迷宮都市ドルガードと魔法使い
第11部分 迷宮都市ドルガードと魔法使い
辺境の街”ベジム”は、小さな街だったが、人が暖かかった気がする。今日でこの町ともさよならだ。
奴隷商人の店に馬車を取りに行ってきたが、馬車はとても綺麗に整備されていて、幌も新品になっていた。
奴隷商人とその弟が出てきて、馬車のメンテナンスの方法とか馬の飼育についてアドバイスしてくれた。なるほどねえ、安い毛布をクッションにするんだな、そりゃ尻いたくなるわけだ。
馬車でいったん雑貨屋に引き返し、安い毛布や、馬がつかう木の桶など馬車の旅に必要なものを買い足した。
「お弁当も買うニャ、肉にしてニャ」
「ハイハイ、分かりました」と俺、近くの食堂で朝ご飯を食べるとそこで弁当と保存食を購入した。堅いパンみたいな物だった。
「準備OKだな」
「大丈夫です」とみんな、
「では、迷宮都市ドルガードに向けて出発」と言いながら、ベンが手綱を引いた。
森側の門を馬車で抜け、いつも魔獣狩りをしていた森の横を進む。
「この森のおかげで俺たち強くなれたな」と俺がつぶやくと、
「ミチルのおかげでレベルアップが早くて助かりました」とスザンナ、
レンは毛布を綺麗に畳んで荷台に四角く広げると、速攻で丸くなるようにして寝転んだ。
「ベン、一本道だから、よろしくニャ、お弁当食べるときは起こしてニャン」
と言うと目を閉じた。レンはすぐ寝るな、まるで本当の猫だ。
道は、丘などでアップダウンがあったが、ほぼ真っ直ぐだ、何処までも続いているように見える。
「歩くと、丸一日かかると聞いていたから、この悪い道で馬車だと4時間~5時間ってとこかな?」
「宿屋の人もそう言ってました。時々、Eランク、たまにDランクの魔獣が1匹2匹出るらしいです。」とスザンナ、道中の景色が珍しいのか、幌から後ろを見ながら言っている。
「EやDランクなら問題ないだろ」とベン、
「まあな」と俺、
出発の時間が遅かったが、明るいうちに辿り着けるだろう、暗くなってたら宿屋を探すのは諦めて、街の手前とか安全な場所で野営しても良いな。
2時間ぐらい馬車で移動すると、馬がバテてきたみたいだ、こういう時は少し休憩すると良いらしい。
「そこの広い路肩に停めて、馬に水をあげよう、こいつらも生き物だし疲れるみたいだ」
ベンが、馬を操作し、路肩に停めた。
「この木の桶に水だな」大型の水筒から水を入れた桶を馬に見せると、早くくれと言わんばかりに俺をを見た。わかったよ。
”ガフ、ガブッ”と下品な音を立て馬が水を飲んだ。もう良いみたいだ。と思ったら馬は道ばたの草を食べ始めた。
「少し休むか、飯は早いよな」俺が言うと、レン以外が馬車から降りて草むらに座った。
「馬車は結構揺れるし、疲れるな」と俺が言うと、
「歩きよりはぜんぜんマシです。」とスザンナ、
たしかに歩きは面倒だ、思ったよりも進まないからな。
少し座っていると、
「ミチル、魔獣が近くにいるかもニャン」とレンの声が幌の中から聞こえてきた。
「エッ、辺りを見渡すが何もいない」
弓を持って、レンが馬車から降りてきた。矢筒を背中に背負った。
「多分あっちニャ」と遠くの林を指さした。
「めんどくせえから馬車で逃げるか?」と俺、
「いや待て、追いつかれたら面倒だ、馬も怪我するかもしれん、ヤロウ」
きたあ、ベンの”ヤロウ発言”、こいつは”ヤロウ派”だった。”バトルジャンキー”と言う好戦的な性格なのかもしれん。エルフなのに肉食系だ。
