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1.DTCO

 翌日の朝。

 自宅近くにある個人経営のゲーム屋に到着すると、丁度自動ドアを抜けて外へ出てきた顔見知りのおじさんが見えた。


「おはようございます、おじさん。」

 何時ものように気さくに挨拶を行うと、新作ゲーム。つまりDTCOの張り紙を目立つ自動ドアに張り付けてようとしていたおじさんが、振り返って一瞬苦い顔をした。


「おう、坊主じゃねぇか。まだ開店前だぞ……?」

 「えっ」と、驚きに声を漏らしながら、もう春だというのに寒がりのせいで着ている長袖を咄嗟に捲り、腕時計を確認する。

 すると開店時間が10時なのに、まだ9時を少し回ったところだった。


「あちゃー……。ちょっと楽しみにし過ぎちゃったかな……。」

「ははっ、変わんねぇな坊主はっ! そんな顔すんなって、この紙貼るの手伝ったら入店させてやるよ。」

「本当ですか!? 手伝いますよっ!」

 目の前に餌があるのに食いつけない犬のような顔をしていたのだろうか。少し恥ずかしいがここはおじさんの言葉に甘えさせてもらおう。

 財布しか入っていない肩掛けのカバンを揺らしながら、お店の前まで行くと、渡されたDTCOの紙をドアへ貼って行ったのだった。





「7800円だ。」

 あの後数枚張り紙を終えると、まだ電気の付いていない店内に入り、並べられる前の段ボールに入ったDTCOのパッケージを手に取ってカウンターへ持っていった。

 財布から取り出した1万円をおじさんに手渡すと、お釣りと同時にレジ袋に入ったDTCOのパッケージを受け取った。


「ありがと、おじさん! また来るね。」

「おう。次は時間に気ぃつけろよー。」

 僕は受け取ったDTCOを鞄に入れると、店を出ておじさんと別れた。

 ウキウキ気分のままスキップをしそうになりながら、自宅へ戻っていった。





「おかえりなさい、真。」

「ただいま、母さん。」

 自宅の玄関に入ると、たまたま廊下を通っていた母さんが薄く笑みを浮かべながら挨拶をした。

 昔から美人だとは思っていたけど、やはり30代には見えない。聞いてみても特に美容など過剰にはしていないらしい。

 僕も挨拶を返すと、靴を脱いで廊下を歩き階段を上ると、二階にある自室に着いた。

 6畳ほどの広さで、エアコン、テレビが付いている、中々の部屋だ。

 そして木製のベットの敷いたままの布団の上に、ちょこんと置いてある黒いヘルメットの様なVR専用ハード。詳しくは分からないが脳波を感知して動作するらしい。

 僕は早速ゲームをプレイするために、提げていたカバンをテレビの近くに立てかけると、右手に持っていたビニール袋からDTCOのパッケージを取り出す。

 ビニール袋をゴミ箱に丸めてシュートしながら、パッケージを開き、中のVRチップと呼ばれているひと昔前のカセットと言えるものを取り出すと、ベットの上に置いてあったVRハード〈GEZU(ゲズ)〉を持ち上げ、後頭部辺りをちょこちょこと操作する。

 少し時間が掛かったが、無事にVRチップを挿入することに成功し、あとは被るだけだと横たわるが、そういえば昼ご飯いらないと言っておかなければいけないのだった。

 何故かって言うと、初日くらい長く楽しみたいからね。


「母さーん、今日お昼ご飯いらないからー!」

「はーい。夜ごはんは食べるのよっ。」

 二階から大声でそう言うと、今からゲームを楽しみますよーという僕の心を見透かしたような優し気な母さんの声がそう帰ってきた。

 僕は最後の項目を終えると、ベットに戻り、GEZUを被り、側頭部にあるスイッチをカチリと押して目を瞑ると、昨日の夜のようにだんだんと意識が遠くなった。




『DTCOの世界へようこそ。あらすじを説明しますか?』

 若干機械寄りの女の人の声と共に、僕は気が付いた。

 周囲を確認すると、視点だけが動き、体などは存在していないようだった。まるで眼球だけがここにいる感じ。

 周りは白い。ただただ白い空間だった。

 そこに先ほどの女の人の声が、正面にそのままテロップとして表示されていた。

 あらすじか、ゲームを楽しむためには必要だな。ここ逸る気持ちを抑え、話を聞いておくことにした。


『今からログインする世界は、資源の豊富なエルキュア大陸。魔王より城と下僕をいただいたプレイヤー様は、城を他の大陸の魔族や、魔族のプレイヤー様を討伐せんとする勇者達を迎え撃つことがこのゲームの醍醐味となっております。他にも下僕の育成や資源獲得用に人間達の領土を制圧するなど、様々な事が行えます。』

 なるほど、敵から城を守りつつ下僕などを集め自身の力を強めていけ、ということか。

 大体わかった僕は、次のステップへ進んだ。


『ではDTCO内の名前を入力してください。他者の目に触れる機会がございます。慎重に決定なさってください。』

 僕は目の前に現れたキーパットを、指は無いが指で押す意識をすると、ちゃんと入力出来た。どう云う技術なのだろうか。

 

『〈アーティア〉様でよろしいですね?』

 その問いにはいで答えると、少し間があって、ちゃんと決定できたようだった。


『それでは最後に、最初に使役する下僕を選んでください。なおアバターはリアルに基づいて作成されます。』

 機械音声がそう言って途切れると、目の前にその下僕の特徴を表した文章と、見た目が表示された。

 しかしどれも気に入らず、次々にスワイプしていくと、頭に犬のような耳を生やし、右腰に一振りの刀。そして薄紅色の着物に袖を通した美少女が表示された。

 端正な顔立ちだが、どこかあどけない表情は、僕の心を簡単に射抜いた。

 すぐに情報を見てみると、


・────ステータス────・


『名〈─入力してください─〉』

『種族:〈人狼種:獣耳が特徴、鼻が利き、耳も良い。〉』

『特性:忠義〈使役している主人の想いを強さに変える。〉』

『装備可能武器:〈刀〉』

『攻撃速度:〈速〉』

『ダメージ:〈低〉』

『耐久力:〈中〉』

『忠誠心:〈高〉』


・─────────────・

 性能は悪いのかいいのかは良く分からないが、完全に惚れた。この子にしよう。何があっても使い続けるんだ。

 僕はそう決心すると、決定を押し、人狼に名前を付けた。

 

「シルヴィア、それが君の名だ。」

 入力を終え、僕の視界が再びフィードバックしていく中、シルヴィアと思わしき可愛らしい声が、僕の頭に微かに響いた気がした。

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