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呪魔祓い—Believe in your honesty—  作者: 弱酸
序章
1/19

プロローグ

ある邸宅の地下室にて



「一体僕が何をしたというんですかっ!!」


 傷だらけになった青年は尚も叫ぶのであった。既に青年の体は限界に限界をきたし、彼の下には血だまりがもう既に出来上がっていた。終わりゆく、朽ち果てさせられる生命


青年の周りを12人の大人が囲んでいる。そのうちの一人No.2が言うのであった。

「全く君は、諦めの悪い人間だねぇ。

 いい加減君は自らに課せられている運命を受け入れてはどうかね。

 君のようなそもそもこの世界のものですらない得体の知れない人間が、世の均衡を壊すほどの力を持ってしまっては、我々の目指す安定と秩序に恵まれた世界は達成し得ないのだよ」


「別に……、別に僕は望んでこの世界来たわけじゃない!

 それに、約束したじゃないですか!

 あなた達が世を治める暁には、私は二度と姿を現さないと!」


No.2は視線を若干右上にやる。

「ぁあー……、あれか。あの話はナシだ」


「えっ?!」と、青年は絶望の表情を見せる。


「そりゃそうでしょう、君。

 得体の知れない人間が本当に約束を守るなんて思えない。

 それにその約束を我々が守ったところで一体我々に何のメリットがあるというんだい?!ん? 」


「そ……、そんな!

 この僕に一度でも約束を破るようなことがあったか?!

 僕は……、僕はずっと、みんなに受け入れてもらうためにこうやって精一杯頑張って来たんだ。この世界の住人でないからこそ、何の後ろ盾もない自分だからこそ、僕はここまで頑張って生きて来てんだ!

 それが全部無駄だって言うのか?!」


「あぁ、無駄さ。全部何もかんも無駄。全てひっくるめて無駄。

 今尽き果てると分かってる命に対して注ぐ価値なんてこれっぽっちもないのだよ。

 それに我々がこれから生み出していく世界において君のような尖った人間は危険極まりない。我々が欲しいのは、角の取れた人間だけなのだよ」


 青年は頰に涙を流し始める。

「そんな……、そんなっ……。

 あんた達だって知っているだろ! この世界で一番多くの呪魔を倒して来たのが、僕だってことを!

 僕がいなければ、今頃あんた達の命だって危うい!

 それなのに……、どうして……、どうして一番頑張って来た人間がこうも虐げられなきゃいけないんだっ!!」


その時、後ろからパジャマ姿の幼い少女の声がした。

「リーベル……、リーベルお兄ちゃん! お兄ちゃん、なんで怪我してるの。

 ねえ、お父様! 早くリーベルお兄ちゃんを助けてあげて!

 怪我しているわ!!」


すると、12人の大人のうちのまた一人No.4が、彼女の元へ行き、自らの体で青年の惨劇を隠した。

「マイトへイヤー、ここへ来てはならないと言ったじゃないか。

 それにもう夜だ。子供は寝る時間だ

 早く戻りなさい」


「で……、でもっ!! リーベルが、リーベルお兄ちゃんがぁ!!!」


少女の顔は既に涙でぐしゃぐしゃになり始めていた。


すると、12人のうちのまた別の一人No.7が口を挟む。

「全く……、お宅のところのお子さんは躾がなっていないのではないですか?

 あなたのそのような態度が子供を付け上がらせるのです」


「うるさい!! 子供の前でそんなことを言うな! 少しは口を慎め!」


 No.7は、顔をむっとさせ、右頬を引きつらせる。


「そんな甘ったれた態度でいるから、あの男もあーやって付け上がった態度をとっているんだ!!

 そもそも……、あの男はあんたのところの娘に色情があったんじゃないのかい!!

 あんたのそのはっきりしない態度が、こうやって事態をてこずらせているんだっ!!」


その時血だらけの青年は残された力で力一杯叫んだ。


「マイトへイヤーーーー! 逃げるんだ! ここから逃げるんだ! 君は生きるんだぁ!」


「黙れ!! 小僧がぁ!!」


 No.9がそう叫びながら、黒革の大きなブーツで彼の背中を後ろから思い切り踏みつける。


 ドゥグォアッ!!