「じゃ、馬車が動かないようにして、少し前で待ち受けるか、何体だ?」
「4体かニャ、Eランクのツノウサギかも、弱いやつだニャ」
「よーし、”竜騎士”の私が、スキルで倒してやろう」
はあ、そう言うことね、単に広いところでスキルつかって見たかっただけなんだ。
スザンナを見ると、しょうがないなあ、と言うような顔していて、目が合った。
「そうだな、弱い敵でスキル使っておかないとイザと言うときに使えんしな」と俺、
ドラゴンジャンプと、真空兜割を見てみたかった。
「ベン、ついでに二刀流も見せてくれ」と俺が言うと、
「二刀流はまだ練習中だが、任せてくれ」とうれしそうに答えた。
レンがゆっくり弓を引くと、矢を打った。”シュッ”という音がした。
「1匹やったニャ」
「来ました。」とスザンナ、
「三人前衛で、レンは少し放れて」とベンの指示、
この状況だと、3対3つまり魔獣1体を一人が相手にするはず。と当初は俺も思っていたが、大抵の場合、実際はスザンナに敵の攻撃が集中した。
レンになんでいつもこうなる?と聞いたところ、魔獣は体の小さい子供や、武器を持たない者、恐怖して腰が引けてる者など弱そうな者を判定し、弱い者からから襲うらしい。
それは連携とかではなく本能だと思う。と言っていた、なぜかと言うと大抵の動物もそうだから。
と言っていた。
「よーし、じゃいくよ。”ドラゴンジャーンプ”」ベンがスキルをつかった。
おー高え、10メートルぐらいか?いやそれはモリすぎだ。
俺の背高さの3倍程度だな、つまり6メートル弱か、低い木を余裕で飛び越える程度の高さまでジャンプし、ツノウサギの後ろに無事着地した。
すぐに反転、
「”真空兜割”」2つ目のスキルを発動させた。
やはりスキルのクーリングタイムが必要ない。スキルコンボ(2)とはスキルが2連続で起動できるんだ、
”真空兜割”とは、まるで剣が後ろからハンマーにはじかれたように、あり得ない加速で振り落とされる技だった。
そして真っ直ぐに切り落とすのではなく、最後は左下横に切り抜いていた。これは剣が地面を叩いて剣を折らないようにする工夫だろう。
ツノウサギはツノから本当に真っ二つになって地面にたたきつけられ、そこでさらに2回バウンドして止まった。
これは凄いスキルだ、そしてベンの体の切れがなんか尋常じゃない感じがした。速すぎて見えない、なんか残像のようなものを見た感じがした。”竜騎士”おそるべし。
「”なぎ倒し”」スザンナもスキルを発動し、弱ったツノウサギを横に真っ二つにした。
それで戦闘が終了した。
もう一体については、おれが早々に槍で心臓を一突きし倒していた。解体した時に心臓の位置を確認しておいた研究結果の成果だ。
「ベン、竜騎士のジョブ、さすがだなあ。伝説のジョブだけのことはある。やはりLV1に戻っても全く弱くなってない」と俺。
ベンをほめておく。こいつは褒めて伸びるタイプだ。
「うん、さすが竜騎士のジョブだ、スキルも実戦的でいろんな状況で使用できそうだ。
体の反応もよい、思った通りに反応するし、力も強くなったので剣も軽く感じる。」
なんか自分でも信じられないような感じらしい。
「今の戦闘だと二刀流は出せないな」と俺、戦闘が短すぎた。
