」
無条件にほめておくに限る。
「そう?、この服けっこう安かったんだよね」とベン、照れたようだ。
「じゃ、俺、そこまで行ってくる」
衛兵事務所は宿屋のすぐ近くだ。事務所の前には衛兵が立っていた。
「こないだ盗賊を6人討伐した旅人で、名前はミチルだ、報奨金を受け取りにきた」
と言うと、中に案内された。受付で待たされる。
「ミチルさん」受付から呼ばれたので、受付に行くことにする。
「ギルドカードか、身分証明書を提示ください」
ギルドカードを持っていてよかった。
「はい、確認できました、こちら報奨金です」
”金貨XX枚です”とかでは無いんだな。袋ごとドサッと渡してきた。
「どうもありがとう」と言うと、すぐにボックスをオープンして中にいれた。
すぐに、そそくさと宿屋にもどった。
フーなんか緊張したぜ。
宿屋の階段を上り、部屋の前で鍵を開け、ドアを開ける。
「あっ、ちょとまって」と声、下着姿の2人が見えたので、すぐにドアを閉めた。
やべーもん見ちゃったな。
ベンの真っ白な背中が目に焼き付いた。
これはラッキースケベだ。ステータスをオープンして確認する。
残念、”ラッキースケベ”と言うジョブは得られなかったみたいだ。
「もういいよ」と部屋の中から声がした。
「ごめんな、覗くつもりはなかった。謝る」謝罪した。
「いいよ別に、裸を見られたわけでもないしね」とベン。
「そうか、本当にごめんな」と言いながらベッドに腰かけた。
「ボックスオープン」と言って、報奨金を取り出し袋の中を覗く。
まじか、かなりの金貨の数だ、こないだ奴隷商人から馬車の大金でもらった40枚以上はあるように見えた。50枚くらいはある。よーしこれなら、しばらくの生活費と次の町へお移動費用、装備の強化までできそうだ、スザンナが鍛冶師として必要な”鍛冶師のマット”と”鍛冶師のハンマー”も買えるんじゃないかな。
「よし、明日は奴隷商人に合って2人を奴隷から平民にできるぞ」
2人に奴隷解放できる資金が確保できたことを伝えた。
「......う、う、う、うわー」いきなり、スザンナが泣き出してベンに抱きついた。
「バッバカ、泣くなスザンナ」と言った、ベンの目にも涙が見えた。
本当にうれしい時、涙って出ちゃうよね。
”ガチッヤ”とそこにレンが帰ってきた。
「ミチル、二人を泣かせちゃだめニャンよー」”プンプン”と怒ってきた。
「ちがうんだ、明日、奴隷から自由民にできると言ったらこうなった」
「そうか、それは良かったニャ、うんうん良かったニャ」
「それで、訓練はどうだった、きちんと出来たか?」
「うん大丈夫、スカウターのスキル完璧ニャンよ、講師もイケメンの猫耳族だったニャン、フフフニャン」
そこか、こいつがイケメンの猫耳族にデレデレしていたのが目に浮かんだ。
「イケメンは関係ないとして、スキル以外のテクニックも覚えれたか?」
「弓、格闘、ナイフ、投げナイフ、罠の解除なんか基礎は全部覚えたニャンよ、講師のイケメンの猫耳族もいい匂いしてたニャンよ、近づくたびにクンクンしたニャンよ」
「ハイハイ、わかりました」
もういいわ。
「夕飯の時間だ、食堂に行こうぜ」
夕飯を食べることにした。
食事が運ばれてきてさあ食べようとすると。
「わたし、お酒飲みます」スザンナがそう宣言すると、カウンターに行き、銀貨1枚をバーテンに渡すとウイスキーのような物を木製のカップに入れて持ってきた。
「私たちの未来にカンパーイ」とスザンナがうれしそうに言った。
その日ベットに入り眠る時
「今日は色んなことがあったが良い日だった、明日もがんばろう」
と思った。
眠り、夢を見た。
夢には裸のベンとスザンナが登場して、昼間、眼に焼き付いたベンの白い背中が何度も浮かんでは消えを繰り返した。
朝起きたら夢精してパンツがベトベトでした。朝から最悪です。
人生なんてこんなもんだ。