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呪魔祓い—Believe in your honesty—  作者: 弱酸
01. 新緑の青き見習い
5/19

美しき別れ或いは過去逃避(3)

    3


 彼女はダイニングへ向かった。

 ダイニングではすでに、両親が朝食を共にしていた。

「おはよう」

キララは、朝母親を目にしたらおはようの挨拶をするというルーチンを今日もこなした。

 そして、当然のようにして「おはよう」と返ってくるのであった。


 今日の朝食はこんな感じ

 ・トースト

 ・水鳥のムネ肉ソテー

 ・水鳥の卵のスクランブルエッグ

 ・コンソメスープ


 この小さな港町レヴィンスに伝わる伝統的なパンは「ケム」と呼ばれ、この周辺で栽培される麦の品種と独自の製法により、一般的なパンと比べて重い。つまりフワフワはしていないのだが、その代わり柔らかくモチモチしている。

 また、この町を流れるイーセルベル川の上流と中流の間には、農家が多くの溜池を作っており、その池で各農家が水鳥を飼育している。この水鳥の肉が、町の港に寄港する船乗りたちや、この町を訪れる旅人の間で、独特な癖があるということで大変好評であり、水鳥の燻製がお土産として人気だ。


 キララは、朝は胃が硬いのかわからないが、朝のキララは少食である。

 この事実を再三母に訴えてはいるのだが、「キララはお昼前にいっつもお腹空いてるんでしょう」という、これまた否定のしようもない証拠を突きつけられ、ぐうの音も出ない。

 かくして、キララはこの朝ごはんを半ば苦行であるかのようにして、胃に詰め込まざるを得ないのである。


 キララがかつていた父の隣の椅子に座った――父の瞳が視界に入らないように


 母が話しかける。

「今日は何時に寝たの?」

「さあ、十一時くらい」

「まーた遅くまで本を読んでたんでしょう。明日は朝が早いから、十時には寝なさいって言ったじゃないの」

「えー、だって普通十時になんて眠れるわけないでしょ」

「あなた船の上で眠ってから、海に落ちないようにしなさいよ」

「大丈夫、昨日は3時間も昼寝してるから。って、どういう寝方をしたら海に落ちるの⁈」

このツッコミを母は華麗にスルーした。そしてまた母が尋ねる。

「もう準備はできてるよね?」

「うん大丈夫だよ。昨日のうちに全部できてるから。あとは……。ああ、歯磨きセットか」

「まあ、何か忘れたとしても、お世話になる賢人のお屋敷はマーチスの街の近くなんでしょう? ここよりもいっぱい店があるんだから、向こうで買えば済む話よね」

「うん……、まあ……、そうだけど、修行中にそんなにしょっちゅうに買い物とかいけるものなのかな」

「ほら、あなたよりも先に修行に出たお姉ちゃんは、なんだか色々楽しくしてそうなお手紙をよく寄こしてるじゃない?」

「それはたまたま……、規則の緩い賢人にお世話になってるからじゃないの?」

「さぁ、どうなんだろうねぇ。そうだ、あなたも一週間に一回くらいは手紙をよこしなさいよ。ちゃんと返信するから。便箋と封筒と切手も貴方の鞄の中に入れておいたから」

「ん―――もぉ、わかってるよぉ。しつこいなぁ!」

キララは半ば、面倒臭そうに若干の反抗期が入り混じったかのような口調で応えた。それと同時に、キララはゆっくりと、今日で最後になる母の作った朝食を口に運んでいく――いつもと同じ、お母さんの手料理なはずなのに、今日は特別な味がしているような気がした。


 

回想


 キララには、4年前に先に呪魔祓いの修行にでた姉、アカリがいる。

 何かと考え込んでしまい、親しいと言える友達のいないキララとは打って変わって、姉アカリは表裏のない性格の持ち主。明るく気さくで、それでいて女性としての儚い美しさがある。キララの自慢の、そして尊敬する姉だ。


 アカリが呪魔払いの修行に出る当日、母とキララは港まで見送りに行った。

 蒸気船が出航する前、家族は別れと立ち会っていた。


 母が切り出す。

「これから中々会えなくなるんだから、一週間に一回ぐらいは手紙をよこしなさいよ。お母さんもキララも必ず手紙を返すから」


「大丈夫。心配しないで母さん。

 無理はしないから。

 私はこれからもずっと変わらず元気だよ! 」


 アカリは母の肩をギュッと柔らかく、そして力強く抱擁した。

 

 そして、瞬月は地面に膝をつき、キララの目線と同じくらいになると、キララを抱きこみ、耳元で優しく呟いた。


「いい? 

 自分を見失わないこと。

 キララの人生はキララのものなの。

 しっかりと、自分の脚で人生を歩むのよ。

 これはキララとお姉ちゃんとの約束なんだからね」


「わかったよ、お姉ちゃん。約束する」


「ありがとう」


 アカリはキララの頰に優しいキスをする。

 冷たい海風が二人を打ち付けているのに、蒸気船の下にいる二人の少女は温もりに包まれていた。


「お姉ちゃんは、ずっとキララのそばにいるからね」


 アカリのほおを涙がつたっていた。


——回想終わり


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