表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スラップスティックトルーパーズ(短編版)

作者: 天酒之瓢


 かくして私は戦いに勝って、彼氏にフラれた。


 彼氏というのは足元に転がる鉄屑の主のことだ。

 これはぜひ勘違いしないで欲しいのだが、まさか殺しちゃいないから。


 ここは仮想(VR)空間。ここはゲーム。

 私たちはメカアクションシューティングゲーム『エイジオブタイタン(AoT)』の対戦モードをプレイし、今まさに私が彼氏をフルボッコに処したところなのである。

 おかげで彼は絶賛逆ギレ100%で、ついでに一方的な別れを告げて仮想(VR)空間から消えやがった。


 勝利とは斯くも空しいものなのか。いや断じて違う。


 そもそもこのゲームを始めたきっかけは彼が私を誘ったことにある。

 恋人をメカアクションゲーに誘うというのだから色気もへったくれもありゃしないけど、一緒にゲームをするのは楽しそうだと思ったから参加した。


 最初はもちろん彼のほうが上手くて、そりゃあ丁寧に教えてくれたものだ。

 メカアクションであるからしてプレイヤーは『タイタニック()フィギュア()』なる巨大ロボットに乗って戦うのだけど。

 彼が自分の機体を見せびらかして得意げになっていたことは今でも良く覚えている。


 そんな彼にとって誤算だったのは、私が付き合いを超えてAoTにハマってしまったことだろう。

 昔から熱中すると止まらない性質たちなのである。それにほら、銃火器をぶっ放すのって楽しいじゃん?

 てなわけでガンガンいっちゃった結果、気づけば私は彼よりも強くなっていた。


 最初は彼のサポートから、そのうちに隣で一緒に戦いはじめて、やがて彼を置いて前に出た。

 実際そのほうが勝率も良かったしね。

 立ち位置は変わったけど、今度は彼がサポートしてくれると思っていた。

 ――私だけがそう思っていた。


 でしゃばるな。彼が怒り出した時、私は何を言われているのか良くわからなかった。

 他にもあれこれと言っていたけど、つまるところ私のほうが強くなったのがお気に召さなかったらしい。


「だったらちゃんと腕を磨けば良いのに」


 結果的にその言葉が宣戦布告になってしまったけれど後悔はしていない。

 それからは売り言葉に買い言葉。ついにサシの戦いで決着することになって――。

 冒頭に戻る。


 空しい。

 それから一日たった今、私は襲い来る空しさを噛み締める作業に忙しい。

 この際、元彼のことはどうでもいい。奴との思い出は秒単位で記憶から削除中だ。


 悩みの種なのが私の手元に残ったゲーム、AoTだった。

 まだ私の中には熱がある。何なら今だって気分転換にサバイバルモードで暴れるのも良いかな、なんて思うのだけれど。


 問題は、ここには元彼――もといあの鉄屑野郎がいるだろうことだ。

 さすがに昨日の今日で顔を合わせたくなんかない。

 遊びたいけど遊べない。なんとも言いがたいジレンマが私の足を止めて、よりいっそう気が滅入ってしまう。


 でも、転機はすぐ近くまで来ていた。


「エイジオブタイタン……2!?」


 続編である『エイジオブタイタン(AoT)2』が発売されたのである。


 前作から対戦要素を受け継ぎつつ、最新の創世関数ワールドジェネレイトエンジンを導入。

 舞台となる惑星、丸々ひとつを再現したなどというとんでもない意欲作である。


 るしかない。でも鉄屑野郎とは顔を合わせたくない。

 だったら、取るべき道はひとつだった。




 ――仮想現実(VR)接続器を起動して没入ダイブする。

 暗闇を抜けると仮想空間であった。それも殺風景なコンクリ打ちの部屋。


「ようこそ傭兵支援組織『ビーハイブ』へ。我々はあなたの参加を歓迎いたします」


 慣れたもので、適当な椅子へと腰かける。机を挟んだ向こうにはいかにも職員ですと言った風貌の男性がいて、にこやかに話しかけてきた。


「それではご説明いたします。あなたには傭兵として様々な依頼に対応していただくわけですが……」


 私が黙っている間も、職員は手元の端末で何かを確かめていて。ふと片隅に目を止めた。


「ふむ。あなたには既に戦いの経験がおありのようだ」


 ぽん、と気の抜ける効果音(SE)とともにウインドウが浮かび上がる。


『前作のプレイヤーはアカウントの一部資産を引き継ぐことができます。引継ぎを行いますか?』


 なるほど、普通なら当然『はい』を選ぶところだろう。でも私は決めていたのだ。


「新しい人生アカウントを、作ります」


 前作の資産はもったいない気もするけれど、腕前は失われない。

 これからは私が、私のためにゲームを楽しむ番だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世に平穏のあらんことを 世に平穏のあらんことを [一言] これは…なかなか面白い…良い…
[良い点] ラストのセリフ >「新しい人生を、作ります」 かっこいいぃーっ!。おねえさま、素敵っ!。 おっとこ前ですね。渋いっ!。 腕前は失われないからと、前の財産に執着せず、潔くゼロから始めるとか。…
[良い点] 世に平穏のあらんことを [一言] あふれ出るAC感がフロム脳患者にはたまりません! VRでロボット物というのもあまりなかったかも。 是非続きが読みたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