「二刀流は、まだ木刀で練習中だ。思っていたよりも難しい、自分の腕や足を誤って切りそうになるんだ。かなりの修練をつまないと二刀流は会得できそうに無いな。」
そりゃそうだろう、剣豪の宮本武蔵も二天一流を完成させたのは晩年のはずだ、そんなに早く会得できるハズも無い。
そう言うと、もう一つのロングソードをを鞘から抜き、2本の剣をブンブン振り回した。
「まだ、こんな感じだな実践では使えん」とベン、
たしかに危ない、見ていてハラハラする、片腕を切ってしまいそうに見える。
でも、スゲー格好いいぞ、あの伝説のライトノベル:ソード・アント・オリラインの主人公”霧人”も二刀流だしな、主人公は二刀流が定石かも。
「この魔獣どうします?」とスザンナ、レンが矢が刺さったツノウサギを矢の部分を持ってブラブラ揺らしながら回収してきた。
レンはいつも戦闘が終わると、自分の矢を回収して再利用している。時々なくしてしまうが、矢の再利用は狩人的には普通らしい。
「レンと、俺の魔獣はおれのアイテムボックスへ、スザンナのやつはツノだけ回収だな、ベンのは使えるところが無いからここに置いておけば良いだろう。」と俺、
あんな真っ二つだと何にも使えん、肉食べるくらいだろ。そんなに肉も食えん。
ささっと、スザンナが解体してツノを自分のアイテムボックスにしまった。
じゃ戻ろうと馬車に向かう。
「スザンナ、そのツノって何作る時の素材だ?、剣のグリップだと少し小さいよな?」
「そうですね、主に小物の道具類ですね。特別大きい物はナイフのグリップに使用されます。ツノウサギのツノでグリップを作ると縁起が良いという迷信がありますから。スカウター職系には逃げ足が速いとか、なんとかで人気があります。」
「そんなのがあるのか?」こちらにも似たような迷信があるんだなあと思った。
馬車に戻ると、馬は草を食べていた。俺たちもお弁当食べようと言うことになり、みんなでお弁当を食べてからの出発となった。
休憩してから、馬車を2時間ぐらいは走らせたがまだつかない、俺たち遅すぎるのか?
「レン、あとどのくらいだ」
「あと1時間か2時間くらいかニャあ」こりゃ到着は夕方かもしれんなあ、野営すんのか?面倒だな。野営中に魔獣や動物に襲われたら面倒だ。
「レン、街の手前で野営とかできそうか?」
「うん、大丈夫ニャ、あそこら辺はEランクしかいないニャ、それにキングジャコウネコの魔獣避けがあるから、安全に野営できるニャ」
「なんだそれ、魔獣よけって?」
「キングジャコウネコは強い動物で、基本おなかがすいて無くても魔獣を見つけると殺します。人間は動物なのであまり襲いません、基本人間からは逃げます。弱い魔獣はキングジャコウネコを恐れますので寄りつきません」とスザンナの解説が入った。
なるほど。ジャコキンかあどんな猫かなあ、可愛いのかな。
「そのジャコキン猫は可愛いのか?」
「かわいいどころか、無茶苦茶凶暴です。」とスザンナ、
「ジャコキンはヤバい野獣ニャー、あいつら臭いし近づけないニャーよ」ああ臭いんだ。
そりゃおれも無理だわ。
街がようやく見えてきた、がもう夕方で暗くなって来ている。こりゃ余裕かましてのんびりしすぎたわ。
「手前の良さそうなところで野営するぞ、レン何処がいい?」
「もう少し行くニャ、川があるところの近くがいいニャンね」
ああ、あそこか、良さそうだ、平坦だし、川もある。馬に十分水もやれるから最高だ。
近くに森があるけど大丈夫かな?
