決意新たに
村長をふんじばって村役場に突き出して、そのまま元来た道を引き返そうとするあたしたち姉妹に、ハツネが言った。
「あなたたち、ご両親は健在?」
「え、まぁ旅に出てからは連絡取ってないけど、生きてるんじゃない? 死んでたら連絡来ると思うし。」
あたしはそう答えて、ハツネが少し寂しそうな目をしていることに気付いた。が、黙っておくことにした。
「そう……せっかく自分たちの故郷まで来たのに、会って行かなくていいの?」
確かに、そうなのよね。会わない理由も、ないといえば、ない。だけど……。
「「なんだか、会うと決意が崩れそうだから」」
あたしたち姉妹は、双子らしく、ハモった。
「ほんとは、うち寄って行かない? なんて、言いたいんだけどね。魔王を倒すー! なんて言って出てきといて、帰りづらいよ。えへへ。」
「倒すまで帰らないとも、言ってないんじゃない?」
「それはそうなんだけどさぁ、イヤミ言われそうで、ヤだ。」
女3人寄れば姦しい、とはよく言ったもので。
くだらないおしゃべりは、いつまでも続く。
今朝食べた料理だとか、好きな食べ物だとか、学生時代の友人のことだとか。
そういえば、あたしたち姉妹の村には、名物料理がない。
隣町は、シーフードのなんとかかんとかがたくさんある。
それに、港町だから、船も出る。
……魔王討伐に成功して、やることがなくなったら、村興しでもしてみようかな?
あれ? そういえば村長がやってたのって、ある意味村興し、だったの?
「そういえばさ、ハツネは、ご両親は健在なの? 出身は?」
あたしは何気なく、本当に何気なく訊ねた。
「あたしの……あたしの出身は……都の孤児院よ……。」
ハツネは泣きそうな顔で答えた。
「ご、ごめんなさい! 悪気はなかったの!」
「いいの、アキちゃんは知らなかったんだから。もっと早くに話すべきだったかもね。
親の顔も覚えてない。魔王封印の旅で亡くなった、って聞いたけど、どうとでも言えるから、わからないわ。
形見は、100年以上前から伝わってるっていうこの分厚い魔術の本。禁呪指定された呪文もたくさん載ってる。
封印の呪文が使えるのは、その本を全部覚えてるからよ。子どもの頃から、ずっと読んでるから。
でも、全部の呪文が使えるわけじゃないの。魔力が足りなかったり、道具が足りなかったり。」
禁呪指定された呪文まで、全部……。
あたしたち、とんでもない子を仲間にしちゃったのかも。
味方にいると心強いけど、敵に回したくないタイプ。
「ねぇアキちゃん、ルミちゃん。
いま、あたしのこと、怖いって思ったでしょ?
一緒に旅するの、やめる?」
「「怖くなんかないわよ!!」」
「嘘でも嬉しい。
ありがとね、2人とも。」
あたしたちの旅は、まだまだ続く。