 青年は海老反りになって地面に叩きつけられる。口からは血が吹き出る。

 もはや、虫の息と化しつつある青年の生の息吹


 No.4は少女の額に自らの手をやり、一息で眠らせた。


「全く、こいつは散々てこずらせてくれるねぇ」

No.11が言う。


すると、No.12が

「おい、あんたまだ息してるんだろう? どうだ、そろそろ最後の言葉ってのを私たちに聞かせてもらえはしないか? 」


 ボロボロの青年はかすかに動き始め、やがて自らの力で起き上がり始めた。

 No.9が再度蹴りをいれようとしたが、No.1がそれを制止した。

 不敵な笑みを浮かべる青年は、地面に落ちていた自らの銀剣を手に取り、叫んだ。


「こんな世界、とっとと滅んで仕舞えばいいんだ。

 お前達に何ができる、笑わせるな。

 自らが無能の徒であることにいい加減気付くんだな!

 こんなくだらない連中しかいない世界に価値なんて無いんだ!

 お前達が例えどんな世界を作ろうとも、俺は自ら呪魔の王となって、世界を恐怖のどん底に叩き落とすだろう。

 どれだけ時が経とうとも、俺はお前らの作った世界が滅ぶまで呪い続けてやる!!」


青年は自刃した。



   ◇



 はっと、大窓の側の椅子に座っていた銀髪の老女が目を覚ました。

 あたりはもうすでに暗くなり、部屋の中をヒンヤリとした空気が包み込んでいる。

 テーブルの上にある飲みかけのハーブティはもうすっかり冷えていて、読みかけの書籍は、しおりがたまたまその役割を放棄していたことにより、どこまで読んだかわからなくなっていた。

 老女の座る椅子の斜め前には、大判ストールを腕に抱えた童児が立っている。

 満月の月明かりは、大窓の前にいるたった二人だけを照らしている。


「まったく……、私としたことが、まさか忘れたはず過去の夢を見るなんてねぇ」


 そう言いながら、老女は少年からストールを受け取るとそれを自分の肩に羽織った。

 童児は、椅子に座っている銀髪の老女に顔を寄せ、老女の服をその小さな手で掴んでいた。白髪の老女は、童児の頭に優しく手をやる。

 童児は老女の温もりを感じ、老女も童児の温もりを感じている。


「ずっと過去から逃げつ続けて、忘れ続けても逃れられない。

 私に人生はあの時からずっと時計の針が止まったままなのよ。

 そう、ちょうど貴方のようにね」


 童児はいつも通り何も答えない。

「あなたが何も答えなくても、私の話をよく聞いてくれることはよく分かってるわ」


 童児は顔をより深く埋める。


「そうね。ここにずっと居たままだと、体が冷えて風邪を引いてしまうわ。

 さあ、部屋を出ましょうか」


 銀髪の老女は椅子の横にかけてあった銀色のステッキを持ち、ゆっくりと腰を上げ、童児はスッと老女から顔を離す。立ち上がった老女は大窓越しに外を眺めた。

 いつになく眩いほどの満月が、山々を木々をかすかに照らすことで、それらの所在を明らかにし、川の流れは、キラキラと満月の姿を朧気に描き出していた。


「もうすぐ果て行く私の命

 時計は止まっているのに命は次第に終わり予感を告げて来ているの

 だからね、私、死ぬ前くらいは勇気を持たなくちゃって、止まった分だけ時計の針をうんと動かさなくちゃって、

 そう思ったからこそ、こないだの私は、あんな決断を下したの。

 何だかねぇ、自分の心の内を覗いちゃったみたいなのよ。

 あの人を助けだせるのは私しかいないんだって」


 満月を横切る黒い雲のシルエットは、いつになく速く通り過ぎていくような気がした。

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