「レンあの森だいじょうぶか?」
「あれは街の水源、その森ニャ、魔獣はいるけど森からは出てこないニャ」
「ベン、あそこの空き地で野営だ、停めてくれ」と馬車を運転しているベンに指示した。
「ミチル、マジでえ、もう少しじゃんさあ、野営やだなあ」とベンからのクレームだ。
「夜、馬車で街には入れ無い。完全に暗くなる前にさっさと準備するぞ」
馬車を停めると、おれは水をくみ、ベンとスザンナは薪を拾いに森に、レンは川で魚を見つけ、弓であっという間に魚を10匹ていど取った。
「レン、もういいぞ。おまえこの川の魚を絶滅させる気か、食べる分だけでいいから」
「全部食べるニャンよ」と言うと、取り過ぎていたのか、取るのを止めた。
「火がなかなか着かないわねえ」と言ってベンが”火打ち石”と”炭布と言う着火材”で格闘していた。
「ベン、良い物がある、俺がやるよ」リュックの中のサバイバルキットから”ファイヤースターター”を取り出し、ガリガリやるとすぐに火がついた。
「なにそれ、良い物持ってなら早くやってよね。疲れちゃったわ。それ魔道具なの?」
「俺の元いた国のAmazunという売店で買った物だな魔道具では無い」
「それはとても便利な物ですね。火を起こすのは大変な作業なんです」とスザンナ、
「魚焼くニャンね、魚」レンは川の近くでさばいた魚に串をさし。塩をまぶし、たき火の近くに刺した。
「魔獣避けまくニャンね」と言うと、50m四方ぐらいに瓶でなにかを垂らしていた。
レンは元狩人だ、こう言う状況の野営とかサバイバルとか慣れてるんだなと関心した。
「お湯を沸かそう」と俺が湯沸かしのポットをたき火の近くにぶら下げ、
「少し、暗いからランタンにも火をつけてくれ」と言うと、スザンナがランタンに火をつけると、逆さにした桶の上に置いた。良い雰囲気だな、小学校で行ったキャンプを思い出した。ずいぶん昔だ。
4人で丸くなって座り、たき火を見た。
2週間ほど前は他人だった人たちだ、
「なんか、ずっと前からの友達のようだな、俺たち。ついこないだまでは他人だったのに」
「そうね短い間に、色々あったね」
「いまの俺たちの状況って何だろうな、俺は遺跡に向かっている」と、俺。
「みんなは、俺のその目的が終わった後はどうする?このパーティを解散したらなにかやりたいことはあるのか?」
「解散?、解散する必要あるの?」とベン、
「うーん、分からない、遺跡でやる仕事の結果次第だ、そこで終わるかもしれないし、続くかもしれない」
俺も自分にずいぶん都合が良い考えだなと思った。
無事帰れれば、解散。帰りの転送に失敗すれば冒険者をして食い扶持を稼がないと生活できない。
「えー、パーティは続けようよ。私とスザンナは帰るところ無いしさあ」とベンが言った。
「私は立派な鍛冶師になりたいです。お金を貯めて将来工房を持ちたいのです。その為に、このパーティを続けたいです。だから、よろしくお願いします」スザンナが頭を下げた。
「レンは?」とレンにも聞いてみる。
「ミチルとは、コンパウンドボウをもらうかわりに遺跡の近くの村まで案内するって約束したニャンよ。でも強くなったみんなと一緒なら遺跡まで行けるニャンね。それに、もう正直、一人で動物や魔獣を狩って稼ぐ生活には疲れたニャンよ、狩りとかしてて、突然Cランクのレッサードラゴンやヘルキャットとかに一人の時に襲われたら、死にそうになるニャンな。街道ぞいに盗賊もたくさんいて危険ニャンよ。このパーティは居心地が良いニャンね。私、学校にも行ってなくて、頭も悪いけど、ここには私しか出来ない仕事もあって、みんなの役に立てる。みんなも強くて頼りになる良い人ばかりだニャ、寂しくなったら話しもできるニャン、仕事は少し危険ニャンだけど、お金も十分もらえて、おいしいご飯も食べられるようになったニャン、私がいた村の家族はみんな死んだニャンから、今はみんなが家族ニャンよ。これからもよろしくニャンね」とレンが言った。
レンの思いは、おそらくそこにいた全員の思いと同じだったかもしれない。
こいつは安ぽいプライドも無いし、つまんねえ嘘もつかない。
素直な自分の気持ちを飾らない言葉で伝えてきた。その言葉がすごく心にしみた。
そんなこと言われると、みんな無言になっちまうだろ。
