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仲間との旅のはじまり

 あたしたちはお互いの身分証も何もかも交換して、魔導師のはずのあたしは戦士に、戦士のはずのルミは魔導師に偽装して旅立つことにした。住んでいた街は魔王の棲む洞窟からは遠く離れていたので、最初のうちは何の苦労もすることはない。


 たとえば、ゴブリン。

 ルミが全力で殴っても痛くも痒くもない様子だが、あたしが剣で威嚇しただけで逃げていく。


 ……威嚇だけで逃げられるのも、なんかフクザツな気分だけど。


 そんなこんなでルミはどんどん魔力が上がっていくし、あたしはどんどん体力が上がっていく。

 ほんとお役所仕事って、何考えてるのかしら。どう考えても逆じゃない。

 でもまぁ、仕方ないものは仕方ないのかな……。





 それにしてもそろそろ路銀も乏しくなってきたし、ギルドに登録した方がいいかな、なんて軽い気持ちで仲間探しと仕事探しに登録したギルドで事件は起きた。


 「あなたたち、身分証が逆ね?」




 さすがに、バレちゃー仕方ない。世界中の役所やギルドへ連絡が行くそうだ。罰金とかなければいいな……。


 決められた職業をこなすしかない――あたしたちは半ば絶望しながら、本来の装備と身分証に戻し、お互いが補い合う形で修行を積むしかないという結論に達した。


 とはいえ本当にあたしは体力バカ、魔力もなく詠唱する呪文もロクに覚えられないという酷い状況にあまり変わりはない。


 それでもなんとかあたしが少しずつ呪文を覚え始め、簡単な魔物なら倒せる程度にはなり、ルミも多少は剣が扱えるようになった頃、登録しておいたギルドであたしたちに興味を持った女性が旅に同行したいと申し出てきた。


「ハツネと申します。貴女がたの不足部分を補えそうで、是非ご一緒させていただきたいと思います。

 僧侶としては並レベルだと思います。呪文は一通りそつなくこなせる程度だと思います。」


 女3人で旅をするなんて面白いね、などとはしゃいで、どのみち僧侶は必要だったのであたしたちは当然了承する。




 いつものように3人で剣や魔法の修行をしているとき、あたしは違和感を覚えた。ハツネは自分のことを僧侶だと言っていたはずだ。そして、呪文は一通りそつなくこなせるとも言っていた……が、僧侶らしからぬ呪文を、そつなくというレベルではなく、まるで歌うように詠唱する。僧侶としての呪文の詠唱レベルは……悪くはないのだが、正直なところ、あたしたちにも詠唱できなくはない程度のいわゆる「教科書レベル」。


 不審に思ったルミが、さすがにハツネを問い質した。


「あなた……本当に僧侶なの? どう見ても魔導師としての詠唱能力の方が高いわよ?

 あたしは魔法の成績は良かったの。だけどあたしに詠唱できないような魔法を軽々と詠唱しておきながら、

 僧侶の方の呪文だとあたしよりレベルが低い、としか思えない。」


 ハツネは軽く返す。


「あなたたちだってわかってるでしょう? あの役所のシステム。私だって、てっきり魔導師になるモノだとばかり思っていたわ。

 けれど、僧侶だと言われたんだもの。そうやって生きて行く他ないじゃないの。」


 ……それもそうか、とあたしたちは納得し、旅を続けることにした。




 それからあたしたちが旅を続けて行くうちにわかったことだが、役所に決められた職業というのはただの公称でしかなく、魔導師が殴りかかろうと僧侶が攻撃呪文を使おうと特に問題はない。ただの身分証の肩書き程度のもの。


 ――何を悩んでいたんだろうね、と3人で笑いながら旅を続けて行く。

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