魔女の受難
私は正真正銘魔女である。
水晶玉を通して未来を視ることが出来る。
だがしかし、そんな能力あったところで、生きていけないのが今の世の中だ。
必要なのは能力ではない。金である。
私は普段、会社員として働いている。
それなのにどうしてこんなところに、こんな時間にいるのか。
こんな、ビルとビルの隙間にある怪しげな占い屋に、こんな深夜に、いるのか。
答えは『双子の姉に代わりを頼まれたから』である。
そう、この占い屋は姉の店だ。因みに本業は花屋。
姉も、私と同じ能力を持っているのだが、私と違い、他人の未来を視ることが大好きである。
好きが高じてこんな店を開いてしまう程には。
そんな姉には七歳になる娘がいる。その子が熱を出し、看病しなければならなくなった。
だったら占いなど休んでしまえばいいものを、「これまで一度も休んだことないのよ!皆勤賞よ!」だなどと、くだらない理由で休日の私を引っ張り出したのだ。
正直迷惑である。しかし、断るには理由が足りないくらいには暇であった。
どうせ客など来ないだろう。
そう高を括って代わりを受けたのだが。
事実、一人も来ていなかったのだが。
「すみません、占いしてもらっていいですか」
まさか、こんな深夜に客が来るとは。
なんだよお姉ちゃん、来るじゃん。
「あの……?」
「あ、はい。すいません、占いですね」
困惑したような男性の声で現実に帰ってきた。
まずはお客さんの観察。
くたびれたスーツに、負けず劣らずのくたびれた顔。あー、この隈はもう落ちませんね、きっと。
「はい、まずはこのお店についてご説明しますね」
「はあ」
気の抜けた返事だな。
「このお店はお客様ご自身かその周りの、大まかな未来を視る店です。視た内容、聞いた内容については決して口外いたしません。こちらが署名になります、はい」
たった今署名を書いた誓約書に、男性の署名も書いてもらう。
「さて、いくつか質問させて頂きます。生年月日は?」
「・・・・年の9月28日です」
「知りたいのは何年後ですか?」
「…………何年後、というか、いつ死ぬのかが知りたいんですけど……」
「は?」
嫌だなあ、お客さん。うちはそんな暗いこと聞きにくる場所じゃないですよ。
明るい未来を楽しみにしてる人が来る場所ですよ。
……そんな訳でもないけど。
「すいません、えっと、いつ死ぬのか、で良いんですか?」
「はい。……出来ませんか?」
「いえ、出来ますけど」
出来ないと言われるのは腹が立ちますね。良いでしょう、やってやります。
「わかりました。それでは……」
すうっと息を吸って、目を閉じる。両手を水晶玉な翳し、するりと撫でるように動かす。
すると、手の動きに合わせるように、水晶玉の中に白い靄が集まり、晴れていった。
そこに移されたのは……。
「えー、80歳を過ぎ、お孫さんたちに見守られながら穏やかに亡くなってます」
「………………え」
呆けた顔でこちらを見る男性ににっこり笑いかけた。
「ですので今死ぬ必要なんてないですよ」
「…………え?」
「あ、やば」
言ってから気付く。
完全に、蛇足である。
どういうことか。皆さんも少し考えたらお分かりのはず。
くたびれたスーツ、疲れ切った顔、終電はとっくに過ぎ、こんな怪しげな店に入る始末。
この男性、人生に見切りをつけていた。
どうせこの後、どっかのビルから飛び降りたりするのでしょう?
そうは行くか! この店に寄った後に死なれては、あらぬ疑いを掛けられるかもしれないじゃないか!それくらい考えろ!
そんな思いから付け加えた蛇足であるが、考えを読まれたら大抵の場合は気持ちが悪い。
不快にさせてしまっただろうか、と恐る恐る様子を伺った。
そしてとんでもないものを見た。
なんとも晴れやかに笑っていた。それはもう、周りの空気が明るくなりそうなくらいに。
「そう、そうですね。なんだか、未来があるって聞いて元気が出ました。もう少し頑張ってみます」
そう言って鞄から取り出したカッターナイフを突きつけていた。
「手始めに、お金出して貰えます?」
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