「お魚焼けたニャン、食べるニャンね」串に刺さった魚をワシワシとレンが食べるを見て、
「俺も」と魚に食いついた、
「うまいなこれ、塩味がちょうど良い」と俺、
「ほんとに、おいしいです」とスザンナ、
「うん、うん、旨いな」とベン、
「魚いっぱいあるニャンよ、たくさん食べるニャン、ニャハハハ」レンが笑った。
「安全だとは思うが、交代で見張りについて、寝よう」と俺、
4人で交代すれば、十分休むことはできる。
朝になれば安全だ。宿でもう一度寝ることもできる。
「そうね、それが良いわ」ベンも同じ意見のようだ。
ランタンを手に持ち、片付けをしようとしたところ、
「ミチル!、近くにだれか来たみたいニャ!」とレンの大きな声した
「なに、どこだ!!」と言いながら右手でショートソードを抜いた。槍は馬車の中だ。
「あの岩の陰、4人?、いや1人?、あそこニャンね」と指をさす。
「あそは俺がさっき水くんだところだぞ、だれもいるハズない」俺が言うと、
「確かめよう、いくぞ」とベン、
一斉に戦闘態勢となる、武器を握って岩に向かった。
レンは弓を射るための斜角を確保する為、大きく右側からにスルスルと音を立てずに、すばやく走って回り込んでいった、ありゃ本物だ。
レンも相当に腕を上げていて、最近ではまず矢を外すことが無い。
すると、岩の陰でなにかが動いた。ゴブリンか?なんか小さい動物に見えた。
暗闇になれてきた眼でよく見ると、こちらを恥ずかしそうにチラチラ見ている女の子だった。
8歳~9歳ぐらいか小学1・2年生ぐらいの小さい女の子だ。
「ヒュームの女の子、武器もっていないし、他には誰も居ないな」とベン、
岩の周辺や周りをレンが確認したが、誰もいない。
「この子、どうやって私たちに近づいたのかしら」たしかに、不自然だった。
俺たちはともかく、レンの索敵は完璧だ、寝ていても感知する。それをどうやって?
「お嬢ちゃん一人かい?」なるべく優しく声をかけた。
「うん、お兄ちゃんお腹ペコペコなんだ、なにか食べる物ある?」と女の子。
「ああ、こっち来て食べよう。おいしいお魚があるし。堅いけど甘いパンもある」
「うん、一緒にたべよう」とスザンナ、
「あれえ、さっきまで一緒にいた、あの可愛い魔女っ子のお姉ちゃんいないんだ。もう少しお話ししたかったのになあ」と女の子。
あん、何のことだ?
「ねえねえ、ここは夢の中でしょ?夜なの?なんか暗いね」と女の子。
「いま夜だから、暗いんだ」
「ふーん、ユリね、お腹すいたり、寂しいときとかよく寝ちゃうの、するとお腹いっぱい食べる夢とか、遊園地で遊ぶ夢とか、学校に行く夢とかよく見るんだあ、暗い夜とかの夢はあまり見ないな」
「ここ森?何も無いところだね。」と女の子。
何だ、何言ってる。おれのこと知ってるのか?この子だれだ、泥だらけの服来てるし、靴もはいていなくて裸足のままだ。
そうだ、鑑定すればわかる、
「”目利き”」スキルを起動し、この女の子を鑑定してみた。
えっ!!へんな職業名、ユニークスキルらしい見たこと無いスキル、よく見たらこいつの着ている服、ジャージの上下じゃねーか!!しかも泥だらけだし。
間違いなく、俺の世界から来た子供だ、転生?転送?されてきたのは間違いないようだ。
こんな子供をどおして、何の目的だ。なんか腹立たしいと言うかイライラしてきた。
ここはどうするのがベストか、頭をフル回転させる。
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ユリ・ヒカゲ 10歳
職業:かわいそうな女の子 レベル:-
HP:15/100
MP:1/1
転職可能な職業:”魔法使い”
スキル:”時空間魔法(無効)”
:”ゴーレム作成(無効)”
装備
胴体:汚れたジャージ
アイテム:ドロップの空き缶(輪ゴム、公園で拾ったBB弾)
公園の自動販売機で見つけた銅貨10円
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まあ、話を聞くしかなさそうだ、全てはそれからだな。
「なんか、服とか、泥だらけだね、俺が綺麗にしてやろうな。」”クリーニング”のスキルで綺麗にした。
あれ、この子の腕の汚れ消えないなあ。手でこする、なんだこれ?
「ミチル、それアザだよ、この子、ボッコボッコに殴られるかなんかして全身怪我してるみたい」
ユリのアザや傷を見たベンが急に怒って、不機嫌になったのが分かった。
そう言えばスキルで綺麗にしたはずなのに全身ボロボロのままだ、足は血がにじんでいた。
少し見える足のすねにもアザがあり、斑点のような跡がある。
いくら鈍い俺にもピンときた、これば虐待の跡だ、いじめやケンカなんかで出来る傷では無い。なんとなくだが、体も細くやせてガリガリで、とても10歳には見えない。栄養不足なんだろう顔色も青白い。
「そうか、ケンカでもしたか、やんちゃな女の子だなあ」気づかないフリしとく。
「お兄ちゃん今の魔法なの?すごい綺麗になった」
「そうさ、魔法なんだ、こんなこともできるぞ」”マルチリペア”ボロボロのジャージを綺麗に修理した。
「すごい、新品だあ、おばあちゃんに買ってもらったジャージなんだこれ」
「ユリちゃん、はらペコだろ。これ、好きなだけ食べていいよ」、焼いた魚が余っていたのでそれを差し出す、リュックから俺のカップを出し、固形即席メンを入れて、お湯を注いだ。
「なにこれ、魚?食べられるの?ムシャムシャ。すごくおいしいね」
「おかわりしていいの?」とユリ、
「たくさん食っとけ、ほらラーメンもあるぞ」
「フー、お腹いっぱい食べたあ」と少し笑うと、たき火の揺れる炎をじっと見て、急に黙った。
「どうした、大丈夫か」
「ユリねえ、なんかもう疲れちゃたんだあ、体もいろんな所が痛くて、眠って夢見るぐらいしか、毎日ご飯も食べられない。起きてる時はなんにも楽しいこと無い」ユリが、ぼそっと今の気持ちを吐き出した。
「もう、なんか力も出なくて、この夢も、なにもかも全部終わりにしたいのかも」とユリ、
「まあ、そんなにあせらなくて良いだろ、この夢はいつもより少し長いんだ、痛い所は後で直してやるし、お腹がすいたらすぐになんか食べさせてやる。お金が無くなったら一緒に協力して弱い魔獣でも狩って稼げばいい。寂しくなったらなにか面白い話をしよう、それだけで結構十分楽しいもんだ」と、俺が言う。
今、俺たちに出来ることは何だろう。
ユリをなんとか仲間にすることだ。
全てはそれから、それでなんとかできるそんな気がした。
「でも、ユリなんか仲間になっても迷惑かけるから、弱いしきっとスグお兄ちゃん達の邪魔になるから」とユリ、
「ユリはバカでノロマで言うことを聞かないくせして、一人前に飯ばかり食べるダメな子なんです。だからいつも叩かれるんです。どうせ、一緒にいても役にたちません。」
とユリ、
「そうか、人に言われたことをそのまま受け入れることはないんぞ、自分の価値は、自分で決めれば良い。俺はこれまでそうしてきた。
俺達とこの夢の世界でもう少し旅してみないか。俺たちはチョットだけ強い、仲間になれば安全だ。ユリをいじめるやつがいたら俺が守る」
「でもさあ、ここから放れると、お家に帰れなくなるかも」とユリ、
「それは大丈夫、ここは夢の中だ、目が覚めれば元通り。なっ俺たちと一緒に冒険しようぜ。それに、お前、こんなところに一人で居たら、魔獣にくわれちまう。きっと噛まれたらスゲー痛いぞ」
「ふーん本当に?」とユリ、
「この世界はよく出来たゲームみたいなもんだ、その証拠に”ステータス・オープン”て言ってみろよ」と俺、
「”ステータスオープン”」とユリ、
「わっ、なんか開いた、”かわいそうな女の子”って書いてある」とユリ、驚いてるな。
「明日、ジョブ神殿でユリを、”かわいそうな女の子”から”魔法使い”に変更してやるからな。そしたら魔法も使えるようになる。きっと楽しくなるぞ。一緒に悪い魔獣を退治しよう。おいしい物をいっぱい食べて、楽しいことしようぜ。」
ユリ、君のゲームはいま始まったばかりなんだ。
うーん理解できたのかな?
「ユリ、まあもう今日は疲れてるみたいだから、とにかく寝とけ。明日、朝おきてパンでも食べた後に、またどうするか一緒に考えようぜ」と俺、
「うん、でも....」とユリ、なにか考えているのか、断る言葉が浮かばないのか?そもそも小さい女の子と接したことが無い、19歳で童貞の男が10歳の女の子を上手に説得出来るはずが無いのかも。
うーんどうしようと、周りを見渡すと、レンと目があった。こいつだ、こいつの外見は仲間のなかでも一番魔法の世界っぽい。レンに目で合図した。”アイ・コンタクト”だな。
「寝るニャンな、もう馬車の中で寝るニャンよ、お姉ちゃんのやわらかい猫耳や尻尾さわらせてやるニャン、行こう!」そう言うとレンがユリを馬車に連れていった。
さすがレンだ。野性的な感覚がすばらしい。
「あの子、森に捨てられたのかな、ヒュームはけっこうするんだよね、本当の親がさあ、森に子供を捨てにくるんだよね。森に住んでいるエルフ種はいい迷惑だよ」とベン、
「エルフはそんなことないのか?」
「エルフはしないね、そんなやつ死刑でしょ。子供は宝じゃないの?違う?」
「そうだけど、ヒュームは時々ばかなことする奴が多い」と俺、
「フーン、ミチルの国に連れってってくれたら、あたしがそんなやつ全部やっつけてやる」
「そんなに簡単じゃない、1人、2人やったところで次から次に出てくるゴキブリみたいなもんだ。キリが無いんだよ」と俺、
「しょうがないわね、ヒュームは、もう」とベン、手のひらを上に向けている。
携帯端末を取り出し、ローカルストレージに保存された百科事典DBを検索する。たしかニュースも全て保存され検索できたはずだ。”ヒカゲ ユリ”検索する。
ニュースが表示された、ずいぶん昔の記事だな。俺の転送時からカウントして10年前か?
「平成xx年12月25日、女の子の悲鳴が聞こえる。と119番があり交番の警官が現場に急行するが、車で逃亡した後であった。周囲を調査すると公園から男女が車で逃走し、逃亡中に交通事故で死亡と記載。交通事故で死んだのは殺されたと推測される女の子の母親、その恋人で同居人の無職の男の2人だった。
逃走した現場周囲を調査したところ、公園の裏山に1mぐらいの穴を発見、遺体は発見されず、周囲に野犬やアライグマが多数生息していることから掘り起こされてしまったと推測、その後、1週間周囲3Kmを調査したが遺体は発見されず、自宅にも帰宅していないことが分かった。事故を起こした車のトランクから穴を掘る時に使ったと思われるスコップと、少女の靴、髪の毛、大量の血液が検出された。と記載があった。」
俺が小学生の時に住んでいた近所だ。思い出した、俺この事件知ってる。
クリスマスの夜に虐待されて殺された女の子が公園の裏山に埋められた事件だ。
野犬に掘り起こされていたとかで、結局遺体はみつからなかったハズだな。
その後、あの山ではオバケが出ると地元で噂になった。元々小学校にもあまり来ていなかった子供らしく、近所から苦情があった時も警官が注意していた。そんなことを何回も繰り返していた程度の対応だったみたいだ。
当時からずいぶん経過したのに、俺たちの国は何も変わっていないな。と感じた。
とりあえず今夜、無事に乗り切ろう。
バイトでも経験したが、1晩くらい寝なくても死にはしない。
明日は朝早くここを出て、迷宮都市ドルガードだ。
そこにはダンジョンがある。
無料で泊まれる”ハウザーの宿屋”もある。
俺は、無茶苦茶かわいい男爵の娘とも知り合いになっている。彼女は俺に何か用があるみたいだ。
魔法使いの小さな女の子”ユリ”も仲間にできるだろう、
これは、なにか楽しいことが絶対ある。そんな予感がする。
「ベン、スザンナは先に寝ろ、4時間くらいで交代な」
「了解」2人も馬車の荷台に消えていった。
周囲を警戒するのは索敵のパッシブスキルを持っているレンが適任だ。
しかも、あいつは昼間、馬車の中でずっと寝ていた。
夜は起きていられるはずだと思って起こしにゆくと、
ユリを抱いて熟睡してる。止めといた。
「まあ、いいか」ここは俺一人でなんとかなる。
ワンオペには慣れっこなんだ。




